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『採用内々定』も軽視しないで(その1)~キャリコンに必要な法知識(職業理解、環境変化の分析把握)~

この国の実務界には、さまざまな求人慣行があります。そういったものに精通することも、「伴走者」としてのキャリコンの役割でしょう。たとえば、「新規学卒一括採用」※①もその一つ。そうしたなかに「内々定」があります。新規学卒一括採用における(申し合わせ上の採用内定日での)正式な内定通知書交付(内定式)以前に、使用者(企業)がする当該学生の採用を事実上決定した時点での口頭での通知のことです。

しかし、(「内定」の場合とは異なり)採用内々定の段階では、いまだ労働契約(『始期付解約権留保付労働契約』といいます)の成立は否定されるのが一般です。なぜなら、この段階では求職学生はいまだ他社との就職活動を継続し、複数の内定を得られる状態にあることが多いからです。他方で使用者側も、正式な内定通知書の交付はその後の内定式で行うとの意向であること等が実態であるから、だとされます。

もっとも、労働法の解釈は形式や文言等にとらわれることなく、あくまで実態や具体的な事実関係に基づき行われます。そこで、使用者側から求職学生に対し採用を確信させるような具体的な言動があり、しかも研修等に呼び出すなど他社への就活を妨げるような事実上の拘束がみられたときには、この内々定の段階でもって「始期付解約権留保付労働契約」が使用者と(求職)学生との間に成立したものと解されてよいでしょう。

さらに、申し合わせ採用内定日前であったにも関わらず、使用者が学生に「書面」で内々定通知を発し、「入社承諾書の返送」まで求めたとの事案がありました。それを受け、学生たちもその時点で就活を終了したり、あるいは内々定を受け、最終面接を受けていた他社に断りの連絡をしました。ところがその後、使用者側が業績悪化を理由に「採用『内々定』取消」を一方的に通知したという事件がありました。学生側の思いは裏切られました。

そこで、裁判所は概要、次のように判示しました。すなわち、内々定通知の段階で、学生・使用者側いずれも確定的に当該企業に就職する、また採用するとの意思表示をともに行ったものとは言えない。現実に学生は複数企業から内々定を受け、使用者側もまた学生の辞退を見込んで多めに内々定通知を出すのであるから。したがって、内々定通知の段階で労働契約が成立したとは言えない、と。

※① その背景には「学校から仕事への円滑な移行の促進」との目的があります。それは、優秀な若年労働力の安定的確保を欲する使用者(企業)ならびに速やかな経済的安定を求める学生双方にとって、好都合なものでした。

(続く)


プロフィール


(オイカワ ショウヨウ)
『地域連携プラットフォーム』に勤務の傍ら、某大学の研究所に所属。
複数の国家資格を有し、また『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある。