なぜ『技能』士? 技術士でなく(その2)
1.キャリアコンサルティング技能士
厚労省のHPでは、技能検定は「働くうえで身につける、または必要とされる技能の習得レベルを評価する国家検定制度」と定義しています。そのうえで「キャリアコンサルティング技能士」をどう考えるべきでしょうか。それが、このキャリアコンサルティング技能検定(国家検定)に合格した方をいい、その技能検定では実務経験年数が受検要件として設定されているところに興味を覚えます。言い換えれば、この試験が「技術士」でなく、「技能士」と位置付けているところにです。
つまり、その求めているものが技術知(形式知)ではなく、実践知(経験知、暗黙知)であり、普遍的な学術的知見よりも、実務経験で培ったその人独特の経験や勘に重きを置いているものとみて取れます。このことは、実務経験3年以上を受験資格にするキャリアコンサルタント国家試験の発想(養成講習なら150時間も)にも共通するもののようです。要は、内容的に「習うより慣れよ」に重きを置いた性質の試験だということでしょうか。
2.キャリアに関する理論
にもかかわらず、そこにカウンセリングの技能の他に、キャリアに関する諸理論に関わる出題があります。そのことをいかに理解すべきでしょうか。たしかにパーソンズの職業選択理論、フロイトの心理学的構造理論、あるいはギンズバーグやスーパーの職業発達理論、さらに昨年、弊校でご講演をいただき、大好評を博したダグラス・T・ホール博士のプロティアン・キャリアなどの理論家がしばしば問われてきました。
そもそもこの試験は、「技能」という経験重視、すなわち場面別や状況別の対応、あるいは問題意識に基づく演習によって培われるスキルを問うはずのものなのに、なぜ理論なのでしょうか。両者、一見なにやら相矛盾することのようにも思われます。果たしてそこに、出題者のどのような意図があるのでしょうか。その解は「養成講習」につき国が、当該理論および技法の有用性や信頼性の評価が一般的に確立されている内容を扱う、としているところにあるような気がいたします。
3.キャリアコンサルティング観
思うに、この試験が主に「技能」を問うためのものだと仮定しても、それらの理論も同じく「キャリアコンサルティングを行うために必要な知識」だと、出題者がとらえていることに相違ありません。ある研究者も、そうした理論はわれわれ(未経験者であっても)が実施するカウンセリングの結果予測性をより高めるものだと唱えています。言い換えれば、経験主義のウエイトを軽くする(新たな未経験事案に対する対応への戸惑いを補う)ものだとも思われます。
そうしたとき、キャリアコンサルタントたるあなたの現在の実践は、どのような理論に基づき、どのような経験によって裏打ちされていますでしょうか。まさに、単なる場数の多寡を超えた、理論に裏打ちされた一人ひとりのキャリアコンサルティング観が問われているのです。それゆえ、そうした理論知は、それぞれの受験生に課せられる学科試験のみならず、実技試験においてもまた必須なはずです。ますます理論(知識)を学ぶ意義が大きくなりますね。
プロフィール
及川 勝洋(オイカワ ショウヨウ)
『地域連携プラットフォーム』に勤務の傍ら、某大学の研究所に所属。
複数の国家資格を有し、また『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある。