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「解雇」は自由に行えるの?(その2)~キャリコンに必要な法知識(職業理解、環境変化の分析把握)~

(続き)

5.解雇の理由に関する規制(法令による制限)

その他にも、業務上の負傷や疾病による療養、さらに産休の場合などの特別な場合に解雇が制限されます(労基法19条)。また、国籍や信条等による差別的解雇(労基法3条)や労働組合法による不当労働行為(労働組合法7条1号)、さらには女性が結婚、婚約、妊娠、出産をしたこと等を理由とする解雇も禁止です(男女雇用機会均等法9条)。育児や介護といった権利行使に対する報復的な解雇も禁止です(育児介護休業法10条、16条)。裁量労働制を拒否したことを理由とする解雇(労基法38条の4)や労働基準監督署に法違反を申告したことを理由とする解雇(労基法104条)なども許されません。今の時代、どれも当たり前ですよね。

6.解雇理由一般を規制する法規定がなかった

しかしながら、そうした事由にピンポイントに該当しない場合での「解雇」は、野放しなのでしょうか。たとえば、労働者の能力不足や問題行動を理由とする解雇の場合はどうでしょうか。さらに、労働者の態度が生意気だとか、使用者と反りが合わないときなどです。顔が気に食わない、なんてこともあり得ますよね。実は、そうした「理由」で解雇しても、上述の解雇予告手当さえ使用者が支払えば、労基法その他労働法規上では問題とならなかったのです。解雇事由につき、一般的に規制する規定が定められていなかったからです。

7.「解雇権濫用法理」登場

そこで労働法学者の間で、解雇につき「正当な理由」が必要なのかにつき、激しい議論の応酬がありました。この正当事由説は、原則使用者は自由に解雇はできず、例外的に正当な事由がある場合にのみ解雇できるという、憲法25条や27条の趣旨に準じた解釈でした。その結果、「解雇権濫用法理」という見解が多数説になりました。裁判所もまた昭和50年代初めころまでにこの考え方を確立したといわれています。(『日本食塩製造事件判決』-労働判例では、会社名を事件名とするのが慣行-)。なぜなら、戦後すぐの時期ならば、解雇は生存に関わる事態になりかねなかったからです。また、終身雇用制(長期的雇用慣行)が確立した高度経済成長期当時は、再就職が難しかったからでもあります(注③)。そこで、2007年の労契法制定の際にそれが明文化されました。

(続く)

プロフィール


(オイカワ ショウヨウ)
『地域連携プラットフォーム』に勤務の傍ら、某大学の研究所に所属。
複数の国家資格を有し、また『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある。