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パーソナリティ理論①「自分の体験=現実」編



クライアントを含むひとを、どのような存在として認識しているのか。これについての考えを「パーソナリティ理論」や「人間観」などと呼びます。
心理カウンセリングなどの心理学的理論に依拠する支援は、必ずこれにもとづいて、クライアントの対応をします。
これがなければ、心理支援が、何のためにどのようなことをするのかが明確でなくなるからです。
もちろん、パーソンセンタード・アプローチにも、このパーソナリティ理論が存在します。
この理論をある程度理解すると「無条件の肯定的配慮(関心)とは具体的にどういうことを指すのか?」や「受容的態度はどんな目的があるのか?」などのアプローチの意味が見えてきます。

これから、全5回に渡って「パーソナリティ理論」を解説していきます。
それではさっそく第1回目の導入部から、ご紹介してまいります。

1.「自分の体験=自分の現実」

自分にとっての現実

ロジャーズは、1959年に出版した著書のなかで、パーソナリティ理論を下記の内容から記しています。

1.幼児は自分の経験を現実(reality)として知覚している。彼の経験は、彼の現実である。

ロージァズ全集8,パースナリティ理論,岩崎学術出版社,p.226.より(1)

解説すると、ひとは生まれてから絶えず、その赤ちゃん独自の皮膚感覚や聴覚情報処理などの五感を通して、世界についての認識を一つ一つ作っていきます。

そのため、ひとは赤ちゃんの頃から、意識する・しないに関わらず、常に独自に培った物事の感じ方によって、世界を認識しているといえます。

つまり、一人一人が独自に認識する世界は、その人にとっての現実ということになります。

このことから、誰も本人が認識する世界を体験することもできなければ、理解することもできません。

他者は、本人の認識を直接知ることはできませんが、間接的に「こういうことを認識して、こういうことを感じているのかな」と、本人から得られる情報をもとに、本人にとっての現実を部分的に、想像して推測することができます。

ちなみに、このような他者理解の方法について、ロジャーズは「パーソナリティと行動についての一理論」のなかで、次のように説明しています。

命題1において、個人の経験の場を十分に知ることのできる唯一の人間はその人自身である、と述べた。行動は、認知された場への反応である。それゆえ、行動は、その人自身の内側からの視点をできるかぎり入手し、できるかぎりその人の眼を通して体験の世界を眺めることによって、もっともよく理解されるように思われる。

クライアント中心療法,ロジャーズ主要著作集第 2 巻,岩崎学術出版社,pp.327.より(2)

ちなみに、上記の他者理解の方法が、パーソンセンタード・アプローチの「共感的理解」の方法となります。
この導入部からすでに、アプローチにひもづいた内容が展開されているわけですが、クライアントの独自の体験や認識は、他者である支援者はわからないということを大前提に関わり、わからないからこそ支援者は、間接的に知る方法として「内側からの視点」を入手していくプロセスを、対話のなかで行っていくわけです。これこそが「共感的理解」のあり方になっています。


ここまでお読みいただいて、お気づきになった方もいらっしゃると思いますが、ひとの根本について一つ一つ説明する理論なので、逆説的に回りくどい説明になります。
そして、ここからさらに回りくどい説明になっていくので、何卒ご了承ください。


2.「価値づけ」

体験から価値づけてきたことで動機が生まれる

ひとは、生まれつき「有機体を実現していく傾向」(3)というものがあります。

有機体とは、単に生命体とも言い換えられる用語ですが、環境と密接に関わりながら、生命活動を維持・拡大していく存在という意味合いが、強調された表現となります。

たとえば、空腹状態に対して不快さが体内で生じ、食事を与えられる機会に遭遇したことで、生理的に安心感が得られるようになると、食事は不快さから安心感へと変えていく価値あるものだと学習されます。この学習による価値づけを「有機(体)的価値づけ」(4)と呼び、動物一般にみることができます。

このように、環境との関わりから、身体で起きていることが変化することを体験的に覚えていくと、次から、その価値づけにのっとって、不快さがある度に食事による安心感を得ようとします。これが、欲求と呼ばれるものであり、行動の動機と言い換えることもできます。
このことから「実現していく傾向」とは、環境と密接に関わりながら、生命活動を維持・拡大していくために欲求や動機にもとづいて行動する時の、達成しようとする性質・働きを指しています。

また、欲求や動機と呼べるものには、回避を求める性質・働きもあります。

たとえば、毛布におおわれて、身体が暑さを経験する時、その暑さによる不快さから、毛布を身体から離そうとします。
これも、毛布におおわれている状況でじっと不快さに耐えるのではなく、経験的に毛布をどかすことで身体に触れる空気が変化し、不快さが和らぐことを学習した結果だといえます。

このように、さまざまなことを経験しながら、ものごとの捉え方を増やして、行動選択の幅が増えていきます。

そして、その選択の連続によって、次第に身体の機能も変わっていきます。赤ちゃんがハイハイできるように身体が変化したり、立って歩けるようにもなり、やがては言葉という意味のある発声もできるようになっていくのです。

ここまでをまとめると、有機体を取り巻く状況が変わることによって、有機体そのものの状況も変化することを経験的に価値づけ、さらにそうした価値づけから生まれる欲求によって、身体の機能が成長していきます。

ちなみに、環境との相互作用による成長のことを、ここでは「発達」と呼んでいます。

今回は、パーソナリティ理論の導入部をみてきましたが、ここだけでも、ひとは生まれてから絶えず、環境との相互作用から独自の現実を作って、そこに触発されるようにして、バランスをとりつつ発達していく存在であることが伺えます。


【引用文献】

(1)Rogers,C.伊東博(編訳)1967,パーソナリティの理論,クライエント中心療法の立場から発展したセラピィ、パーソナリティおよび対人関係の理論,ロージァズ全集8,パースナリティ理論,岩崎学術出版社,p.226.(2)Rogers,C.R.,1951,Client-Centered Therapy. Houghton Miffl in.保坂亨・諸富祥彦・末武康弘(共訳),2005,クライアント中心療法,ロジャーズ主要著作集第 2 巻,岩崎学術出版社,pp.327.
(3)Rogers,C.伊東博(編訳)1967,パーソナリティの理論,クライエント中心療法の立場から発展したセラピィ、パーソナリティおよび対人関係の理論,ロージァズ全集8,パースナリティ理論,岩崎学術出版社,pp.182-183.(4)Rogers,C.伊東博(編訳)1967,パーソナリティの理論,クライエント中心療法の立場から発展したセラピィ、パーソナリティおよび対人関係の理論,ロージァズ全集8,パースナリティ理論,岩崎学術出版社,pp.206-207.

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