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【読切】箱の君

僕が少年だった頃に
送り主のわからない
不思議な贈り物が届いた。

それは、
大きな立派な箱で

僕が望むどんなものでも
願えばその箱の中にある、という不思議な箱。

僕が最初に願ったのは
かっこいいおもちゃだ。

「かっこいいおもちゃをください」

すると、箱はずっしりと重たくなった。
僕は中に入っているおもちゃを想像して、
ウキウキした。

それで、僕は
すぐに箱を開けることにした。

開けてみると
驚くことに中は空っぽだった。

確かに、箱はずっしり重たくなって、
動かしてみると、中身がごそごそ音を立てていたから
確かにそれはあったはずだった。

しかし、箱はただの空き箱だった。

不思議な箱だったけど、
願えば何かがその箱の中にあるようだった。

しかし、何度開けてみても
箱はやはり空っぽだった。

それで、箱の中にあると思うと
楽しいけれど、
開けてみてガッカリするその箱に

いつしか飽きてしまった。

僕は青年になった。
その頃、女の子に興味を持つようになった。

馬鹿げているけれど、
久しぶりに箱にお願いをしてみた。

「彼女をください」

すると箱から声が聞こえてきた。

「こんにちは。」

まさかと思ったけれど、驚いた。
しかし、少年だった頃、
子犬をお願いした時も
中から子犬の鳴き声が聞こえてきた。

あの時は、
驚いてすぐに開けてしまったから、
やはり箱は空っぽになってしまったけれど、

今回は開けなかった。

僕は彼女と楽しい毎日を過ごした。

箱ごしだけれど。

彼女はお腹が空くわけでも、
トイレに行きたくなるわけでもないようだ。

ただ、「狭い」とは言っていたけれど。

やがて僕は思う。

彼女の顔が見たい。
彼女に触れたい。
彼女を抱きしめたい。

しかし、それだけは叶わない。

僕は彼女を愛していたし、
彼女も僕を愛してくれた。

でも、決して会えないんだ。

僕はやがて彼女がただの箱に思えてきた。

だから、僕は箱を開けることにした。

「何してるの!!やめて!やめて!やめ……」

そして、空っぽの箱がそこにあった。

ただ、

開けてみてわかったことだけど、
彼女との大切だった思い出だけがあった。

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(あとがき)
朝、一人で散歩をしていると
僕は誰でもなくなる。
何も持っていないし、
そこに誰もいない。
僕が僕だと思うのは
記憶だけだ。

でも、今そこにいないけど
大切なひとがいる記憶と
僕という人間の記憶は
僕を幸せにしてくれている。

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