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北海道ガス硬式野球部 創部から全国まで(1) 厳しい冬の時代に

北海道ガス硬式野球部が、創部4年目にして社会人野球三大全国大会の一つ・社会人野球日本選手権初出場を決めました!
野球部の軌跡や注目選手はメディアがしっかり報じるはずですので、ここでは創部前夜から全国大会進出まで、「北海道社会人野球だけ観てる人」の目に映ったものを全5回で綴ります。

第1回はチーム始動までのお話です。

第2回 初年度の爪痕
第3回 企業人の重圧
第4回 初代エース誕生
第5回 無音の喝采は止まず

厳しい冬の時代に

2016年10月29日、京セラドーム大阪。

「これから北海道は厳しい冬の時代を迎えますが……」

そう挨拶したのは、社会人野球日本選手権1回戦で0-1と惜敗したJR北海道の常務でした。(私はUstream組で現地にいませんでした)
札幌は初雪の降る頃。日本選手権本戦が終われば、北海道の社会人野球は長いオフを迎えます。
そうだね冬だね、でも「時代」は余計じゃないかな。

わずかな引っ掛かりを覚えた私は、ほどなくその真意を知りました。
JR北海道が硬式野球部を休止し、クラブチームへ移行することを発表したのです。日本選手権1回戦から1週間足らず、11月4日のことでした。

その年の8月末、北海道は未曾有の豪雨災害に襲われました。
鉄路の被害は甚大で、いたるところで路盤や橋梁の流出が発生。その復旧費用は50億円程、長期不通による減収を含めると損害は100億円近くに上るといいます。
JR北海道の経営を思えば、硬式野球部のクラブチーム化はやむを得ないことと思えました。

企業の福利厚生のおこぼれにあずかる部外者のファンには、経営判断をどうすることもできません。

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JR北海道2016年9月2日報道資料「一連の台風による被害状況等について」より抜粋。

当時社会人野球を見始めて3年弱の私は、クラブチーム化を運営費の削減とだけ捉えていました。
もちろん選手がフルタイム勤務になるなど競技環境は激変するのですが、まだその実感はなく、何より野球界全体へのダメージに考えが至らなかったのです。

クラブチーム化が北海道の社会人野球界に与えた影響は、12月15日のJABA臨時理事会決定事項で思い知らされます。

・2017年度よりJABA北海道大会を東北大会に統合
・2018年度より日本選手権北海道地区最終予選と東北地区最終予選を統合(出場枠2)

どちらも日本選手権選択3チーム(JR北海道、航空自衛隊千歳、室蘭シャークス)が出場していた大会です。
強豪ひしめく東北地区と一緒にされれば、北海道勢の全国大会出場チャンス激減は必至。
同時に、全国のチームと対戦して強化を図る機会が失われることでもあります。

かつての北海道五強…大昭和製紙北海道、王子製紙苫小牧、北海道拓殖銀行、NTT北海道、新日鐵室蘭(※)が姿を消し、2005年(平成17年)にサンワード貿易が潰えた後、北海道地区を牽引してきたのはJR北海道でした。
JRがクラブチーム登録になれば、企業登録チームは航空自衛隊千歳のみ。この10年都市対抗と日本選手権で初戦を突破しているのはJRしかありません。

※新日本製鐵室蘭硬式野球部は1994年に休部し、翌年に登録上別チームである室蘭シャークス(設立から2017年までクラブチーム登録)が設立されています。

我々にとっては非情な決定ですが、より多くのチームで少ない枠を争う他地区と比べれば当然の理。
北海道の社会人野球は文字通り「厳しい冬の時代」を迎えようとしていました。

ただし、この臨時理事会には一筋の光がありました。
北海道地区へ社会人野球企業チームを誘致するプロジェクトに予算が付くことになったのです。

参入の報せは早かった

激震の年が明けて早々、朗報が舞い込みます。
「北海道ガスが2019年の加盟を目指して野球部創設を検討している」と報じられました。年頭の社長訓示で硬式野球部の設立が示され、社内プロジェクトが立ち上がったとのこと。

野球部創設の経緯は、創部式を取材した横尾弘一氏のレポートが詳しいです。きっかけは数年前の株主総会で「北ガスは企業スポーツに取り組まないのか」という質問が発せられたことだといいます。
2016年の電力自由化で小売電気事業に参入し商売を広げる中、経営陣は北ガスグループの一体化を図る精神的支柱、そして新規顧客開拓のための知名度向上を硬式野球部に求めたのです。

報道では参入を検討とありますが、この時点で、数年がかりで正社員25名程度を採用し、札幌市厚別区のガスタンク跡地に室内練習場を整備するという緻密な青写真ができあがっていました。

当初は2019年の加盟予定が、JR北海道のクラブチーム化を受けて加速していきます。
強豪硬式野球部を持つ全国各地のガス会社(東京ガス、東邦ガス、大阪ガス、西部ガス)も北海道ガス参入を後押ししました。
中でも、2012年に野球部を創設し、3年目で都市対抗に出場した西部ガスのチーム運営は北海道ガスの手本となりました。

7月には北海道ガス役員、北海道庁、札幌市役所、札幌商工会議所の合同チームが都市対抗野球本戦、東京ガス対西部ガス戦を視察。
土谷常務はスタンドとグラウンドが一体になる大応援団の声援に感銘を受け「2019年から都市対抗予選に、2022年には本大会へ出場したい」と展望を述べています。

8月には小島啓民氏の監督就任が発表され、12月には第一期内定者が続々と報じられました。
東北福祉大の大砲・寺田和史内野手や、夏の甲子園北北海道代表・滝川西高校の堀田將人内野手、鈴木愛斗投手の入部が判明。いよいよ新チームの形が見えてきたと、胸を躍らせたものです。

1年早い加盟発表、そして発足

2018年3月4日。
日本野球連盟北海道地区評議会が行われ、北海道ガス硬式野球部が4月1日に発足し加盟することが発表されました。

同時に室蘭シャークスが24年ぶり企業チーム登録となることも決まり、北海道地区の企業チーム数は1つから3つに増えることとなりました。
これにより、日本選手権の北海道地区枠の維持(※)は確固たるものとなり、JABA北海道大会単独開催奪還の道筋が開けたといえます。

※日本選手権予選の北海道・東北地区の統合は、2017年のJABA臨時理事会で撤回されました。北海道地区連盟が北海道ガス参入を携えて交渉し、死守したと聞きます

そして2018年4月1日、北海道ガス硬式野球部は正式に産声を上げました。

4月18日には華々しく創部式が行われます。
ホームユニは白を貴重として力強い「KITAGAS」のロゴ。目を引く濃灰色のビジターユニ。

初代メンバー16名は次のとおりです。
(敬称略、太字は2021年6月現在在籍している選手)

◆投手
11 今村 暁人(久留米商-白鴎大)
15 厚地 祐来(正則学園-星槎道都大)
17 清水 洋二郎(函館ラサール-慶應義塾大)
18 鈴木 愛斗(滝川西高)
◆捕手
22 東海林 寛大(札幌日大高-日本大)※主将
◆内野手
2 小栗 研人(横浜創学館-星槎道都大)
3 古谷 友和(北海-北海学園大)
6 大友 祥之(学法石川-立正大)
7 堀田 將人(滝川西高)
9 佐藤 佑樹(函館工業高)
26 上田 純(苫小牧東-小樽商科大)
31 寺田 和史(聖望学園-東北福祉大)
◆外野手
1 紀國 駿介(北見工業高)
5 今井 俊太(北海道志学園高-函館太洋倶楽部)
23 加藤 千尋(琴似工業高)
24 長谷川 寛(仙台育英-早稲田大)

上記のうち佐藤選手、上田選手、紀國選手、今井選手、加藤選手の5名は硬式野球経験のある既存社員、残る11人は新規採用された社員です。(なお、東海林主将は一般採用で入社したと報じられています)
選手達は午前に社業、午後に札幌近郊の公営グラウンドで練習する勤務体制をとります。

初代監督に小島啓民氏、ヘッドコーチに渡部勝美氏。
小島監督はバルセロナ五輪銅メダリストで三菱重工長崎や日本代表を率いた名将。北海道ガス土谷部長が日本野球連盟を訪ねて参入の意思を報告した際、連盟側から紹介されて就任が決まりました。
社会人野球のレジェンドである小島氏ですが、北国の冬は未経験。そこで右腕として招聘されたのが、北海道社会人野球の栄華を築き、大昭和製紙北海道とサンワード貿易で監督を務めた渡部氏でした。

4月19日のNHKローカルニュースは、硬式野球部創部費用に7億8千万円を費やしたと報じています。年間のチーム運営費は約3000万円。(こちらは日経新聞より)
更に積雪期に備えて、11月までに室内練習場を建築することも決定。

デビュー戦を9月の日本選手権道予選に据え、豪華な首脳陣と会社の手厚いサポートに支えられて、北海道ガス野球部は一歩を踏み出したのでした。

隣の芝は鮮烈に青い

私は室蘭シャークス(現・日本製鉄室蘭シャークス)から沼に入った北海道社会人野球まるごとファンです。
北海道ガスの参入は、「数年のうちに道内で太刀打ちできるチームはなくなる」と感じました。
環境が違いすぎるのです。

・優良インフラ企業の正社員雇用
・錚々たる協賛企業群
 (チーム会報を見るとびっくりします…ぜひ入会しよう!)
・実績ある外部指導者の招聘
・半日勤務・半日練習という恵まれた勤務体系
 (北海道の他チームはフルタイム勤務後の練習が基本です)
・室内練習場の新設
 (室内練習場を有するチームはごく少数です。自前のグラウンドはありませんが、現在は岩見沢市の栗沢球場をほぼ専用で借りています)

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北ガスが練習拠点にしている栗沢球場は、岩見沢市栗沢地区郊外ののどかな田園地帯にあります。

北海道ガスの環境はとても眩しかったですね。
だからといって、新参を脅威と恐れたり疎む気持ちはありません。
冒頭に記したとおり、JR北海道がクラブチーム化して北海道の社会人野球は崖っぷちでした。JRは今も全国から新規採用があり強さを保っていますが、当時は野球クラブとていつまで続くか不安しかなかった。

JRに次ぐ北海道2番手であった室蘭シャークスに対し「北ガスが完備されるまでの間に全国大会代表権を獲らなければ、日鉄グループ内の立場が悪くなるかもしれない」という邪念は少しだけありました。
でもね、全国大会を勝ち抜く強さは切磋琢磨で育まれるもの。
井蛙の王になったところで、競争相手の弱体化で成長する地区などないのです

北海道ガスが加盟したことで、北海道地区は日本選手権予選枠を守り、JABA北海道大会の単独開催を取り戻しました。
地区内の競争だけではなく、道内の複数チームが全国の強豪と対戦して腕を磨く機会が確保されます。

また、全国から北海道ガスへ入部する・あるいはJABA北海道大会に集うハイレベルな選手のプレーを身近に観る機会ができること、道産子球児達に北海道の一流企業の野球部員という進路ができたこと、これは北海道野球界の発展にとても大きなプラスです。

北海道ガスの参入には感謝しかありませんし、他のチームはこれからどんどん強くなる北ガスに渡り合う力を付けないといけない、私はそう思っています。

北海道ガスが日本選手権出場を決めた今年、JR北海道が辞退して3チームで代表権を争い、予選方式が1日限りの巴戦になったことは、正直なところ推しチームが敗れた以上に消化不良感がありました。
それでも超短期決戦を正々堂々戦って掴んだ代表権です。胸を張って全国に挑んでほしいと思います。

こうして創部前後の記事やツイログを読み返すと、「2019年に都市対抗予選、5年以内に本大会へ」と掲げていた目標に着実に近づいていることを感じて嬉しくなりますね。
特に初年度から在籍してきた選手、創部を支えてきた方々にとって喜びは一入でしょう。

全国大会出場、本当におめでとうございます!

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【次回】
初めての公式戦、そこから一ヶ月で豹変した日本選手権予選。
第2回は初年度の戦いを振り返ります。

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北海道ガス硬式野球部の公式あれこれ

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