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私を忘れる頃

 ここ数日、今井美樹さんがユーミンの名曲をカバーしたアルバムDialogue を聞いている。この人は歌が上手いが、その実力を押付けて来ないところも聞きやすさの理由と言えよう。ユーミンファンであっても、オリジナルを超えたことは認めざる得ない仕上がりである。

 一人の時間、ソファーに身を投げ出し目をつぶると、彼女の透明感溢れる声と、日常の一瞬を切り取ったユーミンの世界が様々なシーンを蘇らせる。10代の半ばから結婚するまで繰返し聞いたメロディーはどれも口ずさむことが出来る。そして様々な記憶を手繰り寄せて行くのだ。しかし、当時は恋愛の神様と崇めて聞いていたユーミンなのに、思い出すのは女友達のことばかりで、片思い中だった人の顔は忘却の彼方へ。その反面、初めて行ったユーミンのコンサートで、ちょっと背伸びしてヒールのある靴を履いて行ったこと。それを冷やかした同級生が着ていたブルーのニットは、私達高校生に人気のブランドだったことは鮮明に覚えているのに・・・

 Dialogue は曲のチョイスも良く、中でも「私を忘れる頃」が一番のお気に入り。「してあげたくて、できないことが、たくさんまだあるのに」という歌詞に、当時中学2年生だった私は大人の別れとはこうして静かに訪れるものなのだと思った。冬の澄み切った冷たい空気の中に煌めく星々、コンビナートの瞬き、タバコの火に照らされる彼の横顔・・・巧みな情景描写に誘われるままにユーミンの世界へ浸った。

 

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