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母の日に母が濃厚接触者になった話~美しい惰性~



応援していたネットメディアの代表理事がセクハラ・性加害で解任された。

Twitterやネットニュースをひらくと、自分なりの正義を振りかざした人たちによる火まつりが行われている。

人を信じたくない。信じられない。

ああ、どうにも、不安定だ。


いつもちょっと届かなくて
いつもちょっと間に合わなくて

風に吹かれて/クリープハイプ


世は母の日。


不景気な顔をした百貨店諸々が、売れ残った薄桃色から紅の商品に片っ端から紅白の割引シールを張り付けている。



コロナをうつせないから、しばらく実家にも帰れてないな、


そんなことを考えていた午後、離れて暮らす母親からLINEが来た。


「弟の部活(部員20人)で6人陽性が出た」
「弟と私が濃厚接触者になった」

都心で暮らす私よりも田舎の家族が先に脅威にさらされるとは思ってもみなかった。


陽性。

隔離。

自宅療養。

入院。

重症。

呼吸器。

ICU。

後遺症。

さまざまな単語が頭の中で怒鳴っている。
どうしよう。どうしようもないけど。


とりあえず、母が料理をしなくてよいように、とレトルトのおかずを送った。

全員別の部屋で食事をしているらしい。

濃厚接触者として仕事にも学校にも行けなくなった弟と母。
私の大学の学費と一家の家計を突然一人で背負うことになった父。

ひとつ屋根の下、壁で隔てられて食事をする晩餐の、地獄のような光景を思い浮かべる。


私は離れているけれど、どれだけ不安だろう。

不安な時、母は、どんな顔をするんだったろう。
あれ、
いつもなんていうんだったっけ。
あれ、
どう笑う?


そもそも、どんな顔してたっけ。

わからなかった。

一緒にいる時間が長いことに甘えて、存在としてぼんやりととらえるだけで、何にも向き合わなかった。


家族という名の、美しい惰性である。

わかるほど、わかりあえていないことに、気づいてしまった。

パンデミックが落ち着いたら、はやく、実家に帰ろう。

ちゃんと顔を見て、みんなでごはんを食べよう。

p.s.PCR陰性でした。良かったです。



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