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富山マラソンの必要水分補給量予測

 今は秋のマラソンシーズン真っただ中である。マラソンで難しいものの1つが水分補給だ。その必要な量や内容、タイミングは天候によって大きく変わり、これを誤るとパフォーマンスにも影響する。
 前回の筑後川マラソンに引き続き、今回は、11月5日(日)開催の富山マラソンに関する水分補給量を予測する。ただし、発汗によるミネラルの流出量やこれに対応する飲料の種別の予測はここでは行わない。また、あくまで私の身体条件を活かしたモデルケースであり、計算結果や情報等は必ずしもすべての人にあてはまらないこと、したがって結果に対して当方は責任を負わないことに留意されたい。

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富山マラソンのコース概要

 フルマラソン(42.195㎞)コースは、高岡市役所前をスタートして射水市北部(旧新湊市)を通り、富山市の富岩環水公園をゴールとする。20~25㎞の間に、40mの高低差がある新湊大橋を通過することが特徴である。荒天時はこの新湊大橋は通過せず、富山新港を迂回するサブコースを使用することとされている。過去にこのサブコースが使用されたことはない。フルマラソン以外には、高岡市内に車いすのコースが、射水市(旧新湊市)内には4㎞のジョギングのコースがある。
 2023年は11月5日(日)に開催、スタート時刻は午前9時00分である。

 以下に公式HPに掲載の地図を引用した。

▲富山マラソン(フルマラソン)のコース

 コース、周辺の主要スポットを写真で示そう。序盤には、この高岡大仏のそばを通過する。

 中盤には、この新湊大橋の上を通過する(ただし荒天時を除く)。

 ゴールとなる富山環水公園は運河が映えて美しい。世界一美しいとされたスターバックス店もある。

 公式HPに公開されているコースの動画(8分47秒)は以下。実は実家のそばも通過する。

 動画付きの地図は以下のとおり。ここに高低差も図示されており、最低標高0m、最高標高47m、高低差47mとなっている。

 獲得標高(※1)は、以下のサイトによれば89mとなっている。

 以下の推定では、獲得標高は上記データ通り89mとする。スタートとゴール地点の標高は不詳だが、コースの高低図ではあってもごくわずかとみられることから、両地点の標高は同じととみなした。スタート地点とゴール地点の標高差は考慮しない。

※1:登った高度の累積の合計。一部サイトでは、「累積標高」と呼ぶこともある。500m登るコース、300m下るコースでは、獲得標高は差し引きの「200m」ではなく、「500m」になる。

推定の流れ

 以下の流れで推定する。
 (1)ペルソナの設定(体重、走行速度)
 (2)複数地点の特定時間のWBGTの推定
 (3)上記からの脱水量の推定

 なお、脱水量の推定は、私が試作した以下のアプリのWEB版によった。私自身の2022年の走行と脱水、気象条件の関係から推定した式に基づいて計算している。


ペルソナの設定

 本件に合わせて言い換えると、「どのような条件の人が、どのようなペースで歩行するか」を設定する。設定内容は以下のとおり。なお、荷物の重量はないものとした。
 体重:65㎏
 走行ペース:時速10㎞→1㎞あたり6分00秒のペースになる。
 1時間後に10㎞地点、2時間後に20㎞地点、3時間後に30㎞地点、4時間後に20㎞地点を通過、4時間13分10秒後にゴール

 体重は以下のサイトから、標準的な市民ランナーの体重を想定した。
(一般人平均70㎏、市民ランナーはそれより5~6㎏少ない)
 

 走行ペースは、計算しやすい数字にした。9時00分スタートとなると、1時間後の10時00分で10㎞、2時間後の11時00分で20㎞…となる。

天候(WBGT)の予測

 脱水量に関連が高い気象指標はWBGT(暑さ指数)である。WBGTは、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい以下の3つを取り入れたものである。
 湿度  日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境  気温

 元来は黒球温度、湿球温度、気温から計算するが、以下の近似式(※2)でも推定することが可能である。

0.735×Ta+0.0374×RH+0.00292×Ta×RH+7.619×SR-4.557×SR^2-0.00572×WS-4.064

Ta:気温(℃)、RH:相対湿度(%)、SR:全天日射量(kW/m2)、WS:平均風速(m/s)

※2:式の出所は以下の通り。なお、この式は、環境省「熱中症予防情報サイト」上でのWBGT予測にも用いられている。
小野雅司ら(2014):通常観測気象要素を用いたWBGTの推定.日生気誌,50(4),147-157. doi:10.11227/seikisho.50.147

 本件では、以下の流れで推定した。

・スタート/ゴール、10㎞、20㎞、30㎞、40㎞地点の緯度・経度を入手
・気象データのオープンソース「OPEN-METEO」サイトから、上記各地点における到達時刻に近い気象データの予測値を取得。なお、同サイトでは、緯度・経度を入力すれば、当該地点の気象データの予測値(最大16日先まで)を1時間刻みで入手することが可能。入手データは、●時00分のものになる。
・これより、上記各地点の入手データ値は、以下の時間帯のものに相当する。
 スタート-9:00時点
 10㎞-10:00時点
 20㎞-11:00時点
 30㎞-12:00時点
 40㎞-13:00時点

 ゴール時点のWBGTは、計算が難しいうえに40㎞と近接するので省略する。

 図示すると以下のようになる。

 ここから推定したWBGTは、以下のようになった。なお、日本時間10月21日午前時点の予測値なので、開催までに今後数値は若干の変化がある。
 スタート(9:00):16.3℃  10㎞(10:00):18.1℃
 20㎞(11:00):19.6℃   30㎞(12:00):20.6℃
 40㎞(13:00):20.4℃
 平均:19.0℃

脱水量の予測

 最初に設定したペルソナ、歩行/休憩時刻に応じた各区間/チェックポイントのWBGTをもとに、ペルソナ(体重65㎏)に関する脱水量を以下に推定した。なお、計算は私自身の走行/脱水履歴を踏まえたものである。

 5.2ℓ
 (幅を持たせて)
 50%の確率で4.8~5.6ℓ
 70%の確率で4.6~5.8ℓ

 水分補給がない場合だと、1時間余り(10㎞ちょっと)で脱水率が体重比2%となりパフォーマンスの低下が目立つようになる。

必要な水分補給量の予測

 ゴール時点で体重比2%までの脱水を許容する前提に立つと、ゴールまでに必要な水分補給量は、
 5.2ℓ - 65㎏ × 2% = 3.9ℓ となる。

 この場合、差し引きの1.3ℓは、走行前後で補給しておく必要がある。1時間あたりの量は924㎖となる。体内への吸収の観点からは飲むことができる最大値に近い水準になり、人によっては飲んで腹がもたれる…こともあるかもしれない。その場合は許容脱水量を増やすことも考えられる。ただし、体重比3%の脱水はパフォーマンスが25%落ち飲酒運転レベルになるので注意が必要だ。
 なお、スポーツドリンクを用いても塩分やミネラルの走行中の完全な補充は難しい。走行後に改めて補充する必要がある。そして、糖分の多いスポーツドリンクの過剰な摂取も、カロリー摂取の役割はあるとはいえ、歯の健康を考えれば避けた方がいいだろう。

【追記】
 10月31日夜時点の気象予測に基づき、上記数値を以下に更新した。ただし、同時点では、脱水量・必要水分補給量とも予測値にほとんど変化はない。
・WBGT
 スタート(9:00):16.3℃→17.2℃  10㎞(10:00):18.1℃→18.9℃
 20㎞(11:00):19.6℃→19.9℃   30㎞(12:00):20.6℃→20.2℃
 40㎞(13:00):20.4℃→20.0℃
 平均:19.0℃→19.2℃
・脱水量
 5.2ℓ(変わりなし)
 (幅を持たせて)
 50%の確率で4.8~5.6ℓ→4.9~5.6ℓ
 70%の確率で4.6~5.8ℓ→4.7~5.8ℓ
・必要な水分補給量の予測
 3.9ℓ(変わりなし)
 1時間あたりの量:924㎖(変わりなし)

【再追記】
 11月3日深夜時点の気象予測に基づき、上記数値を以下に更新した。気温の予測値が低下した一方湿度の予測値が上昇したためWBGTも上昇、脱水量や必要な補給量も約200㎖増加している。
・WBGT
 スタート(9:00):17.2℃→16.9℃  10㎞(10:00):18.9℃→19.9℃
 20㎞(11:00):19.9℃→20.7℃   30㎞(12:00):20.2℃→21.3℃
 40㎞(13:00):20.0℃→20.8℃
 平均:19.2℃→19.9℃
・脱水量
 5.2ℓ→5.4ℓ
 (幅を持たせて)
 50%の確率で4.9~5.6ℓ→5.1~5.8ℓ
 70%の確率で4.7~5.8ℓ→4.9~6.0ℓ
・必要な水分補給量の予測
 3.9ℓ→4.1ℓ
 1時間あたりの量:924㎖→972㎖

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