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天気予報の「UI」の方向性

 近年の夏の猛暑や8月中旬の季節外れの長雨に見られるような昨今の気候変動、気候危機を背景に、天気予報の重要性が今後さらに増すだろう。現在放映されているNHKの朝ドラ「おかえりモネ」も天気予報が大きなテーマとなっており、気象予報士になって活躍するヒロインの姿をメインに、気象報道の在り方、スポーツ気象学の応用なども取り上げられている。この天気予報の「UI」を考えると、面白い。

 なぜ私が天気予報のトピックを??この原体験となっているのは実家の家庭環境や視聴習慣である。私の実家は、かつては半農半漁の世帯で、祖父は定年後漁業に再び従事、70歳半ばまで務めていた。そのため、正午前、午後7時前になると、実家のTVはほとんど必ずと言っていいほど「NHKの天気予報」に取り上げられていた。現在と大きく変わらないが、気象衛星からの雲の映像→天気図の解説→全国の天気→各地の天気という構成だったか。下記のようなポンチ絵やチャートは出てこないオーソドックスなスタイルだ。こうしているうちに、私もこうした「天気予報」の定型が身についた。

 こうした背景をもとに、天気予報の方向性をまとめると、2つの流れになるだろう。
 1)TVニュースのコーナー内での単純さ、わかりやすさ
 2)データや予測の詳細化

1)TVニュースのコーナー内での単純さ、わかりやすさ

 現在福岡に住んでいる私は、朝よく見るのは福岡ローカルの「KBCアサデス」内の天気コーナー。ここでの構成は、私が身についた「長年のNHK天気予報」の定型とは異なっている。以下がその典型的な画面だ。2021年8月26日放映分のものである。

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 全体に文字が少なくて図が多く、傘の必要性も、モデルとなる人物像を描いてわかりやすく表現されている。寒暖に合わせた服装も絵で表示される。PM2.5の予測情報も表示される。特徴的なチャートが、「週間ナビ」だ。1週間の天気が基本で、温度のグラフも合わせて表示。「大雨」「大雪」の重要なポイントは短い文字で表示するが、文字は少なく、気温欄の数字も重要な1~2か所だけ。その代わり、天気に応じた服装、行動、活動の仕方が、当該の日の欄にポンチへの形で表示される。例えば晴れの日はレジャー、雨の日は映画館といった感じである。時期によっては運動会の絵も出てくる。写真の画像だと、「今日明日は蒸し暑い」「土日はバーベキュー日和」「来週は洗濯日和」といった感じだ。その他、「土日のうち、お出かけは天気のいい土曜の方がいい」「今度の日曜は雨なので映画館など屋内のレジャーの方がいい」とか言うこともある。「天気の知識がない」「中学校の理科で習った天気のことはすっかり忘れた」人にはぴったりだし、行動予測までしっかり示してくれるのはありがたい。

 ただし、私のような凝り性?で、NHKタイプのオーソドックスなスタイルに慣れた人には、1つ物足りなさを感じる部分がある。それは、「天気図が全く表示されない」ということだ。番組編成のコンセプトとしては、「生活行動の情報に比べ重要性は低い」「出してもわからない」という判断で割愛されたのだろう。これを受け入れる人も多いのだろう。ただし、私は、天気図を見ながら、現在の天気とのつながりを考えたり、今後の動きを予想したり、するのが好きだった。というよりは、最初に書いた「実家での視聴習慣」に染められたおかげで、そのくせがついていたのだ。

2)データや予測の詳細化

 一方、最近はさらに私自身要求する情報が増えたような気がする。私だけではなくて、天気予報に求めるニーズが増えた人が多くなったように見える。例えば、2021年8月中旬の雨の場合、「なぜ、どんな理由でこんな雨になっているのか」「具体的にいつになったら終わるのか」「ちょっとの止み間はないのか」という感じだ。最近は台風シーズンもそうで、2020年8月末~9月初に強い台風が九州に相次いで接近した時には、「具体的に風はどこまで吹くのか」が気になった。

 このニーズに対応してか、様々な気象予報サイトが増えた。その代表的な1つが4つのモデルでの最大10日間の予想を図示して見ることのできる「Windy」である。最近は、台風接近時や大雨時にはこのサイトをよく見るようになった。

 以下がその画面の例。風の動きや雨雲の動きをシミュレーション予測の形で見ることができ、時間帯ごとの風向、風速、天気、雨量、さらには今後の一定期間(12時間、24時間、3日間、5日間、10日間)の累積の雨量予測も見ることができる。

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 その他、中長期予測では、The weather channnel、ウェザーニューズ、Accuweatherなどのサイトもある。Accuweatherでは、何と今後3か月間の毎日の天気予報も確認することができる。

 細かな雨雲の動きも、気象庁の高解像降水ナウキャストやYahooの天気予報サイトで見ることができる。雨が降った場合、降りそうな場合は、外出すべきか否か、傘がいるか要らないかは、このサイトの雨雲の動きの予測見て決めることがある。

まとめ
 以上の2種類の流れをまとめたが、私自身は、2)の詳細化された流れの方がUI的に好きだ。これは私がスポーツファンであることも影響しているかもしれない。スポーツ界では、野球をはじめ、サッカーやバスケ、アメフト、ラグビーまでもが、様々なプレーや選手の動きがデータ化され、各時点での勝利の確率、シュートの確率、ボールを捕る確率、ボールの回転数までが数値化され、幅広くデータベース化されるようになった。様々な数値や統計もWEB上で簡単に見ることができる。MLBでは、「見つからないデータの方が少ない」といっていい。

 しかし、世の中スポーツ好きとは限らないし、データが嫌いな人も多いだろう。この場合は、1)の簡略化、図示化の方がUI的に好まれるだろうし、私の好みとは異なり、この考えの人が日本ではむしろ多い気がする。「千賀投手の4シームの回転数、ムーブメントはいくらか数値化された形で知りたい」人は、ごく一部の野球ファンだけで、世の中の人口の1%もいないはずだ。

 1)2)を採り入れた気象の解説サイトの1つが、以下のブログのように思う。内容が実に深くわかりやすい台風や大雨が気になるときには、この情報を何度も何度も見てしまう。TVでも、ここで書かれている内容を10分くらいでまとめるコーナーというか別番組ができてほしい。(TVニュースの天気コーナーでまとめるのは難しい気がする)
気象予報士Kasayanのお天気放談
http://blog.livedoor.jp/kasayan77/

関連するツイッターは以下。
https://twitter.com/kasayangw

 簡単なUIか、個々のニーズに応じた詳細なデータか…どちらを重視するかは、様々なプロダクトの開発にも当てはまるだろう。ボタンばかりある日本のTVのリモコンのようなものではなく、IPHONEのように簡単なUIで、結果を簡単にわかりやすく示せるとともに、細かなデータの詳細な背景も簡単なUIで好みに応じて調べられるのが一番いいのだろう。

 その一つの応用として、詳細な気象データの分析をもとに運動・生活行動や健康管理管理の方針を、より簡単にわかりやすく示せるようになれば面白いと思う。データ解析が進んだスポーツの分野ではこうした応用が進みつつある。こうした「スポーツ気象学」をもっと深化させ、さらに一般に広げられるようにすることともいえる。

 こうした過程が、スポーツの目線から気候危機の解決策を探ることにもつながってほしい。


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