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2030年の甲子園、高校野球-SDGsの観点から

2021年3月19日、2年ぶりに選抜高校野球が開幕。甲子園という目標に向け頑張ってきた選手が報われたことが何よりほっとする。そして、昨年以降のコロナ禍の中、この開催にまでこぎつけた関係各位のご尽力に敬意を表したい。

これから、この「甲子園」「高校野球」はどの方向に向かっていくのだろうか??実は、これが今後の日本社会の方向性や持続可能な社会づくりに向けたバロメーターになろう。さらに、この甲子園の進化が、日本・世界に横たわる数々の社会課題解決に活用されることを願ってやまない。その中心は、当然、「SDGs」になるはずだ。

SDGsの目標年次は2030年、そのとき、甲子園はどのようになっているのだろうか?また甲子園がどのように社会課題解決に貢献していくのか?

SDGsの主要な目標に関連づけ、整理したうえで列挙してみた。1つだけでなく複数の目標にまたがって広がるものもあるとともに、私が思いついていないものも数多く隠れているはずだ。リストは限りない。

1.貧困をなくそう
・選手の家庭の金銭的負担の軽減
・野球普及活動と連携した途上国支援
・貧困層の野球参加への金銭、用具支援

2.飢餓をゼロに
・選手の食育環境の形成
・食育環境形成に向けた農業の技術革新

3.すべての人に健康と福祉を
・選手の健康にも配慮した日程や開催時間の調整、見直し
・球数制限などの投手の保護対策
・休息、食事や水分のマネジメントを含めた総合的な選手の健康管理
・練習や試合を通じた選手の身体能力や健康の増進
・気候変動にも適応できる身体作り
・新型コロナウイルスや今後発生が懸念される感染症への対策
・感染症発生リスクを高める森林の乱伐や自然破壊の阻止
 →これに向けた社会活動の展開

4.質の高い教育をみんなに
・選手の個性を活かしたクリエイティブな練習環境、試合づくり
・高圧的、没個性的、精神論的な指導からの脱却
・経済格差なく誰でも野球に参加できる環境づくり

5.ジェンダー平等を実現しよう
・より多くの女性選手、LGBT選手の参加
・監督やコーチの女性の参画

6.安全な水とトイレを世界に
・給水タイムの導入(済)
・科学的な水分補給マネジメントの導入

7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
・甲子園や地方大会での再生可能エネルギーの導入
・エネルギー効率の高い甲子園、球場へのリノベーション
・カーボンネットゼロの甲子園大会、地方予選の実現
・エネルギー消費の高いドーム球場に安易に移行しない

8.働きがいも経済成長も
・暑さを緩和できる球場設備の拡大
・水分補給や栄養管理を通じた暑さ・寒さ対策、パフォーマンス向上
・テクノロジーを活かした科学的な練習の導入
・ビッグデータの活用

9.産業と技術革新の基盤をつくろう
・甲子園や地方大会球場へのテクノロジーの導入拡大
・練習環境や健康管理へのテクノロジーの導入拡大
・社会課題解決に向けたテクノロジーの実証実験の場としての甲子園の活用
・多数のスタートアップ企業の参画
・大会の運営モデルの改良
 (例:放映権料の導入、その利益を活かしたテクノロジーの導入拡大)
・これらの実現のための、高野連のアマチュア主義の適切な「規制緩和」
・その一方、米大学スポーツ界(NCAA)のような過度な商業主義への移行には歯止め

10.人や国の不平等をなくそう
・経済格差なく誰でも野球に参加できる環境づくり
・国籍やジェンダーのハードルの解消

11.住み続けられるまちづくりを
・少子化対策として、単独校以外の参加形態の拡大
・「まちづくり」の中での甲子園や地方大会の活用(球場施設、大会運営の両面で)
・地方大会観戦を活かした地域コミュニティの拡大

12.つくる責任 つかう責任
・甲子園や地方大会からのプラスチックの削減、再利用の促進
・練習中の水分補給でのペットボトルの削減
・会場での水の再利用の促進

13.気候変動に具体的な対策を
・パリ協定の遵守-夏の甲子園ができる環境を守ることが地球を守ることに直結
・甲子園や地方大会会場、練習環境での緑化の拡大
・緑化、散水などを通じた環境負荷の少ない暑熱対策の導入

14.海の豊かさを守ろう
・大会や練習からのプラスチックの削減
・大会運営の利益の自然保護活動への活用

15.陸の豊かさも守ろう
・大会や練習からのプラスチックの削減
・大会運営の利益の自然保護活動への活用

16.平和と公正をすべての人に
・平和、公正の象徴としての、世界に向けた甲子園大会の発信
・野球普及活動と連携した途上国支援

17.パートナーシップで目標を達成しよう
・野球のグローバルな拡大を通じた世界平和への貢献
 →その実現のための多様なステークホルダーの連携
 →プロとアマの壁の解消
・甲子園、地方大会とSDGs・社会課題解決イベントでの連携強化
・甲子園大会を通じたSDGsや社会課題解決のPR
・さらに人間性、ヒューマニティを重視した高校野球に

私なりの第一の観点は、「気候変動への対処」。大会側は運営方法の工夫、テクノロジーの拡大、ビッグデータの活用を通じたいわば「適応策」の観点が求められる一方、一般社会ではCO2削減やプラスチック等の廃棄物削減により環境負荷を減らし温度上昇を抑制する「緩和策」の観点が求められる。未来の地球を守るための指標として「夏の甲子園」を位置づけ、「夏の甲子園」を守るためにはどう行動すればいいか…という、いわば「バックキャスティング」の視点が求められる。

その他、観点は数多くあるが、私なりにまとめると、SDGsの普及促進に必要不可欠な「自分事」に、甲子園大会は極めて高いポテンシャルがあるはずだ。現状はスポーツ界とSDGsにはまだ壁がある感じで、「SDGsはコスト感」「SDGsは欺瞞」「SDGsさえやっていればいい」という声も聞こえる。一般社会でも同様だ。環境、教育、社会、平和、さらに人間性などの要素を幅広く取り込んだ甲子園大会は、こうしたSDGsに対する誤解を解く格好の切り口となり、また持続可能な社会のモデルとなりえるはずだ。このためには選手の負担、過度の精神論依存の指導、気候対策と言ったものの実現が欠かせない。

さらにいえば、スポーツはSDGsが本来基盤とすべき人間性に根差したものである。この点、現在のSDGsの拡大には、まだまだ本質的でない、形式的、「SDGsウォッシュ」といわれるような「免罪符」としての利用、「バッジさえつけていればいい」というマインドセット…などの課題が感じられる。スポーツには、こうしたSDGサイドの課題を根本的に改善し、スポーツ界内部だけでなく世間のSDGsへの誤解を解く力があるはずだ。この原動力のひとつが「2030年を目指した甲子園」である。

そのためには、高野連もアマチュアイズムの柔軟な解釈を含めた幅広い展開やスタンスの若干の転換も求められよう。SDGsが本来基盤とする「人間性」の視点さえ踏み外さなければ、高野連が危惧しているはずの過度の商業主義化(米大学スポーツ界がそのいい例)にならないはずだし、ソーシャル・社会貢献のニーズの視点から、現在でも高野連が社会貢献できる部分は多いはずだ。

2030年の甲子園大会は、SDGsのもとでどのような進化を見せているのだろうか…やはり、新しい時代や社会の多様性を採り入れながら、空間としての「甲子園」、そこに根差す多くのよい伝統はずっと残ってほしい。

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