見出し画像

スタートアップ、企業とデザインの関係性を考える【デザイン奮闘記vol.1】

バーチャルSNS「cluster」を展開するスタートアップとして日々加速を試みるクラスター株式会社。
月に1、2回程度、クラスターCEOの加藤直人とデザインエバンジェリストの有馬トモユキ氏がクラスター社のデザインの現在を語り、発信していきます。

題して「デザイン奮闘記」
スタートアップがデザインをどのように考え、実践しているのか。
生の声をお届けします!

スタートアップの組織について──スピードと多様性のバランス

加藤
今回から「デザイン奮闘記」と題して月に1、2回程度clusterのデザインについてクラスター社デザインエバンジェリストの有馬さんとお話ししていこうと思っています。
有馬さん就任の際に対談記事を出しましたが、まったく話し足りなかったので、この機会にいろいろな話ができればいいなと思っています。

また、デザインについてプロセスやチームビルディングの奮闘などリアルタイムに発信したいと常々考えていました。クラスター社のデザインチームが世界に名だたるチームになったとき、その過程がログとして残っていたら人類にとってすごい資産になるだろうなと。

ゲストを呼んだり回ごとに趣向を変えることも考えているので、ぜひクラスター社のnoteをフォローして常時チェックしつつ、面白かったらシェアやRTをしてもらえると嬉しいです。

今回は初回なので、有馬さんへの質問をいくつか持ってきました。それをベースにお話できればと思います。

有馬さんには2020年秋から手伝っていただいているのですが、まず振り返ってみてどうですか?

有馬
そうですね……!(笑)clusterは素朴にVRを信じているいい人が多いなと思いました。

僕がもうひとつ所属している日本デザインセンターは「デザインや造形の力を信じる」という文化を共有している、世の中的には珍しい会社で、そういう文化が受け継がれている会社は強いと思います。社是がなくても社内の意思共有に困らないので、プロジェクトの推進力が段違いなんです。
ただ、所属している人の属性が近いのは強みでもあり弱みでもあるとも言えます。

加藤
確かに「スピードを出す」なら属性の近い人たちだけでチームを組むほうが有利なんですよね。もちろんその分多様性が失われることにより脆さをはらむというトレードオフがある。スタートアップはこのバランスが難しいです。
ただ、クラスター社はまだまだ拡大期なので、偏りは必要だと思っています。

新しい世界のあり方への願い

加藤
有馬さんがつくったデザイン原則ですが、つくる時に意識したことはありますか?

画像1

有馬
先日Twitterが、2020年末あたりからリリースした機能であるFleetを廃止することを発表しましたよね。その発表に際したブログで「Twitterとは何か?を自問している」と書かれていたのが印象的でした。

We’re evolving what Twitter is, and trying bigger, bolder things to serve the public conversation.
https://blog.twitter.com/en_us/topics/product/2021/goodbye-fleets

デザイン原則を考える時も同じように「clusterとは何か?」からスタートして、システムではなく思想をつくろうということは意識しました。

お茶碗に入ったご飯を見て、ある人は美味しそうと思ったり、実家のことを思い出したり、人によっていろいろな思いが浮かびますよね。
デザイン原則とは「クラスター社のデザインとはこれだ!」と具体的なUIや造形を決めるものではなく、クラスター社のデザインの思想を示すこと。それによってクラスター社のデザインの多様なあり方を許容することのほうが重要なのです。

これには理由があります。
私たちが目指すのは「新しい世界を創造する」こと。そこには「世界を変えることへの責任」が必要だと思うんです。だから、デザイン原則は具体的な造形の話よりも、将来的な次の世界のコミュニケーション、他者との関係がどうあってほしいかを示すことを第一にしています

加藤
そういう視点で言うと僕が今興味があるのが「法」なんですよね。

『キングダム』という漫画が大好きでして、作中に出てくる法律家の李斯が「法とはなにか?」を問われて「”法”とは願い!国家がその国民に望む人間の在り方の理想を形にしたものだ」と答える箇所があるんですね。

これを読んで、まさにいまバーチャルプラットフォームのルールづくりをしているぼくらもまた、ユーザーのみなさんにどうあってほしいのかという願いについて限界まで議論し考え抜かないといけないなと。

1889年に大日本帝国憲法が発布される以前に「私擬憲法」というものが全国あちこちで生まれたそうです。これは民間で検討された憲法の私案のことです。一般人が憲法についてああでもないこうでもないと議論して書き残してるって、冷静に考えてすごいことですよね。
普段の私たちは法というものの存在を当たり前だと考え、正直そこまで意識しないので、当時の人たちの国家に対する姿勢に感動しました。

有馬
やっぱりそこでは「国家はどうあるべきか」から考えられていたんだと思います。
インターネットはボトムアップで成長してきましたが、成長痛のようなものがいろいろなところに生まれてきました。

それは「世界を変えることへの責任」、つまり「インターネットはこの先どうあるべきか」を考えることが、まだまだ足りなかったらからなのだと思います。その事実は真剣に考えなければならないと思いますし、同じことを繰り返さないためには常に「clusterとは何か」を問わなければいけないと思います。

個としてのデザイン力を企業に蓄積する

加藤
目下の目標はデザイナーを新しく採用して、デザインチームをさらに強化することだと考えています。企業にとってデザイナーとはどういう存在なのでしょうか?

有馬
デザイナーという資産は企業の中に蓄積していくべきだと考えています。
その理由のひとつはデザイナーのアウトプットにはドキュメント化できることとできないことにあります。だからこそ、社内に自社のデザインのことを理解しているデザイナーの存在が必要になります。そこをアウトソーシングしてしまうのは、現在のclusterの状況とは少し違うのかなと。
6月のWebリニューアルを例に挙げると、カードの角Rの数値の根拠はどこにもドキュメント化されていません。

画像2

あくまでこれはデザインチームのclngnさんがデザイン原則を解釈する中で生まれたものなんです。

一見ドキュメント化をサボっているだけのように見えますが、これには理由があります。
業界ではGoogleのマテリアルデザイン、IBMのカーボンデザインシステムのようにデザインの手法や設計、考え方をドキュメント化する流れがあります。こうしたデザインシステムにはエンジニアが何かを実装したり、ドキュメントを書く際にデザイナーに尋ねる必要がなくなり、効率性が高まるというメリットがあります。ただ、それが効率的であればあるほど、造形そのものを試行錯誤できる機会が失われ、デザイナーの実力が発揮されなくなるという落とし穴があるのです。

加藤
つまり、クラスター社のデザインチームは造形する時にどういう判断をしたのかが個人に委ねられているチームになっているということですね。
クラスター社はクリエイティビティ、つまり個の力を信じている会社なので、クラスター社に所属しているデザイナーチームにはそうあり続けてほしいですね。

有馬
例えばアーティストやイラストレーターの方には、3Dのモデリングから2Dの描画まで、すべてお一人でこなされる方も居ます。通常は分業するような部分をひとりで行っているからこそ、出てくる質や集中力のようなものが確かに存在している。

つまり個のデザインの力は分解やアウトソーシングできるものではない。なので、まずはその個のデザイナーの力を社内にしっかり蓄積していくことこそが重要だと思います。

デザインは企業のあり方に関わる──マイクロソフトとApple

有馬
なぜこんなに企業におけるデザインのあり方の話をしているかというと、デザインは企業のあり方に深く関わるからと考えているからです。
最近のよい例はマイクロソフトですね。

加藤
マイクロソフトはCEOがスティーブ・バルマーからサティア・ナデラに変わったことでだいぶイメージが変わりましたね。
先日のWindow11の発表を見てもデザインがだいぶ変わったことが伺えました。

有馬
シリコンバレーと同じく西海岸にある美術系の大学がパサデナのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインというところなのですが、ここはグラフィックデザインとカーデザインが非常に有名な大学です。
この大学からのシリコンバレー系の進路の中ではAppleよりもマイクロソフトがむしろ人気があるそうです。

加藤
なるほど、面白いですね。

有馬
おそらく、Appleはブランドとしても、プロダクトとしてもデザインが完成されすぎていて、これから働こうと思う学生にとってはデザインを考える余地がないと思われているのかも知れませんね。一方で学生から見たら、マイクロソフトにはその隙がある。

これはマイクロソフトが「サービス企業への転換」をしようとしている時期だからだと思っています。
その象徴的なプロジェクトがマイクロソフトが2020年から進めているクラウドゲームサービス「Xbox Cloud Gaming」です。これはXboxをクラウドベースでプレイできるように、マルチデバイスでプレイできるようにするというプロジェクトです。
Xbox Cloud GamingのPVを見てもらうと概要が分かると思います。

ここにはiPadが出てくるし、プレイステーションのコントローラまで出てきています。つまり、すべてのWebが走るハードウェアがXboxになる。マイクロソフトはもはや最終的なフロントエンドがもっとも重要だとは考えていないのです。

そうした拠り所がなくなった時にはじめて会社としての「思想」が問われます。マイクロソフトは現在そういう状況であるからこそ、思想を解釈してデザインを考える余地があるのでしょう。
そして、それがデザインを学ぶ学生にとって魅力的に映っているのかもしれません。

変わり続けることの重要性──Adobe、ドバイ、閃光のハサウェイ

加藤
マイクロソフトの転換は「ミッションではなくプロダクトにアイデンティティを持つことによる脆弱性」という視点も読み取れます。

どんなサービスやプロダクトにもライフサイクルがあって、調子が悪いときもあれば「次」を探して進化しないといけないフェーズもある。そんなときに、メンバーの誰もが「会社」や「ミッション」ではなく「プロダクト」のことしか見えていないと視野が狭まり、本質的な解決法の発見が難しくなるんですよね。

有馬
確かにひとつのプロダクトに固執し続けることの弊害はありそうですね。そこから抜け出せた企業は大きく変容できている例もいくつかあります。
たとえばAdobeは、かつてはデザイン関連のソフトウェアのパッケージを販売する会社でしたが、今ではAdobe Creative Cloudなどのクラウド型サービスの展開に成功し、一大SaaS企業になっています。特にAdobe Creative Cloudで得られたデータや知見を活用する「Adobe Marketing Cloud」は事業の大きな柱になっているようです。

Adobeはもとを辿ればDTPシステムや、画像処理ソフトウェアを販売するための会社でした。つまりAdobeは変わり続けている企業ということですね。

スケールは違いますが、ドバイも変わり続けているもののよい例ですね。
特に21世紀になってからは次々に開発が進められ、一気に観光立国になった背景には石油産業への依存から脱却したいという背景があるそうです。
もともとドバイは天然真珠で有名な国だったそうですが、日本でも有名なミキモトが養殖真珠を提供し始めたことから産業が衰退し、産業の転換が求められる事態を経験しているそうです。そうしたこともあって、ドバイは次の道を常に模索する国家になっているようですね。

加藤
あらゆるスケールで「変わり続けることの重要性」が伺えますね。

有馬
変わり続けることの重要性という視点でもうひとつ。
最近「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」を観たのですが、やっぱり長く続いている作品っていいなって改めて思いました。

なぜかというと、アップデートし続けているからです。原作は1980年代の小説なのに、映像や表現は現代のもので、かつガンダムらしさ、サンライズらしさは失われていません。
こういう風に常にアップデートしていきたいなと改めて思いました。

加藤
「clusterとは何か」を問い続けることが重要だという話を最初にしましたが、クラスター社が達成したいのは「人類の創造力を加速する」ということであり、今の手段がベストかどうかは問い続けなければいけないということですね。
常にアップデートし続けたいですし、なんなら何年か先を歩み続けたいですね。

エンジニアとデザイナーが仲良く

加藤
最後にクラスター社のデザイナーチームをこれからどうしていきたいかを聞かせてください。

有馬
やっぱりもっとエンジニアとデザイナーが仲良くなりたいですね。仲が悪いわけではないんですけど...…(笑)

お互いが何を考えていて、相手はこういうことをしたら喜ぶとか、相互理解ができている状態になっていたいです。そうなるとプロジェクトを進めるスピードもさらに早くなるはず。
ボタンを押した際の挙動や、ユーザーにどう感じてもらいたいかについてもエンジニアとデザイナーが相互に提案を出しあえるくらいになると理想的だと思っています。

加藤
今は「ソーシャルファースト」を掲げて、バーチャルSNSに必要な機能の実装を鋭意進めていますが、どうしても機能実装が先行してしまって小さいカイゼンに取り組めてないんですよね。
人も増えてきましたし、そろそろデザイナーとエンジニアがタッグを組んで小さいカイゼンを高速に回していけるようにできたらと思っています。

有馬
必要なものを揃えた後に、それがもたらす体験をより滑らかにしていく工程ですね。
開発の観点だけではなくサポートや品質保証の観点でも、はじめてclusterにきた人が違和感を感じないくらいのホスピタリティを提供できるようになるといいなと思っています。

Appleのデベロッパーページは、新しいOSのアップデートがある度にすべてのスクリーンショットやテキストのコンテンツが更新されています。
まったく目立たない部分ですし、僕のようにそのページを隈なくチェックするような変な人しか気づかないものですが...(笑)
それくらいのことが自然にできるようになるといいなと思っています。

加藤
それを実践するためには、古いのを残すのはダサい、というイメージが会社に浸透していないとだめですよね。しかも、それを各々の判断でできるようになっていないとスピーディにはいかないでしょう。

有馬
クラスター社としての思想が十分に浸透していれば「これはちょっと変だから勝手に変えていいよね」が自然に生まれるようになるのだと思います。
そこを目指したいですね。

加藤
初回からがっつり話してしまいました。今回はこのくらいにしておきましょう。
こんな感じで月に1、2回程度ざっくばらんにデザインについて話していきます。話した内容は順次公開していくので、このnoteアカウントをフォローして、ぜひ楽しみにお待ちください。