#39 生地胴が伝統工芸を救うかもしれない話
■生地胴ムーブメント??
自らお店を経営する、とある職人さんとやり取りする機会がありました。
そのお店では明らかに生地胴の注文が増えているとのことでした。
更に卸の胴屋さんも
「最近は黒胴より多いんじゃないかと思うほど生地胴の注文が増えてきた」
「裏側しか塗らないから張り合いがない(笑)」
と話されるほどだそうです。
そして、生地胴をきっかけに竹胴や漆塗の胴に興味を持つ人が増えてくれるのではないかと期待しているとのことでした。
これは凄いですね。生地胴ブーム、起きつつあるのかもしれません。
■竹胴が激減。お店も勧めない…?
皆さんご存知のように、表面に牛革を張り、漆を塗った「竹胴」は激減傾向にあります。
その昔、筆者(1975年生まれ)が10代の頃は、中学または高校に進学し、剣道具を新調する際時点で竹胴を購入する人が多くいました。
というか、当時一式15万円を超えてくるの剣道具は、竹胴が付属しているのが当時は普通でした。
ちなみに樹脂胴が出回り始めたのもその頃ですが、当時は竹胴のように裏面にラインの入った50本型とか、60本型というものがなかったこともあり、まだまだ樹脂胴が竹胴の替わりに広まるということは想像できない時代でした。
そんな時代はとうに鳴りを潜め、今や手入れのしやすさ、軽さなどから樹脂を勧めている剣道具店が少なくありません。
ところで樹脂胴は、基本的に傷がついたら磨き直して再生することができません(できなくもないですが…)。
劣化したらあとは劣化するのみです。それは道具という観点からしてどうかな?とは私は思っています。
生地胴は磨き直して再生したりはしませんが、そもそもいつまでも使い続けて味が出るものであり、目減りがしません。「道具」のあるべき姿を生き映しているものです。
若干話が逸れましたが、たとえば生地胴倶楽部のように、なにかしら剣道具に焦点をあてて盛り上がっている人(たち)の方が剣道界全体としてみればマイノリティであり、一般的にはわざわざ高価で重たくて使い勝手の良くない竹胴を買わなくても樹脂やファイバーの胴で十分なわけです。
需要がなければ作る量も減り、廃棄する職人さんが増えても、新しい職人さんはなかなか増えません。
生地胴は稽古用の安価な道具であることが原点であり、ある意味では職人さんにとっても手間が少なく作れますし、あらゆる意味で手軽だったものです。
それがこの時代になって高価な竹胴とユーザーを結ぶかもしれないツールになりつつあるというのは、何やら因果なお話です。
■生地胴普及の効果
生地胴ですら今はファイバーや樹脂の「生地胴風」というものが出回っていますが、大半の方は「生地胴ほしい!」となれば自然と竹胴ユーザーにもなるわけです。
つまり生地胴の普及は、昔ながらの「防具」「剣道具」の復興には一役買っているのかもしれません。
いつまでも手入れをしながら(←ここ重要)使い込める道具として、また体をしっかりと守ってくれる防具として楽しめる生地胴が広まることが、昔ながらの防具、剣道具を見直すきっかけになれば私としてはこんなに嬉しいことはありません。
私自身は、昔ながらの刺し目の大きい手刺の布団を使った剣道具と竹胴を「これぞ防具!」と自己満足に浸りながら「つかう」のが大好きな人間です。
樹脂やファイバー胴は持っておらず、生地胴を含め持っている複数の胴は全て竹胴です。
樹脂でもいいものが出てきているのは承知していますが、やはり漆の深みとか竹胴台の質感がいいなあと思っています。
この画像の中の胴、ほぼ全て竹胴です。
これだけの数の竹胴が一堂に会する光景もまた珍しいのかもしれません。
■今回のあとがき
この投稿は、前回の内容と同様に数年前、筆者が管理運営する「生地胴倶楽部」内に投稿したもののリライトです。
当時は「生地胴ブーム、起こりつつあるのかも…」とやや控えめな調子で書いたのですが、いまや生地胴はジャンルとして確立したものとなりました。
私自身、少し前まではヤフオクやメルカリで剣道具を物色するのを楽しんでいました(今はやめてしまいました)。
たまにどんなものがあるかなぁと覗いてみると、倒産流れ品が大量に出回ったおかげで相場が大きく変わっているようですが、生地胴だけは値崩れしないという傾向が見られます。
これは経年劣化によるマイナスイメージの少なさと個体ごとの個性が不変であること…あとは純粋に生地胴はカッコいい!というイメージができあがっているのかもしれません。
私は剣道に関しては考え方の古い人間であることを自覚しています。
そのため、文中に不快な表現なども出てくるかもしれませんが、新しいものを一切認めないというつもりはなく、新旧バランスよくあればいいかなと考えています。なにかご指摘などあれば遠慮なくお寄せください。
とりあえず、今日はこの辺で。
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