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#23 古き良き剣道具を復興させたい vol.1

あまり詳しくないので、書けば書くほどにボロが出ると思いますが、古めの剣道具が好きです。
そこには、最近のものには見られない味わいや風格があるからです。

かと言って、新しいものや海外で作られているものが全てダメだというつもりもありません(そもそも流通している剣道具の大半は海外製です)。
新旧バランスよく歩みを進めるのが良いのかな、と思っています。

古き良き剣道具を「復旧」でも「復活」「復刻」でもなく「復興」させたいと表しているのは、それなりの意味合いがあります。


️️■「しょっこう」って漢字で書ける?

剣道具には蜀江しょっこうがあって欲しいと思います。
ちなみに剣道具の「しょっこう」の漢字表記をメーカーのサイトやカタログで見ると複数のパターンがありますが、正しくは「蜀江」と書きます。

蜀江とは、中国の三国志時代にあったとされる河(かわ)の名前です。
その流域は絹織物の産地で、中でも貴重とされた錦織に飾られた模様は、奈良時代以降の日本に輸入され重宝されるようになり、やがて日本独特の文様などもデザインされていきました。
この規則性のあるデザインを「蜀江文様」といいます。
※諸説ある上にかなり表現を端折っています
蜀江文様は、八角形や四角形の連なりから成っており、縁起の良いものとされてきています。

ここまでのお話でわかるはずですが以下、一応見てみましょう。

曙光は、太陽の光。
燭光は、ロウソクの光です。

これは燭光です。剣道具の胸の飾りはロウソクの光???


蜀紅という表記もありますが…あえての変化なのか、誤植なのかは私にはわかりません。

なお、蜀江は上述のように「八角、四角」という規則性がありますが、剣道具の飾りとして用いられる「蜀江」はこれに限らず、規則性のある文様を全般的に総称しているようです。
(ちなみに「曙光」で剣道具の文様を総称するという説もあります)

このあたり、恥ずかしながら絶対にコレ!と言い切れないところがあり私も研究中ですので、矛盾などあったら先にお詫びしておきます。
以下、剣道具の蜀江や文様の飾り全般を「蜀江」、場面によって「文様」と表記していきます。

■剣道愛好家なら見たことがあるあの模様(文様)

剣道具に飾りとしていれる文様で最もオーソドックスなのは「亀甲きっこう」ではないでしょうか。

亀甲。これはウグイス色✖️金茶色の組み合わせ


1980〜90年代半ばにはまだまだ蜀江入りの剣道具は当たり前で、小学生くらいまでの廉価な道具からワンランク上がって初めて手にする剣道具の多くにはこの亀甲が飾られていましたし、「ランク」を問わずあらゆる剣道具に華やかさを演出していました。
小学校を卒業し新しい剣道具を親に買ってもらうことになり、来る日も来る日もどんなデザインにしようかと悩んだのは楽しい思い出です。

他にも花菱、二重亀甲などなど、さまざまな飾りがあるのはご存知のとおりですが、それぞれに込められた意味について知るようになったのは、私の場合もう少し先のことでした。

麻の葉。銀ねずと鉄紺の組み合わせ


例えば「麻の葉」は、成長が早く丈夫、そして邪気を払うと言われています。

剣道具に使われる波千鳥。


これも人気のある「波千鳥」は、剣道具ならではの変化が見られます。厳密にいえば扇形が「青海波(せいがいは)」。vの部分が千鳥だから総称で「波千鳥」と読んでいるのかどうかは…実は私にはわかりません。
そもそも「波千鳥」という文様は青海波の上を鳥が飛んでいるという、これとは全く違うものが存在します。

これが「波千鳥(波に千鳥)。波の部分は「青海波」です。


何はともあれ、波千鳥は「荒波を乗り越える」という縁起の良い文様で、私も大好きです。

このように文様にはそれぞれ意味があり、人の願いを表すものとして用いられます。

蜀江が剣道具にもっと使われてほしいなと常々考えています。
昔はそれが当たり前でしたが、今ではコストダウン的な面もあり、かつシンプルなものがかっこいいという考えのほうが当たり前になってしまいました。
「シンプルなものがカッコいい」というならまだ良いのですが、部活動などでは「色の入ったものを使うなんて生意気だ」なんていう声もあるようです。同調と没個性の流れは剣道に限ったことではないのは皆さんお分かりのとおりですが…ちょっと残念ですね。

その結果、2000年代に入るといよいよ蜀江はほとんど使われないという傾向が続いてきました。

シンプルイズベストというのは、あくまでもひとつの好みであってほしいものです。
それが標準となってしまうのでは、道具の粋も薄らいでしまうような気がします。

ただ最近は、剣道具に個性を見出すという傾向も一部で復活しつつあります。
私としては、その復活の流れは昔ながらの蜀江の復興を望みたいところなのですが、どちらかといえば個性を出そうとする狙いが強めで、左右非対称の飾りや蜀江ではない「絵」や幾何学模様が書き込まれた剣道具が出回って久しいです。

■模様ならなんでもいいのかな…?と思ってしまいます

吉祥(つまり縁起物)の文様を逆さまにしたデザインのものを日本代表のチームが採用するということがあった際、私個人的にはものすごく驚きました。
誰か止めなかったのだろうか?と呟いたら「固い」「古い」みたいな声が聞こえてきましたが…だとすれば、吉祥文様を逆さまにし魔除けの逆柱だと讃えつつ、世に出て行ってしまうのでしょうか。いや、逆さまにすれば魔除けになるという発想すら思いつかない人の方が多いかもしれません。
また、関連の話題を見ていたら「代表のデザインの防具を否定する人は、余程いい防具を使ってるんでしょうね!」という皮肉めいた反論をしている内容もありました。

剣道感の古い私は「うーん、そうじゃないんだよな…」と悲しい気持ちになりました。

■古きよき伝統を一切変えるなと言いたいのではありません。

古くから伝わるものには、一見ただの模様などのデザインの一部に見えるものでも深い意味合いがあり、かつ御洒落なものがたくさんあります。
「世界の人たちに日本の良さを知ってもらおう」という動きが出始めている昨今なのに、日本古来のものにある魅力を私たちが自覚できていないという事実が勿体ないな、と思うのです。

もしかすると単に私が文様好きで「もっと広まればいいのに。」と思っているだけだというのもあるかもしれません。
仮に個人で楽しむだけであれば、胸にイラストを入れようがアルファベット入れようが何をしても構わないとも思っています。
子どもに向けたアプローチなど、剣道普及のためにそうしたほうが良い場面があれば私もそれに賛同するでしょう。

しかし、本来の意味合いや奥の深さを知らないまま、実は手の届く場所にある宝物を放置し、キワモノや安物を生み出して「柔軟な発想」と胸を張ってしまうのはやはり勿体ないなと私は思います。
本来の意味を少しでも知ろうと足を踏み出せば、その奥深さにきっと驚かされるはずです。

剣道具のデザイン、蜀江のルーツなどを辿り紹介していくことは、剣道を知らない人にも充分楽しめる内容ですし、機会あるごとに紹介すれば普及の手段のひとつにもできるはずです。
そういうことができるメーカーさんや小売店が出てきてくれればいいのになあ、とユーザーの一人として願っているところです…これを読んでくださった業界の方、いかがでしょうか(笑)

蜀江に関する話はまだまだ書ける気がしますが、とりあえず今日はこの辺で。

※おことわり
特定のものに対してネガティブな見解も残していますが、完全に否定するものではありません。また文中にあるように、自分で書きながら整合性が十分に取れていない面もあります。それが「もともと整合が取れていないけれど総称としてまとめられている」のか「そもそも私の無知ゆえのもの」なのかは調べきれないのが正直なところです。
あくまでも私見ですので不快に感じられた場合はご寛恕ください…
でも、やっぱり剣道具の蜀江は大好きです(笑

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