シーラッハ「犯罪」から~「チェロ」の物語~
2012年本屋大賞翻訳部門。ドイツの現役刑事弁護士シーラッハの、作家としての出世作。現実の事件を数多く扱ってきた経験から着想を得て、罪を犯した人間の哀しさ、愛おしさを描いた、11の物語。
その中の一つ、「チェロ」は、実業家タックラーと、その子供テレーザ(姉)&レオンハルト(弟)の物語。
タックラーは大金持ちだが金儲けと物欲にしか関心がなく、子供への愛情と理解が希薄である。テレーザはチェロを愛しており、とりわけバッハ「無伴奏チェロ組曲1番」を好んで弾いた。テレーザは音楽遊学し、レオンハルトもついてきた(金だけは父がだしてくれた)。親の愛が希薄な分、兄弟の絆は深く、二人はいつも一緒だった。
夏の終わりシチリア島で二人がスクーターに乗っているとき、トラックが落としたリンゴでスクーターが滑り、弟の頭は後輪と石にはさまれて割れた。尿毒症で14回手術。手と足の指のいくつかを切除。記憶障害と想起障害を併発して、姉を姉とわからず「美しい女性」としか見なくなった。
弟の介護の世話を姉テレーザがするようになる。レオンハルトが記憶を取り戻すことはないが、姉が弾くチェロには感じるものがあるらしい。チェロを弾いているとき姉はなんとなく昔の暮らしに戻ったような気がした。毎晩、弟のためにチェロを弾いてあげた。弟はたいてい自慰行為をした。そのたびテレーザは浴室に倒れこみ、むせび泣いた。
あるとき豪華な料理を食べた後、テレーザはレオンハルトをお風呂に入れてあげた。姉は弟を湯に沈めて殺害した。
テレーザは犯罪を自供し、クリスマスの夜、独房で首をつって死んだ。父タックラーは拳銃で自らに引き金を引いた。
なんだかやるせないお話ですが、バッハのチェロの響きを聴いていると、魂が浄化されて、救いがありました。「犯罪」はほかの物語も重いですが、ひとつひとつが印象深いものとなっています。犯罪を犯す人、必ずしも全てが悪というわけではありません。その罪を憎んで人を憎まず、といったところでしょうか。
BGMは、ケラスが弾く「無伴奏チェロ組曲第一番」。とても好きなアルバムでよく聴いています。