バラク・オバマ著(2020)=山田文・三宅康雄他訳(2021)『約束の地 大統領回顧録Ⅰ 上』集英社

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第44代目にして黒人初の米国大統領となったバラク・オバマの回顧録。上下巻に分かれ1000ページを超える大作であるが、上巻は自身の生い立ちから大統領選挙戦の描写を経て、当選後の金融危機対応やカイロ演説までを描く。

最も感動的なのは初の大統領選挙を通して、オバマが実現しようとしている民主主義の理想が、夢ではなく現実のものになり得ることを多くの米国民ひいては世界の人々と共有していく様であろう。現実は甘くはなく就任後彼は多くの壁に直面するが、だからといって彼の掲げ人々の信じた理想が間違っていたことにはならない。希望をもって日々を生き、そして民主主義は決して過去の遺物となってしまったわけではないという筆者のメッセージを受け取り、自由の旗手として立ち上がる若者たちが一人でも多くこの地球上に生まれることを願ってやまない。

傍論、著作中とても親族の話題が多く、米国初の黒人大統領の内面や哲学を形成するのに大きな役割を親族が果たしてきたことをうかがわせるが、こうした恵まれた家族環境にあるということは一つの財産で、かつ誰もが享受できるものではないことを痛感した。
また、彼の文中にはやはり「黒人」であることから永久に解き放たれない人生を生きているということを彼自身が強く認識していることが伝わってくる。そうしたような様々な重荷を次世代に生きる人々のためどれだけ軽くできるのか、今を生きる私たちに問いかけているようにも思う。

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