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デザインに携わるディレクターという職種の皆様へ。

まさか自分がデザイン領域の仕事をするなんて。

住まいや店舗デザイン、WEBサイトを作るための写真やイラストの素材など、「お客様の課題解決を目的として、日々デザインと向き合う」という刺激的な毎日。

19歳で不動産業界に飛び込んで約5年、2つの会社で営業を経験しました。

24歳の時、2007年にクジラ株式会社を創業して数年すると「本当に課題解決をしたければ、デザインの力がいるのでは」という仮説が浮かびました。

デザインというものに全く無縁だった僕に、そう思わせてくれたのは多くのお客様。

相続だったり、空き家だったり不動産で困っている人の大半は不動産屋として相談を受けるものの、解決策は建築領域を中心としたデザイン側にありました。

2012年に開始したリノベーション事業。

10年分の失敗と借金を糧に、ディレクター初心者の僕が独学で学んだことを記します。

※ここではリノベーションの事例を使ってます。

顧客ニーズはもう存在しない

まず初めに言いたいことは

顧客ニーズ=正解の時代は終わった。

ということです。

大切なのはインサイト。

マーケティングの領域ではよく消費者インサイトという言葉が使われます。

消費者インサイトとは、消費者の購買行動の根底にある、時には本人さえも気付いていない動機・本音のことである。

随分前から使われている言葉ですが、僕らが属する不動産・建築業界では、まだ当たり前とは言いがたい現状で、

歴史の長い業界では、経営企画層やマーケティング部署を除いて似たような状況ではないでしょうか。

ヒアリングシートなどのフォーマットを使いながら顧客ニーズを聞き出し、それをヒントとしてインサイトに迫る。

例えば定食屋だと、顧客ニーズは「美味しいランチを食べたい」ですが、それなら定食屋である必要はありません。

「ランチのお店やメニューは決めきれてないけど、ランチ代を少しでもお得なコスパにしたいから、メニュー豊富、もしかしたらステキな季節限定メニューに出会えるかもしれないお店を選びたい」

が定食屋を選ぶ多くの人のインサイトです。

ここからは、リノベーション事業を通じて理解したお客様のインサイトを3つの種類に分けて説明します。


①想い通りにやりたい

多くのリノベーション営業がやってしまいがちの対応が「お客様の言うことを100%実現させることに努力する」です。

しかし同業の友人に聞いても、これが必ずしも良いとは限らないことは明白です。

お客様の言う通りに実現しようとすると

①要望に振り回される
②「もっとプロに期待してた」と残念がられる

という2つのリスクを負うことになります。

②になる場合は、そもそもお客様のインサイトは「自分が考えてる通りにやってほしい」ではなかったと言えます。

ヒアリングの段階からしっかりコミュニケーションを取り、「この方は自分の考えてる通りに進めたいんだな」と判断した場合は、

ディレクターとして注意すべきは結果(言われた指示通り具現化してるか)ではありません。

結果は大前提として、プロセスでも心地良くなってもらう必要があります。

▲リノベーションでは、工事途中の説明・議論が大切。

お客様のスケジュールや思考などの一歩先を常に予測して、お客様に綺麗なレッドカーペットを敷いてあげて、歩いて頂くような感覚で丁寧にコミュニケーションすると良いと思います。

②うまく言えない想いをカタチにしてほしい

弊社にリノベーションの相談に来るお客様のうち、およそ30%前後くらいの方が「私たちそんなに細かい要望はありません」と言います。

そんな時、僕は必ずこう言います。

お客様には2種類しかいません。自分達の理想が上手く言える人と、『まだ上手く言えない人』です。今から少しずつ僕達と理想を言葉にしていきましょう。

お客様にも根気強くお付き合い頂くトークを挟んで、地道に理想を言葉にしていきます。

この場合、ディレクターとしては「上手い質問」と「通訳」が必要です。

上手い質問

リノベーションのプラン図面を見て納得してるお客様に、僕はあえて「寝室のクローゼット、僕はちょっと狭いと思うんですけどいかがですか?」というような形で質問します。

ポイントは「僕は〜思います」です。

こう質問すると、「ちょうどそう悩んでたところです」と言う方も多く、言えなかった本音が僕を盾にして言えたことになります。

通訳

また、デザイナーなどのスペシャリスト領域の人は、自分達の言葉でそのまま説明することが多く、専門用語や前提知識の格差を無視してしまいがちです。(この人たちはうまく話すことが役割ではない)

弊社のデザイナーが「この子ども部屋は縦も横も3.4mあるので広いですよ」と説明したら、

ディレクターはすかさず「例えば一人暮らしで連想するような、縦長の6帖ワンルームですと、窓側の短い壁面が2.2〜2.8mくらいなので、この子ども部屋はシングルベッド置いてもまだ余裕がありますね」と通訳する。

お客様に合った例え話を持ち出せるように、常にいろんな引き出しを持っておくべきですね。

余談ですが、このタイプのお客様がすごく良いアイデアを出してきても、あえて反対意見を出すときもあります。

これは、「反対意見が“ダメ“だということを確認・立証することで、お客様の要望に確信を持ってもらう」ことが目的です。

最初はうまく理想を語れなかったお客様が勇気を出して語ってくれたアイデアが、この一手間によってより確かなものとして採用になります。

▲お客様の要望に確信を持って頂くために、あえて違うデザインテイストを確認してもらう場合も


③想いを超えるサプライズを見せてほしい

「全部お任せするので、とにかく想像を超えてほしい」

ディレクターとしては、これが一番難しいのではないでしょうか。ちなみにこのご要望の場合、弊社では丁重にお断りすることもあります。

デザインは、何かの不安や困りごとを解決するための手段と考えているため、見た目のインパクトを最優先して求められるような場合は、弊社では力不足と考えているからです。

ディレクターとは「企画・進行を導く人」という意味があるのですが、ある種“ゴールが無い“とも言えます。

しかし、こういった案件を得意とする会社もたくさんあります。

ディレクターとしては、お客様の休日の過ごし方、ファッション、笑いのツボ、好きな映画、好きな飲食店、、、、あらゆる細かな価値観を察知して(聞きすぎると良くない)、

「 どこが高揚感を覚えるツボなのか」を予測して、社内のデザイナーと共有する必要があるでしょうね。

【1つ上のステージ】

解消したい不安を抱える人、掴みたい欲求を持つ人が一人や少数でない場合があります。

この1対Nのような場面で必要なデザインはどう実現するべきか。

主に大手広告代理店などが打ち出すPR企画(ブランド・CM・キャンペーンなど)が代表的です。

この場合、デザインを求めてきたクライアントはチームメンバーであり、アプローチしたい不安・欲求を持つ人たちではありません。

ディレクターとしては“導く”という役割によって、議論を高次元に発展させていくことが重要になります。

良いチームを作る

僕の場合は、何より良いチームを作ることに注力します。

なるべく敬語や敬称も省いたコミュニケーションが取れるようにあらゆる手を打ちます。

社内であれ社外であれ、会議という議論の場では言いたいことよりも、言いづらいことの方が圧倒的に多い。

ブラックジョークや「私たちだけの秘密」のような、このコミュニティでしか交わせない会話が出るようになるまで、心理的障壁を排除していくことがディレクターの大切な仕事だと思います。

去年、セルフエステのブランディング〜店舗デザインの仕事をしたときは、クライアントの女性社長の感性に近くて、かつラフな会話もできそうなデザイナーをアサインしています。

ブランドコンセプト、サイト制作、チラシデザイン、店舗デザイン、キャッチコピーなど会議ごとに女性の人数配分も優先しました。

直感的に魅了する見栄え(デザイン)を気にする前に、風通しの良いチームを作った方が、良いブランドへの近道だと考えからです。

常に目的を見る

「これってそもそも、何のために話してたっけ?」

これが僕の口癖です。常に会話の是非は目的を基準とします。

しかし、無駄話や脱線の無い会議では良いアイデアは出ません。

いろんな寄り道をしながら、アイデアを拾い集めつつ、一歩ずつゴール(目的)へ前進していくためにも、ディレクターの“導く”という役割は重要です。

日々のトレーニング

僕はデザイナーなどの何かを作るクリエイターではなく、ディレクターとして”導く”ことが仕事なので、より的確に導くスキルを高めるために「人がうまく言えないことを言語化する」練習を続けています。

こうやってnoteを書くのも、スライド作るのも、Twitterに投稿するのも多くの人が「そうそう!それ言いたかった!」というのを引き出したくて、日々努力してます。(あまりいいね増えませんが 笑)

noteを始めたのは、2020年から。

2年間書き続けて、初めてたくさんのスキをもらえたのはここ最近で一番嬉しかったことです。


デザインが持つ力

ディレクターはお客様個人に限らず、企業や社会、地球全体の課題と向き合うことが大切です。

人であればインサイトと向き合い、企業や社会などであれば隠れた課題を見つけ出さなければなりません。

そこから明るい未来へ導く”デザイン”という手段は「叶える力」と言えます。

論破や説得に注力していた不動産営業出身の僕にとっては、はるかに難しいことに向き合っている毎日です。しかし、今は見た目のデザインだけでなく、もっと広い範囲でのデザインにもチャレンジしています。

僕はデザイナーではないけど、お客様、プロジェクトメンバー、社会全体や未来の子どもたちをデザイン(叶える力)を借りて、明るい未来に導くディレクターでありたいです。


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