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読書記録(2023年7月)

7月は小説5冊、エッセイ1冊を読みました。


『ちくま日本文学004 尾崎翠』

床の間いちめんに大根畠を作っている兄、毎月改名させられる犬、胞子ではなく花粉で繁殖する蘚、となんか変なものがぬるっと登場してお話に馴染んでいるのが面白かった。
百年近く前の作品なんだけど、『動物のお医者さん』とか『ぼくの地球を守って』あたりの名作少女漫画と似た雰囲気があった。

梨木香歩『村田エフェンディ滞土録』

梨木香歩の小説は、『西の魔女が死んだ』以外読んだことなかった。
作者が実際に19世紀末のトルコに滞在したかのような瑞々しさのある青春小説だと思う。あくまで記録という体のさっぱりした文章と、日常に馴染んだファンタジーとのバランスが好きだった。終盤は怒涛の展開。

吉本ばなな『キッチン』

初吉本ばなな。
尾崎翠が80年代に小説書いたらこんな感じかもと思う。トレンディドラマっぽい。
そういえば、バブル期にベストセラーになった『ノルウェイの森』と『キッチン』は、どちらも喪失と再生を描いた恋愛小説だなと思った。皆こういう話を求めてたのかな。
全然話変わるけど、バブルがはじける前から日本人がバブル期のことをバブル期って呼んでたの面白いよね。

小川洋子『人質の朗読会』

9つの短編が、身近な人の死や偶然の出会い、失われた記憶といったテーマで各話が緩やかに繋がっていた。「槍投げの青年」が特に好きだった。
最初の設定については、わかりやすさはあるんだけど私は少し苦手だった。

小川洋子『最果てアーケード』

お話全体が寓話のような優しさで満ちていた。でも、小川洋子特有の不条理さもちょいちょい顔を出す。
“輪っか屋さん”のドーナツが本当に美味しそう。
「生地の目の詰まった、濃いきつね色のシンプルなドーナツ」、「たった今揚がったばかりの、油取り紙に挟むとジュウッと音がしそうなドーナツ」、食べたい。

小川洋子『遠慮深いうたた寝』

作家の慎み深さみたいなものを、すごく感じるエッセイ本だった。
小川洋子はこの世界の中で自分が知覚できることも理解できることもほんの少ししかないことを知っていて、それでいてそのことを悲観するわけでも卑屈になるわけでもなく、ただただ世界に対して祈るような気持ちで全てを委ねているように思う。


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