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九段理江『東京都同情塔』感想と考察

あらすじ 本作は主に、拓人の書いた伝記という形をとっている。 AIの生成する言葉の軽薄さは、本作のテーマのひとつになっていた。文中にも、度々AIによる回答が登場するが、これは本当にAIが生成したものをそのまま使用しているらしく、実験的で面白い。拓人がAIに頼らず、自分の経験や生身の人間による発言を引用しながら書く伝記は、AIの生成する言葉とは対象的なものとして描かれる。拓人は、人間によって書かれたものを「自分だけのしるしのついた文章」と呼んでいる。 その他、雑誌や書籍の文

    • 読書記録(2023年7月)

      7月は小説5冊、エッセイ1冊を読みました。 『ちくま日本文学004 尾崎翠』 床の間いちめんに大根畠を作っている兄、毎月改名させられる犬、胞子ではなく花粉で繁殖する蘚、となんか変なものがぬるっと登場してお話に馴染んでいるのが面白かった。 百年近く前の作品なんだけど、『動物のお医者さん』とか『ぼくの地球を守って』あたりの名作少女漫画と似た雰囲気があった。 梨木香歩『村田エフェンディ滞土録』 梨木香歩の小説は、『西の魔女が死んだ』以外読んだことなかった。 作者が実際に19

      • 読書記録(2023年6月)

        6月は小説を5冊、エッセイを1冊読みました。 大江健三郎『死者の奢り・飼育』 大江健三郎は初めて読んだ。 湿気とともに臭いまで伝わってくるような、力強くうねりのある文体だった。密度がすごい。 お話は悲観的な感じで、登場人物も嫌なやつばかりだけど、モチーフや展開が新鮮ですいすい読める。 全体的にギラギラした短編集だった。 セル画でアニメ化してほしいなと思う。 村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 大江健三郎のあとすぐに読み始めたせいか、村上春樹ってすごい

        • 嘔吐恐怖症の人間が胃カメラを受けた話

          私は嘔吐恐怖症です。 吐き気に対する不安が強すぎて失神することもありますし、口に異物が入るだけでも恐ろしいです。 そんな人間が、先日なんとか胃カメラを受けました。そのときのことを備忘録としてnoteに書いておきます。 私と同じように不安で胃カメラ検査を躊躇っている方のお役に立てれば嬉しいです。 不安要素 胃カメラを受けるにあたって、次のようなことが不安でした。 絶食による吐き気 検査前の処理(咽頭麻酔や泡消し)による吐き気 鎮静剤の使用による合併症 鎮静剤が効かな

        九段理江『東京都同情塔』感想と考察