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読書記録(2023年6月)

6月は小説を5冊、エッセイを1冊読みました。


大江健三郎『死者の奢り・飼育』

大江健三郎は初めて読んだ。
湿気とともに臭いまで伝わってくるような、力強くうねりのある文体だった。密度がすごい。
お話は悲観的な感じで、登場人物も嫌なやつばかりだけど、モチーフや展開が新鮮ですいすい読める。
全体的にギラギラした短編集だった。
セル画でアニメ化してほしいなと思う。

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

大江健三郎のあとすぐに読み始めたせいか、村上春樹ってすごい都会的だ……と思った。
大江健三郎がドラクロワなら、村上春樹はエドワード・ホッパーだと思う。画面の密度が全然違う。
テーマはおなじみの喪失と再生なんだけど、(おそらく)ミステリー的な考察の余地を残しているのが意外だった。
私は村上春樹のエッセイに出てくる海外の話が好きなので、特に終盤のフィンランド編は楽しく読んだ。

内田百閒、小川洋子編『小川洋子と読む内田百閒アンソロジー』

内田百閒の文章は、読み始めると、ぐいと引き込まれて不思議なものも自然と受け入れてしまう。
黄色い牛って、空気枕ぐらいの芋虫って、サイダア壜に飲む人のいない焼酎を入れて帰る女って一体なんだったんだ、と読み終わってから気付く。
「雲の脚」の解説を読んで、もし今後小川先生に会うことがあっても、生ものだけは渡さないようにしようと思った。

若竹佐知子『おらおらでひとりいぐも』

川上未映子の「乳と卵」を初めて読んだときと同じような感覚になった。
方言による桃子さんの思弁は混沌としているようで、とても注意深く組み立てられている。
でも、単に技巧的なのではなくて、しっかり心動かされた。月並みな感想だけど、切なくて何度か泣きそうになった。

小川洋子『薬指の標本』

小川洋子の小説に登場するモチーフが好き。
サイダーの中に落ちていった薬指、透明な液体に広がる血、和文タイプの活字盤、黒い革靴、小鳥の骨、少女の傷痕。
そういったものたちが収まるべきところに収まって、静謐で幻想的でどこかグロテスクな独特の世界観を作り上げている。細部まで手の行き届いた小説だと思う。

三國万里子『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』

タイトルから想像されるほど編み物メインのエッセイではなくて、幼少期から20代にかけての話が多め。
ちょうど三國さんの息子さんと私は同年代で、なんとなく母の昔話を聞いているような気持ちになった。
若かりし三國さんが好きな人(現在の旦那さん)から、愛飲している煙草の銘柄を聞き出す方法が可愛くてきゅんとした。

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