精神科病棟の闇②/帰れない、動けない、伝わらない、治らない。それでも死なせない。/身体合併症病棟にて。

 精神疾患の長期臥床患者が入院する病棟(精神身体合併症病棟)において、”闇”と形容する状況を説明するため、以下にその要因を挙げる。
①一般科病棟と比較して配置スタッフが少ない。
 精神科特例、という法的な枠組みがある。自立した患者層の病棟であるならばそれが不適切であるとは思わない。自立した患者層でスタッフが行うことは、体温と脈拍を測って記録する、入浴する患者を見守る、食事の摂取や薬の内服を見守る、買い物に行っておやつを代わりに買ってくる、喫煙に行く患者のタバコライターの貸し出しと管理をする、など一般科と比較してかなり実践することが少ない。はっきり言って楽である。
 ただし、これが臥床患者となると難易度が入れ替わる。バイタルサインは体温、脈拍、血圧、血中酸素濃度のフルの値を計測しないといけないし、反応が悪い患者に対してはそこからさらに踏み込んだフィジカルアセスメントの観察を行わないといけない(胸の音を聞いて、お腹の音を聞いて、会話してets..)。入浴はストレッチャーに乗せて服を脱がせるところから身体を洗うところまで全介助で行い、拒否がある患者は半強制で暴れるのを抑えながら風呂に入れる(拒否は一時的なものではほぼない為、一度許容するとキリがなくなる)。食事はもちろん全介助か見守り。窒息リスクの高い患者(もはやリスクが高いとかじゃなくて窒息ロシアンルーレット状態)への食事介助は時間がかかるし疲労も積み重なる。その上食事の拒否がある患者とかやりきれない。排泄ケアでオムツ交換の手間も大きい。自分は老人ホームでも非常勤で勤務しており、もちろん高齢者でオムツ交換に拒否を示す利用者位いるのは分かっているが、精神疾患の高齢者の拒否はその比ではない。点滴の自己抜去、オムツ外し、ベッドからの転倒転落の対応、と身体疾患のみの一般病棟と同程度と忙しいかそれ以上なのにスタッフが少ないという矛盾が存在する。

②身体拘束の厳格な運用による業務負担が大きい。
 精神科病棟では身体拘束の運用が一般病棟とは異なる。家族が一般病棟に入院した経験がある人は、身体拘束の同意書にサインしたことがあるのではないか。一般病棟において、身体拘束は家族に同意書を書いてもらえれば看護師の判断で解放拘束を判断して実施できる。実際を言うと、経鼻栄養チューブで栄養剤と投与している最中や、点滴をしているとき、夜勤帯でスタッフの人数が少ない時など拘束し、逆にそれ以外の時や、家族や看護学生がそばにいて見守っている時は看護師の裁量で縛っている手足体幹を解放することができる。しかし精神科病棟での身体拘束の運用は厳格で、医師の指示に基づき行われる。つまり、医師が何時から何時まで拘束、または終日拘束という指示をだしたらそれに基づき行わなければならない。看護師の判断で解放はできない。記録も、15−30分単位で巡視(実際はそんな頻度でできるわけがない)し、記録しなければならない。必然的に、身体拘束の敷居が高くなる。医師は身体拘束の指示を出したがらない。これは良いことであると捉える人もいると思うが、それは切迫した現場を知らないからだと思う。実例を挙げると、身体拘束避けるあまり、不穏な患者を夜勤中ストレッチャーに乗せて経過した。(他患のオムツ交換時そのベッド付近までストレッチャーに乗せ連れていた。)また、デイルームの机や椅子など集めて該当患者を車椅子に乗せて囲み動けないようにしていた(その結果その患者は無理に立ちあがろうとして机に足をぶつけ続けアザだらけになっていた)。転落防止に、他の臥床患者のベッドを横にくっつけ、その他患者のベッドの落ちるように配置を工夫していた。他にもあるが、確かに行動制限は最小化することが現在の医療の考えだが、過度に避けようとしたり運用の負担が大きすぎて他の方法を取ろうとするあまり不適切な対応となるケースが上記のように多発する現実がある。
(次回に追記する)


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