ココア発明の起源:もし当時、乳化装置があれば?
カカオは紀元前から長い間、飲み物として愛されてきました。14世紀に成立したアステカ王国では、カカオ豆は「ショコラトル」という名称のドリンクとして、王侯貴族の間で高級ドリンクとして普及し、スペインやヨーロッパへ広まりました。しかし、カカオには55%の脂肪分が含まれており、水や湯に溶かすと表面に油が浮いて飲みづらく、またくどくて胃にもたれるなどの欠点がありました。この欠点を克服するため、オランダ人のクンラート・バンホーテンはカカオ液(カカオマス)からココアバターを抽出する油圧式の圧搾機を開発しました。これにより、ココアバターを約28%程度までに減らしたココアマスが生まれ、それを砕いて粉末状にすることで、お湯に溶けやすく、飲みやすくしたココアが誕生しました。
この歴史を詳しく知り、『乳化』が果たせる役割を考えていきたいと思います。是非、最後までお付き合いお願い致します。日本チョコレート・ココア協会のチョコレート・ココア大辞典からチョコレートの歴史を引用します。
🔳チョコレートの始まり
(メソアメリカ文明)
チョコレートはメソアメリカで生まれました。メソアメリカは、現在のメキシコ南部、中央アメリカ(グアテマラ・ベリーズ・ホンジュラスやエル・サルバドルの一部)などの地域で、農耕文化やマヤ、アステカなど独自の高度な文明が繁栄しました。
オルメカ文明(紀元前1500年~400年頃)
カカオの最も古い痕跡は、メキシコ湾岸沿いの肥沃な低地に中米最古の文明を築いたオルメカ族に行きつきます。オルメカ文明にはカカオ(カカウ)という言葉があり、オルメカ人はカカオを最初に利用したといわれます。
マヤ文明(4~9世紀頃)
マヤ族はユカタン半島でカカオの栽培を始めました。マヤ文明から出土の西暦500年以前の陶製の壺にはカカウと読める文字の刻まれたものがあります。また、内部からカカオの残滓が検出された壺もあります。
マヤ族はカカオを貨幣として利用し、儀式では神への捧げものとして重要な役割を果たしていました。上層階級の結婚式ではカカオ飲料が現代のシャンパンのような役割をしていたと推測されます。
トルテカ族(10~12世紀)
トルテカ族はマヤ族が衰えたあとの10世紀~12世紀に栄え、次のアステカ族に高度な文明を伝えました。トルテカ族は小国に分かれて土地や貢納品をめぐって争いを繰り返しましたが、特にカカオの産地を巡っての争いが大きかったといわれます。
アステカ王国
アステカ族は14世紀にテノチティトラン(現在のメキシコシティ)を首都としてアステカ王国を建設しました。各地から産物を年貢(一種の税)として納めさせましたが、カカオの産地の人々はカカオ豆で納めていました。
16世紀初頭、アステカ王国はエルナン・コルテスの率いるスペインの軍隊によって征服され滅亡しました。アステカの遺蹟・文書などの多くは異教徒のものとして破棄されましたが、多くのスペイン人がアステカ文明におけるカカオについて記しています。また、残された遺産からも多くのことが伝わっています。
🔳ヨーロッパへ伝わったカカオ
コロンブスはカカオに興味を示さなかった。
1502年にホンジュラス沖でマヤ人の交易船にカカオが積まれているのを見て、マヤ人がとても大事にしていると報告しています。ただし、彼はカカオがどのような役割をしているのかはわからなかったようです。
🔳カカオ産業の近代化
(18世紀のチョコレート)
飲みものから食べものへ
チョコレートは長い間、飲み物として愛されてきましたが、ココアバターが入っているため大変濃厚なものでした。18世紀中ごろまでは飲みにくさを緩和するために、デンプンなどの粉を混ぜて余分な脂肪分を中和するのが普通でした。
しかし、1800年代になるとチョコレートの4大発明といわれるものをはじめとして多くの技術革新が行われ、また、食べるチョコレートが考案されました。これによりチョコレートは大きく発展し、今日のようにお菓子の王様といわれるようになりました。
🔳チョコレートの4大革命
1.ココアの発明(1828年):ココア・ココアバターの生みの親 クンラート・バンホーテン(オランダ)
18世紀後半に生じた世界各地の革命によるカカオ流通の混乱や安価なコーヒー・紅茶の普及により、チョコレートの生産と消費は減退しました。
このような情勢の中で、オランダ人のクンラート・バンホーテンはチョコレートを現在の形にする技術革新をもたらしました。
それまでの飲みにくかったチョコレートを飲みやすくするため、彼はカカオ液(カカオマス)からココアバターを抽出する油圧式の圧搾機を開発しました。これによりカカオ豆に50%以上含まれていたココアバターを28%程度までに減らすことができるようになりました。さらに、カカオマスは砕いて粉末状にすることで、お湯に溶けやすいココアパウダーになり、飲み物として売りやすくなりました。
副産物のココアバター
搾油の過程で副産物としてココアバターが抽出されました。ココアバターはチョコレートに欠かせない原料であり、のちに食べる(固形)チョコレート開発のきっかけとなりました。
ココアパウダーのアルカリ処理
彼はカカオ豆をアルカリ液で処理する方法を考案し、チョコレートがミルクや水に混ざりやすくなり、風味はまろやかに、ココアパウダーの色調はブラウンになりました。
1828年のココアの発見という技術開発はチョコレートの一大転機となるものですが、生産されたココアバターの用途が少なく、すぐには全面的に採用されませんでした。需要の拡大は食べるチョコレートが開発されてココアバターの用途が拡がってからになります。
2. 食べる(固形)チョコレートの発明 ジョセフ・フライ(イギリス)
1847年、イギリス人ジョセフ・フライが現在のチョコレートの原型となる固形チョコレートを発明しました。ジョセフ・フライの曽祖父はフライ&サンズチョコレート製造会社を創業し、またその息子でフライの祖父はジェームズ・ワットの蒸気機関を導入してカカオ豆の磨砕工程を機械化しました。そして、その後を継いだのが、ジョセフ・フライです。
当時のチョコレートは、ココアパウダーと砂糖をお湯に溶かした飲料でしたが、ジョセフ・フライはお湯の代わりに、ココアパウダーと砂糖にココアバターを加えてみました。すると冷やすと常温では固体になり、口の中では体温で溶けるという固形のチョコレートができました。また、型に流し込んでいろいろな形のチョコレートができるようになり、1847年に食べる(固形)チョコレートを発売しました。
3.ミルクチョコレートの開発 ダニエル・ピーター(スイス)
1875年、スイス人のダニエル・ピーター(Daniel Peter)がミルクチョコレートを生み出しました。彼は、スイスに初めてのチョコレート工場を作り、チョコレートバーを発明したフランソワ・ルイ・カイエ(Francois-Louis Cailler)の娘と結婚しています。
チョコレートは油分が多く、水とは混ざりにくく、ミルクを添加すると粘土のようなボソボソしたものになります。そこでミルクの水分を取り除く必要がありました。当時住んでいたベベイ村には有名なネスレ社を創業したアンリ・ネスレ(Henri Nestle)が住んでおり、育児用粉乳を発明していました。そこでネスレ社と協同開発のミルクを使用したミルクチョコレートが誕生したのです。
4.コンチェの発明 ルドルフ・リンツ(スイス)
カカオマスに砂糖や粉乳等を混ぜて細かくすりつぶすと粉末状になります。この粉末状のチョコレートを強力に攪拌しながら練っていくと、内部の空気が抜けて徐々に液状化してきます。この工程がコンチング(精錬)で、これに使用する機械をコンチェといい、チョコレートの製造工程には欠かせない設備です。
コンチェを発明したのはスイスのルドルフ・リンツ(Rodolphe Lindt)です。 リンツは菓子職人のもとで修行を終えたのち、工場とロースト機を買ってチョコレートの試作を行っていました。薬剤師の父の後を継いだ兄のところで試作品を分析してもらうなどして、いろいろな示唆を受けていました。
彼は、カカオニブ(カカオ豆の皮をとって細かくした実の部分)を使って、メランジャー(攪拌機)タイプのロールの動く装置でチョコレートを作ったところ、非常に粗いものとなり表面に油分が出てしまいました。そこで兄の示唆により72時間連続稼働させたところ、チョコレートが滑らかになっただけではなく、大変美味なチョコレートができました。
また、スイッチの切り忘れで72時間連続稼働した結果という説もあります。リンツが連休の前日に水力で動いていた機械を止めずに帰ってしまったところ、連休明けに機械を覗いたらチョコレートが様変わりしていて、トロリとして口溶けが良く、マイルドになっていたということです。
いずれにしろ彼はこの機械を改良・発展させ、これをコンチェ(CONCHE)と名付けました。貝に似ているのでスペイン語のコンチャからの命名といいます。
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🔳ココア発明の起源:もし当時、乳化装置があれば?
ここまで一緒にカカオの歴史を辿っていただき、ありがとうございました。歴史から分かることは、カカオが長い間上級階級の飲み物として愛されてきたこと、そしてカカオには油脂分の割合が高いため、水や湯に溶かすと表面に油が浮いて飲みづらいという欠点があることです。このため、美味しく飲みやすくするためにさまざまな工夫がされてきました。
近代化に向けて大転換となったのは、1828年にココアが誕生した時であり、カカオに含まれる油脂分を搾取する装置が発明されました。この時に副産物として得られたココアバターが、現在の食べる(固形)チョコレート開発のきっかけとなりました。そこで、もしこの当時に乳化技術があれば、という「たら話」を考えてみました。
・『乳化技術』で解決できたこと
この時代に機械で乳化するという技術があれば(たら話ですが)、歴史は変わっていたのではないかと考えています。当時開発されたココア(現在もほぼ同じ)はカカオバターを分離するとともに、アルカリ処理で水に溶けやすくする化学処理を加えています。確かに水やお湯に溶けやすくなったとは思いますが、どちらの処理もカカオ本来の味や香りを低下させるものです。
一方で乳化は、水やお湯の表面に浮いてギトギトしているカカオバターを細かな油滴に分散させることで、飲みやすくするだけではなく、カカオバターの持つ味や香りをより引き出し、口当たりも滑らかにできます。もし当時にこの技術があれば、王侯貴族の間で愛されてきた「ショコラトル」(カカオドリンク)がココアの広がりよりも早く世界各国へ広がり、現在もカカオそのものの原料の魅力を楽しむドリンク「ショコラトル」が広まっていたのではないかと考えています。
🔳「CLOSER」がで実現したいビジョン
『消費者に一番近い場所で、
産地から繋がれてきたカカオ豆の個性を表現する』
ココア農園で生産されたカカオ豆は、人の手を渡り、数多くの工程を経て消費者の元に届けられます。
従来の大量生産型の製法では、異なる産地のカカオ豆をブレンドし、砂糖や香料、植物油、乳化剤などを加えることで、均一な品質を保つことが優先されてきました。
一方で近年はサステナブルなカカオ生産に目を向けるブランドも多く、豆の仕入れからチョコレートになるまでの全ての工程を行うBean to Barというスタイルにも注目が集まっています。
そんな産地から繋がれてきたカカオの味わいを最大限表現する「最後の一手間」をお手伝いする存在として、CLOSERの「乳化」がみなさまの手元で活躍する未来を信じています。
乳化剤などの添加物を使用せずに、カカオ本来の繊細な風味となめらかな口当たりをぜひお楽しみいただければ幸いです!
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