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理系女と文系男/第20話;ノンアルコールのプチ同窓会

私たちは高校を卒業して、大学に進学した。四人とも別の大学に進学した。
私とシュー君が地元の大学、ケイとタケ君は他地方の大学だ。

高校の時のように毎日顔を合わせることはなくなったけど、頻繁に連絡は取り合っていたし、長期休暇にはケイたちが帰省してきた時には、顔を合わせる機会を作っていた。

それなりの関係は続いていた。

高校を卒業後、初めて会合を開いたのは大学一年生の8月だった。

参加メンバーは私たち文筆部四人と、ケイが親しくしていた非常勤講師のカブト先生だった。本来なら、文筆部の顧問の先生を呼ぶべきでしょう…と思うけど、まあケイが会いたい人を集めた会だから仕方ない。

これ以降、この五人で集まることが多くなった。

因みにカブト先生は、私たちが高二になる頃には私たちの学校を辞めていた。自治体の教員採用試験に合格して、公立高校の正規教諭になったからだ。

皆それぞれ、次のステージに進んでいた。

これから、8月にあった会合の模様を描いていきたい。


待ち合わせ場所は、新幹線が止まる駅の一角だった。夕方の17:30が待ち合わせ時刻だった。
私が待ち合わせ場所に着いたのは17:00頃だった。最初に到着したのは私っぽかった。

(まあ、あいつらはギリギリ派だよね。この流れは当然か)

という訳で、私はボケーっと皆さんの到着を待った。

次に姿を見せたのはシュー君だった。あんまり変わってなかった。
なんて思っていたら、私も同じことを言われた。

「おっ、まりか。久しぶりだな。あんまり変わってないな」

大一の時、私はあんまり化粧をしておらず、むしろ地味な印象だったんだろう。
髪は黒のままだった。染めるのは父親が禁止していたからだ。まあ、私も染める気がなかったから良かったけど。
ピアスは私が怖いから、開ける気になれなかった。

シュー君の次に姿を見せたのは、カブト先生だった。
高一の時以来、二年半ぶりの再会だ。

「おおっ。久しぶりだな。遠くでも、まりかが美人で目立つから、すぐわかったぞ」

カブト先生はそう言いながら、私とシュー君に近付いて来た。
私とシュー君は「お久しぶりです」と頭を下げた。

(いや。人混みの中で目立つのは、私より180 cm超えのシュー君の方でしょう?)

なんて私は思ったけど、さすがに言わなかった。
ここから暫く、カブト先生が一人トーク的に喋りまくった。

「西野とタケは、まだなんだな。相変わらずルーズだなぁ。しかし…まりかは高校に上がったらすぐにスカート短くしたから、大学デビューしたら化粧を憶えて派手になるのかと思ってたんだが…。やっぱり根は真面目だな。シューはどうよ? 大学、家から通うには遠いよな? 朝、キツくないか?」

こんな調子でカブト先生が私たちに話を振り、それに私たちが応じるという状況が暫く続いた。

カブト先生が喋っていると、そのうちケイとタケ君が到着した。
二人揃って、何やら楽しそうに喋りながら現れた。
私は声を上げながら、ケイに飛びつきたかったんだけど…。

(先生がいると、やりにくいね…)

そんな私の心の声も知らず、カブト先生はケイとタケ君にも話し掛けた。

「遅ぇぞ、お前ら。変わらんなぁ、お前らも」

そう言ってきたカブト先生に対して、ケイは変わりにくい表情ながら笑顔で受け答えしていた。

ところでケイの外観はかなり変わっていた。

(なんか、マッチョになってない?)

中学の時、私はケイに対して『典型的な文科系タイプ。体力ゼロ』みたいな印象を抱いていた。初めて会った時、私の方が10 cmくらい背が高かったし。

高校に上がる頃、ケイは私の身長を抜いたけど、男子全体の中で見たら『平均よりやや高め』という程度。中学の時よりは頼もしくなったけど、『力強い』みたいな言葉には縁遠い雰囲気は相変わらずだった。

そんなケイがどういう訳か、細めのラグビー選手くらいの体格になっていたのだ。
かなり衝撃的だった。

「そんじゃ行くぞ。まりか、今日は盛り上げてくれよ」

カブト先生と話し終わると、ケイは私に近付いて来た。
私は自然と笑顔になった。

そして私たちは会合の場所となる店まで移動した。

行く途中、私とケイは隣り合って歩いていた。当然だけど、嬉しかった。
「大学はどうよ?」みたいな世間話をいくらか交わした。


会合の場所に選ばれたのは、大手チェーンの焼き肉屋だった。
予約はタケ君がしたらしい。

席は私とケイが隣どうしで、カブト先生とシュー君とタケ君と向かい合う形で座った。

いろいろと注文をしたのだけど、やたらケイが肉にうるさくなっていて、これもまあまあ意外だった。
飲み物は、カブト先生を含めて全員ソフトドリンクだった。

「お前ら、誰も酒呑まんのか? 真面目だなぁ」

自分もソフトドリンクを頼んだ割に、カブト先生はそう言っていた。

「いやいや。俺たち、まだ20歳前ですから」

すかさずこんな返しができるタケ君は、きっと四年後には社会人として上手くやって行けるんだろうな。そんな雰囲気を存分に漂わせていた。

ところで私はこんなことを思っていた。

(誰もお酒呑まないんだ。やっぱり私、この人たちとしか付き合えんな…)


私は大学に進学後、ちょっとしたカルチャーショックに苦しんでいた。酒に関することだ。

大学での人間関係には、なんでか知らないけど、何かにつけて酒が纏わりついてきた。どういう訳か、やたら他人に酒を呑ませたがる人が多かった。

一年生なら年齢的にはまだ駄目なハズなのに、大学デビューか何か知らないけど、やたらと呑ませたがる人が多かった。嫌がったり断ったりすると、文句を言われる。

飲酒を要求してくる人たちが言うには、
「酒を呑まなければ、本当の人間関係は作れない」
らしい。

そんな人たちを私は軽蔑するようになった。

だから大学ではサークルに入らなかったし、酒を好まない陰キャとしか親しくならなかった。

酒を毛嫌いし過ぎと思うかもしれないが、両親とも飲酒嗜好が無く、冷蔵庫に酒が置いていない家に生まれた子なんて、こんなモンだ。

とにかく私は酒を憎むようになったし、酒を呑ませたがる人を避けるようになっていた。


(私は酒無しでも、この人たちと深い人間関係を築いたよ。酒が無きゃ友達もできないとか、コミュ障にも程があるよね)

私はケイたちと焼肉を食べながら、そんなことを思っていた。

ところでマッチョになったケイだけど、中身は変わってなかった。

「親元を離れたら、中学や高校の時より勉強しなくなるな。深夜アニメの録画が、気付いたら週10時間分もあって…。この調子だと4年で卒業できんかもな」

ケイは笑いながら、そんな話をしていた。タケ君がこれに続く。

「わかる! 親の監視が無いと、本当にダラける!」

なんか、中学や高校の頃から同じようなことを言い続けてる気がしますが…。

「おいおいー。相変わらず勉強してるのは、まりかだけか? 男ども、しっかりしろよ」

と、カブト先生が笑う。

「いやいや、シュー君はサボってるとか言ってませんよ。地元組は怠けてないでしょう? ねえ?」

私はシュー君に話を振ったけど、返答は芳しくなかった。

「どうかな…? ご期待に添えるかどうか…」

頼りない喋り方のシュー君に、カブト先生が「しっかりしろよ!」とツッコミを入れて、私たち一同はどっと笑った。

(結局、私には文筆部しか無いみたいだね)

私は酒無しで会ってくれる彼らのありがみを、強く噛み締めていた。


こんな感じで、このプチ同窓会は定期的に開かれた。
20歳になった大学二年以降も、酒が出ることはなかった。酒が絡まないから、頭が働いた状態で愉しく話すことができた。

この会が途切れたのは、新型ウイルスの感染症が蔓延して緊急事態宣言が発令された時。だけどその年には、私とケイにとってもっと重大な事が起こったのだけど…。

それはこの物語の最終盤の話である。


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