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理系女と文系男/第2話;キモヲタ仲間

私の学校では、中一の時に生徒全員が何かしらの部活に入るよう言われていて、4月の末には決めなければいけなかった。
私は演劇部に入った。ケイの方は文芸部にでも入ると思っていたのだが、意外にも弓道部に入った。

部活を決めた次の日、昼休みにたまたまケイと部活の話をした。

「ケイが弓道部って意外。絶対に文化系だと思ってたから」

そう言った私に、ケイは表情を変えずに淡々と語った。

「姿勢が良くなりそうだし、集中力も付きそうだからな。弓道部にした」

私は「ふーん」と言いながら頷いた。
因みにケイは、この数か月後には弓道部を辞めるのだが、これはどうでもいい。

「まりかの演劇部は妥当だな。その顔なら看板女優になれるだろうし」

この頃になると、ケイは私を呼び捨てで呼ぶようになっていた。まあ、私もだけど。
そして相変わらず、ケイはさらりと私の容姿を誉めてくる。
当時の私は「自分は可愛いと言われて当然」くらいにしか思っていなかったので、これに反応することはない。
反応したのは、この点だった。

「いや。演じる方はあんまり興味がないんだよね。舞台に立って、キャーキャー騒がれたい訳でもないし。てか、そうなりたかったら、AKBにでも入ってるし」

私が反応したのは、ケイが「看板女優になれる」と言った点だった。
私の発言が意外だったのか、ケイは少し目を大きくした。
そんなケイに私は語った。

「実は私、戦隊とかライダーが好きでさ。ウルトラマンも。脚本を書いてみたいんだ。小林靖子さんとか、太田愛さんとかに憧れてて」

私は明かした。自分がヒーローオタクであることを。
この告白に抵抗は無かった。恥ずかしいとも思っていなかったし、これらが劣ったドラマとも思っていなかったし。
否定的な意見を言う人がいることも判っていたけど、他人が何を言おうと私が好みを変える必要なんかない。そう思っていた。

もしかしたら、ケイは私の趣味に否定的な発言をするかもしれない。
ちょっとだけ、その展開も考えていたけど、ケイは相変わらず私の予想の斜め上を行く奴だった。

「小林靖子って、ライダーだと電王の脚本書いてたんだっけ? もう一人の方は知らないけど」

ケイは頷きながら、そう呟いた。私は驚いた。

(は? こいつ、ライダーの話できるの!?)

私が驚いていると、ケイは自分の鞄をゴソゴソと探り始めた。そして一冊の本を取り出して、それを私に差し出した。

「参考になるかもしれないから読んどけ」

ケイが私に差し出したのは、ライトノベルだった。表紙絵から、ファンタジー系のバトル物だと察しがついた。

「あんた、こういうのも読むの!?」

難しそうな本しか読まないと思っていたケイがライトノベルを差し出したのは、本当に意外だった。
驚いた私にケイは語った。

なんとケイはアニヲタでもあった。話によると、深夜帯に放送されているアニメを何作も録画していて、観るのが忙しいらしい。
ケイが私に差し出したのは、最近アニメ化された作品の原作小説だった。

「へーっ。まさか、そんな趣味があったなんてね……。でも、ありがとう。ありがたく読ませてもらうよ」

私はそう言って、ケイに微笑みかけた。
ケイは私の顔を見た後、照れたようにすぐ視線を逸らした。


話題は逸れるけど、暫くしたら中間テストの時期が来た。

私はてっきり、いつも本を読んでいるケイは勉強もできる思っていた。だけど蓋を開けてみたら、私より圧倒的に点数が低かった。

(まあ、読んでる本の内容がテストに出る訳じゃないしね。あんだけ本読んで、アニメもいっぱい観てるんだから、勉強してる訳ないか)

よくよく考えればケイの勉強時間は短いハズで、テストの成績も納得できるものだった。
頭は良いけど成績は悪い。ケイはそういう奴なんだと、私は認識した。

ついでに言っておくと、ケイは数学が凄く苦手だった。
代わりに国語は私よりもできた…なんて程度では済まないくらいにはできた。あの読書量の賜物だろう。

それを知ってから、私はケイを
「数学、教えたろか?」とイジるようになったが、
その反面、語学面ではケイを信頼するようになった。

いつの間にか私は、初めて見る言葉やよく理解せず使っている言葉の意味を辞書で調べるのではなく、ケイに訊くようになった。


ケイは私に、頻繁にいろんなライトノベルを貸してくれるようになった。
その影響で、私は自分で小説を書くようになった。当時、まだパソコンは持ってなかったから、手書きでノートに書いていた。書いた小説を、ケイは読んでくれた。

「漢字が間違ってる。それから、表現が稚拙すぎる」

ケイは厳しく、私は何度も苛つかされた。だけど貴重な読者であり、師匠でもあった。
だけど、この展開はケイの期待していたものとは違ったらしい。

「本当は、まりかを洗脳して、アニヲタ仲間にしたかったんだけどな……」

ある日、ケイはそう吐露した。そんなに驚かなかった。「ああ、そうだったの」くらいの感じ。
笑っちゃう話だけど、本当にケイは失敗していた。

「あんたの方がライダーとか戦隊に詳しくなっちゃうなんてね」

ケイは私と話を合わせる為に、日曜日の朝にライダーや戦隊を律儀に観るようになった。彼は元々プリキュアを観ていたから、以前の一時間前からテレビを観るようになった感じだ。
私は意外にプリキュアを観たことがなく、ケイと親しくなってからも観ることはなかった。というのも、プリキュアと同じ時間帯に別の局で母の観たい番組があり、家ではその番組が優先されていたからだ。

何にせよ、自分が想像していたのと、逆の状況になってしまったのだ。
ケイには申し訳ないけど、私にはありがたかった。
ケイは私の読者兼師匠だけでなく、キモヲタ仲間にもなってくれたのだ。


そのうち私たちは中二になり、違うクラスになった。
クラスが変わってケイとの会話が減った分、私は女の子の友達と話すことが多くなった。
それでも中一の時と変わらず、自作小説をケイに読んでもらう関係は続いた。

ケイの方もいい加減に男子の友達ができた。タケ君っていうゴツい体格の子と、シュー君っていう背の高い子の二人だ。

タケ君は見た目と違ってゴリゴリの文化系タイプで、ケイとは気が合ったらしい。

シュー君とは何やら大喧嘩をしたことが切欠で仲が良くなったらしい。それこそ殴り合ったとか何とか? 殴るほど嫌いだった相手とどうして親しくなれるのか、私には全く理解できなかった。


そろそろ彼氏とか彼女とか、そういう関係を求める子も目に付くようになったけど、私はあんまり興味が無かった。
自作小説を書いて、ケイに読んでもらう。それだけだった。
私はそのうち、タケ君とシュー君とも親しくなった。


中三になると、私はまたケイと同じクラスになった。シュー君も同じだった。嬉しかった。
今思えば、楽しいことが一番多かった時期だと思うが、この話ではウェイトを下げておく。

所属していた演劇部で、ようやく私は台本を書かせて貰えた。
最初、自分の書いた台詞を他人が喋るのが、もの凄く恥ずかしかったけど、何回か観てるうちに何とも思わなくなった。

私が台本を書いた劇は文化祭でお披露目となった。
今思うと、人に見せられないような酷い台本だし、恥の塊だと思ってる。だけど、あれが当時の私の全てだった。

私が書いた劇を、ケイもシュー君もタケ君も観てくれた。
いろいろと感想やダメ出しをもらった。本当にありがたかった。

だけど当時の私は、この三人の男友達をありがたいと思っていなかった気がする。如何にもな社交辞令で「ありがとー⭐」と裏声で言った気がするけど、心は籠っていない。
私は可愛いからチヤホヤされて当然。
そんな気持ちが私の中に強くあったんだろう。

それに気付いて後悔するのは、まだ十年くらい後になってからだった。

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