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社員戦隊ホウセキ V/第95話;オブシディアン・ギガンティス

前回


 五月三十日の日曜日の正午。寿得神社の杜で、社員戦隊のブレスに思わぬ人物…ニクシムの将軍であるザイガから通信があった。

 黒のイマージュエルで普宙の刑務所の上空に乗りつけたザイガは、リヨモを差し出すよう、社員戦隊に要求…と言うか、脅迫してきた。要求に従わなければ、普宙の刑務所を破壊すると。

 ザイガの暴挙を防ぐべく、社員戦隊は出撃した。


 ザイガが送ってきた黒のイマージュエルの映像は、ゲジョーのドローンが撮影したものだ。そのドローンは引き続き刑務所を破壊するオブシディアン・チャリオッツを撮影し続けていた。

 ドローンを操作するゲジョーは、刑務所がある普宙の喫茶店に居た。紺のブレザーに白いカッターシャツ、紺の短いプリーツスカートと女子高生に擬態している彼女は、窓際の一人席に陣取って、机に置いたタブレット端末の画面に見入る。その画面には、ドローンが撮影した映像が届けられていた。

「地球のシャイン戦隊よ。勇ましく挑むのは良いが、ザイガ将軍に勝てるか? ゾウオや憎悪獣とは比にならんぞ」

 ゲジョーはザイガの戦闘力に絶大な信頼を寄せており、笑顔を浮かべていた。その彼女が見つめる画面には、次の砲撃を敢行しようとするオブシディアン・チャリオッツの様子が映し出されていた。


 普宙刑務所では砲撃で破壊された建物から受刑者たちが外へと流れ出し、オブシディアン・チャリオッツの姿を見るや恐怖に駆られて逃げ惑う。ザイガは宝世機の中からその様子を見下ろし、受刑者たちの顔を確認する。

「見るからに愚者ばかりだな。お主らなど、生きるに値せん」

 ザイガがそう呟くと、その意思を受けてオブシディアン・チャリオッツは動く。二本の大砲は斜め上を向き、再び火を噴いた。放たれた黒紫の光弾は受刑者たちの頭上へと飛んでいくと、そこで無数に分裂し、黒い火の雨となって広範囲に降り注ごうとする。逃げ惑う受刑者を全て、爆撃せんと言わんばかりに。しかし、その時だった。

「止めろおぉぉぉっ!!」

 多量の水が虹を創りながら、空から降って来た。水の雨は一粒ずつ火の雨に当たり、これを掻き消していった。かくして受刑者たちは難を逃れた。さてザイガは攻撃を妨害されたのだが、怒りの音を立てることはなく、静かに水が放たれて来た方を振り向いた。

「来たな、地球のシャイン戦隊」

 その先には予想通り、ホウセキVの宝世機が構えていた。地上には左からトパーズ、ピジョンブラッド、サファイア、ヒスイ、空中にはガーネットという構図で。今の雨は、確実にピジョンブラッドの梯子から放たれたものだった。相手の宝世機を確認すると、ザイガは一度脱いだメットを再び被り、ブレス越しにホウセキVに言った。

「お主たちの能力がどの程度なのか、直接見せて貰いたい。行くぞ」

 この時、ホウセキVは五人とも砲撃が来るのかと思ったが、その当てはすぐに外された。
    なんと、オブシディアン・チャリオッツは変形を始めた。

「何っ!? ザイガのイマージュエルも、想造神になれるのか!?」

 彼らが驚いている間に、オブシディアン・チャリオッツは形を変えていく。蹲った人が立ち上がるように姿勢を変え、二本の大砲を備えた砲台は背負われる形になり、キャタピラは大袖や箙として肩や腰を覆う。僅か数秒で、黒耀石の戦車は黒と金の鎧武者を思わせる巨人へと姿を変えたのだった。


 その頃、寿得神社ではリヨモが震撼していた。ホウセキVの宝世機が時空を歪めて現地に到着したのとほぼ同時に、離れの一階に到着した彼女。すぐにティアラで現地の映像を確認したのだが、もう鉄を叩く音が鳴り止まらなくなってしまった。

「あの砲撃、ピジョンブラッドの水で消されたということは…。イマージュエルの力を、憎心力で引き出したということ? しかも、イマージュエルを想造神に変形させた? ジュエランドでは誰もできなかった筈なのに…」

 自分の知識と戦場の光景には乖離があり、リヨモは半ば気が動転しそうになっていた。



 リヨモとは対照的に、普宙の喫茶店でドローンを操るゲジョーはご機嫌だ。

「見たか。ザイガ将軍はイマージュエルに憎心力を作用させ、更なる力を引き出されたのだ。この姿はそうぞうしんオブシディアン・ギガンティス! グラッシャを救った希望の巨人だ。地球のシャイン戦隊よ、貴様らでは絶対に勝てん!」

 タブレット端末の映像を見ながら仰々しい独り言を言うゲジョーは、周囲の人々に変人と思われていた可能性が高いが、彼女にとってそんなことはどうでもいい。想憎神、オブシディアン・ギガンティスは彼女の目に、どんな宝石よりも眩く見えていた。


 普宙刑務所で、イマージュエルを想憎神に変形させたザイガ。彼はブレスを通して、ホウセキVの声もリヨモの声もゲジョーの声も聞いていた。その中から、ザイガはリヨモの発言をあげつらった。

「マ・カ・リヨモよ。お主はやはり愚かだな。ダークネストーンには憎心力しか作用しないが、イマージュエルには想造力も憎心力も作用するのだぞ。そんなことも知らず、よく五色のイマージュエルを持ち出したものだ」

 ザイガの言葉は返答ではなく、愚弄だった。リヨモだけでなくホウセキVの耳にもこの言葉は届き、五人はそれなりに怒りを覚えた。その調子でザイガは続ける。

「それから、私がイマージュエルを想造神にできんと思っていたそうだが…。お主と私が最後に会ってから、どれだけの時が経ったと思っている? 当時と変わっていて、然るべきではないのか? 尤も、お主のような無能者には進歩という概念が存在せぬから、解らぬのかも知れんが。あの愚兄の娘だしな」

 ザイガの指摘は、悉くリヨモへの侮辱に結び付けられていた。これらの言葉に、リヨモよりもホウセキVの方が激しく怒りを覚えた。

「黙りなさい! あんた、性格悪すぎ! どうして、そこまで言うの?」

「いい加減にしろ! 隊長にちょっかい出すは、リヨモ姫を侮辱するは…。お前、どうしょうもない奴だな!」

「この方には、お仕置きが必要ですわね」

 この時、五人の意志は一致しており、次の瞬間には声を合わせて「宝石合体」と叫んでおり、五体の宝世機は合体していた。かくして、オブシディアン・ギガンティスとホウセキング、二体の巨人が対峙する。

「ザイガが憎心力を使うなら、はっきり言って怖くねえ。さっきのクラスター爆弾みたいに、ピジョンブラッドの水で消せば良いだけだ」

 ホウセキングの中、最も右側に位置するイエローが、相手の戦力を分析してそう言う。的を射た発言で、レッドは威勢の良い返事をし、他三名も深く頷く。

 この言葉は、ブレスを通じでザイガも聞いていた。

「そうか。怖くないのか。ならば受けてみろ」

 ザイガがそう言うと、オブシディアン・ギガンティスが背負った大砲は向きを変える。ギガンティスは左右の肩に大砲を一本ずつ担ぐ形になった。そして、二本の大砲からは勢いよく青白い炎が噴出される。

「さっきと同じように、消してやる!」

 レッドが叫ぶとホウセキングは左腰に備えたピジョンブラッドの梯子を前に向け、勢いよく放水する。かくして、ギガンティスの炎とホウセキングの放水は正面衝突した。炎と水という組み合わせ、加えてこの水の効果を考えると、ギガンティスの炎はホウセキングの水に消されるのが当然だと思われたが…。

「何だと!? 水で消えない!?」

 青白い炎はホウセキングの放水を突破した。その光景はホウセキVとリヨモの度肝を抜いた。ホウセキングは火炎放射を機体に受けたが、すぐグリーンの意思を受けて右腕に備えたヒスイのウイングから光の盾を形成し、何とか火炎放射を凌いだ。しかし疑問は尽きない。

『何故? 憎心力なのに、ピジョンブラッドの水が効かなかった……』

 寿得神社の離れで、リヨモは鉄を叩く音と歯車の音を響かせる。

「まさか……。ザイガは想造力と憎心力の両方を使えるのか!?」

 ピジョンブラッドの水を突破したということは、憎心力ではない。このブルーの推理は正解だった。

「ご明察、青の戦士。それに比べてマ・カ・リヨモの発想は貧困だな。想造力も憎心力も、どちらも精神を源にする力。決して相反するものではない。憎心力を使うからと言って、想造力を使えんという話ではないのだ」

 ザイガは力説しながら、ブレスから愛刀を抜いた。すると、ギガンティスの手にも何処からか巨大なダマスカス鋼の刀が出現する。

「剣には剣だ! ホウセキングカリバー!!」

 ホウセキVも対抗して、ピジョンブラッドの梯子をホウセキングカリバーに変形させる。かくして二つの巨人による剣戟が始まったが、戦況はギガンティスが優位だ。

(確か社長、ザイガは剣の腕が凄いって言ってたけど…。本当に強い!)

 五人揃ってそう思う程、ザイガの操るギガンティスは強かった。俊敏な足捌き、重い斬撃、相手の動きを読んだ的確な攻め。全ての面でギガンティスは長けており、ホウセキVの操るホウセキングは防戦一方になっていた。


次回へ続く!

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