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理系女と文系男/第10話;スカート談義

あっという間に時間が経って、二学期が終わって冬休みも終わった。
冬休みが明けると、学校で実力テストがあった。このテストの最終日、テスト後に文筆部のミーティングが予定されていたんだけど、開催場所がかなり特殊だった。

「ケイ、お待たせ! それじゃ、案内ヨロシク~」

私はテスト後、学校の裏門に行った。そこにはケイが待っていた。
ここで私たち二人は合流し、裏門から学校の外に出た。文筆部のミーティングを行う為に。

「取り敢えず許可して貰えて良かったぁ。顧問の先生、エロいけど優しいわ」

ケイと歩きながら、私はしみじみと語った。

凄く変な話なんだけど…この日の文筆部のミーティングは、ケイのお祖母さんの家で行われることになった。学校の外でやることになった背景には、かなり複雑な事情があるのだけど、これは後の話で説明する。

ケイのお祖母さんの家は、私たちの学校から徒歩五分程度の場所にあった。ケイは学校帰りにお祖母さんの家に寄ることが多かったらしく、この家に自分用の部屋まであるとのことだ。
タケ君やシュー君は、何度かお祖母さんの家に招かれたことがあるらしい。私は今日が初めてだった。

「シュー君、大丈夫かな?」

お祖母さんの家に向かう途中、私は他の二人…と言うよりも、シュー君の安否を心配していた。そんな私の声を受けて、ケイは悩むように顔をしかめた。

「まあ、上手く逃げてくれるしかないな」

唸るように、ケイは呟いた。
この妙な雰囲気の理由は、本当にいつか説明する。取り敢えずこの時期は大変だったのだ。


私とケイは、お祖母さんの家に到着した。広い庭を備えた、かなり広い豪邸だった。
表札に書かれていたの名字はケイとは違った。

すぐ家の中に入っても良かったのだけど、暫く外でタケ君とシュー君を待つことにした。その時、ふとケイが私に問い掛けた。

「なあ? ずっと気になってるんだが。足、寒くない?」

完全な雑談だった。
もう一月。気温はしっかり低い。だから私も、コートを着てマフラーも巻いて手袋をして、ちゃんと防寒していた。上半身は。
対照的に下半身は手薄だ。スカートは短く、足はハイソックを穿いているだけ。地肌を見せる膝やふとももが寒気に耐えられるのか、男子には気になって仕方ないらしい。

しかし、意外に耐えられるものである。この頃の私は強かった。

「この程度なら大丈夫だね。上が暖かいから耐えられる。雪が降ったら、さすがにタイツ穿こうと思うけど」

私がそう答えると、ケイは「そうか」と呟いた。決して、納得してる感じではなかった。
私は何故かこの流れで変な話を続けてしまった。

「見せないけどね! スカートの中は無防備じゃないから。見せパンが防寒にもなるし。スパッツの子はもっと強いね。だけど、ジャージを下に穿いてる子。あれは意味がわからん。可愛くないどころじゃない。ダサすぎる」

普通に思っていることを私は話したんだけど…。はっきり言って、男子にする話ではなかった。
ケイはこの話に合わせてきたけど、やっぱり変になってしまった。

「見せパン…?   あれか?    黒いパンツかと思ったけど、何か違うんだな」

ケイはボソっと漏らした。最初、私はこれを聞き流すつもりだったけど、ちょっと考えたら聞き流す訳にはいかなかった。

「ちょっと待って…。まさか、あんた見たの? 私の?」

私はケイに確認しないではいられなかった。詰め寄る私に対して、ケイは動じることなくさらっと答えた。

「見たと言うより、見えた。しゃがんだ時に」

こういうことを躊躇なく言えるこの男は変わり者…で済むのだろうか? 取り敢えず、私はケイの腹を軽く裏拳で叩いた。「見たんかい!」と言いながら。
私も全力で殴った訳ではないからダメージは全くなく、ケイは笑っていた。

そんなバカな話をしているうちに、タケ君とシュー君もお祖母さんの家にやって来た。
安心した。
四人揃ったところで、私たちは家の中にお邪魔した。


家の中にお邪魔すると、ケイのお祖母さんに出迎えられた。お祖母さんは腰が低く、喋り方も丁寧で、そこはかとなく上流階級の雰囲気を漂わせていた。

私たちはお祖母さんへの挨拶をそこそこに済ますと、ケイが自室として使っている部屋に向かった。その部屋は二階だった。
必然的に私が最後に階段を昇った。まさか私を最初に昇らせる程、彼らも露骨なことはしなかった。

「広っ! しかもテレビまであるとか、凄くない?」

ケイが自室として使っている部屋に着いた時、私は思わずそう言った。

その部屋は個人部屋と言うよりは、居間か客間と言った方が正確だった。見た感じ、広さは十二畳くらい。二つのソファーがL字を作る形で並べられていて、ソファーの前には背の低い机があった。私が反応したテレビは、ソファーから少し離れた場所に設置されていた。

部屋に着いた男子三人は、慣れた様子で部屋の隅にあるコート掛けに自分のコートを掛けてから、それぞれソファーに腰掛けた。

私もコートを脱いだがコート掛けは使わず、自分の膝に掛けてソファーに座った。ケイはリモコンでエアコンをつけてから、私の隣に座った。タケ君とシュー君は私たちとは別のソファーに座った。

このままミーティングとなるハズだったんだけど…場所が学校でない上にテスト後なので、大なり小なり全員気が抜けていた。

「なあ、やっぱ寒いんじゃないの? 足」

まずケイが私に訊ねてきた。コートを掛けた私の足元を見ながら。私は苛つきを見せながら、この質問に答えた。

「これは防寒ではなく、エロ視線ガードです。隙を見せたら、君みたいな子が私のスカートの中を覗こうとしますので」

外でタケ君たちを待っていた時、さらりとケイが告白した内容を私は根に持っていて、厭味ったらしく丁寧語を使った。
ケイは顔を歪めて、苦々しく「見えただけだろ」と呟いた。

ここで終われば問題は無かった。だけど、どういう訳かタケ君とシュー君もこの話題に食いついて来た。

「これ、まりか以外の女子にも思ってることなんだけどさ。見られたくないなら、スカート短くしなきゃ良くない?」

これはタケ君から私への質問。私は女子を代表するつもりで、この問の解説をした。

「見られたくないけど、可愛いじゃん。ほら? 勉強時間が確保できなくなるって解ってるけど、面白いからアニメ観ちゃうとか。太るって解ってるけど、美味しいからチョコ食べちゃうとか。それと同じ話で、見えやすくなっちゃうけど、可愛いからスカート短くしてるんだよね」

勿論、これは私の気持ちであって、全員がそう思っている訳ではないだろう。だけど、我ながら上手く説明できたと、私は悦に入っていた。
しかし、聞き手の男子三人は解ったような、解らんような。そんな感じだったので、すぐ次の質問が来た。

「可愛いって言うけど、私服だとスカート長かったよな?」

これはケイの質問。彼が私の普段着を知っているのは、休日にデートしたから…ではない。残念ながら。
彼と私は同じ塾に通っているから、冬期講習の時に互いの普段着姿を見ただけだ。
それはともかく、私はこの問にも回答する。

「上との相性とか、スカートの形とかによって、可愛い長さが違うから。この制服なら、短めが可愛いだけ。何でもかんでも、短いのが可愛いって訳じゃないから。ほら、ケイも言ってたじゃん。ブレザー制服ならミニの方が可愛くて、セーラー服なら長い方が可愛いって」

私はケイが過去に言ったことも絡めて上手く解説したつもりだったけど、当のケイは首を傾げていた。

「俺、そんなこと言ったか?」

と、ケイは漏らした。おそらく、ブレザーならミニが可愛くて…についてだろう。
今思えば、私が一方的に力説して、ケイはそれに「うんうん」と適当に合わせていただけで、それを私が『ケイの発言』としていた可能性は十分あっただろう。
だけど、これはそんなに拘る内容ではなかったらしい。

「だけど、やっぱJKは凄いわ。さっき、見せパンとか何やらをスカートの下に何か穿いてるとか言ってたけど…。俺、冬に短パンで冬過ごせって言われても、絶対に無理だぞ」

ケイはそう言った。タケ君とシュー君は、それに同調して「確かに」と頷いた。
そして私は冬に短パンと聞いて、なんか変な連想をしてしまった。

「冬に短パンと言えばさ。小学校の頃、冬でもランニングと短パンで登校してる男子いなかった?」

私はケイたち三人にそう問い掛けた。三人とも心当たりがあったらしく、「いたいた」と懐かしむような口調で答えた。
反応が良かったので、私はこのまま続けた。

「そういうタイプの男子って、なんか先生に誉められてなかった? 冬なのに立派だね~みたいな感じで」

この私の問い掛けも、反応が良かった。「確かに」と男子三人は頷いた。私は満足げにほくそ笑む。
ところで、私は何が言いたいのか? 最も言いたいのは、この次だった。

「私、思うんだけど…。冬でもランニングに短パンの小学生男子が誉められるなら、冬でもミニのJKも誉められるべきじゃない? 小学校だと冬でも短パンが誉められるのに、高校だとミニが禁止される。矛盾してると思わない?」

この猛烈にバカバカしい話を、私は真剣にしていた。そして、このバカバカしい話に食いついて来る人もちゃんといた。

「その話、顧問の先生としたことあるんだけど…。まりかに限れば、スカートを短くしてる点は感心してるけど、ガードが固めで視線に気付くとふとももを隠しちゃうから残念だって言ってたよ」

これを言ったのはシュー君。実はこの議論で初の発言だ。どうやら彼は、エロい顧問とそんな話で盛り上がっていたらしい。

「そっかー。そんな話してたんだー。貴方も顧問の先生と同類だったんだー」

私は不自然に笑いながら、棒読みでシュー君にそう言った。シュー君は苦笑いするしかなかった。
そのシュー君をフォローするかのように、タケ君は話題を少し逸らしてきた。

「いやいや。むしろ、冬に短パン穿いてる小学生男子を誉めるのがおかしいんだよ。あんなの、健康に悪いに決まってるんだから」

タケ君の意見は随分と真面目だった。「JKのミニも推奨されるべき」と言って欲しかった私からすれば、好ましくない言葉だった。


このままスカート談義が続きそうな雰囲気があったけど、このタイミングでケイのお祖母さんが紅茶を持って来てくれた。背の低い机にカップを並べ、一つ一つに紅茶を注いでいくお祖母さんに、私たちは頭を下げて礼を述べる。

ところで、お祖母さんは私のカップに紅茶を注ぐ時、私に言った。

「まりかちゃん、でしたよね? いつもケイがお世話になってます。コーヒーは飲まれないということで良かったですよね?」

情報が正しかったので、私はビックリした。
私はお祖母さんに満面の笑みで答えた。

「はい。こちらこそ、お世話になっております。本当にコーヒーは飲まないんですよ。お気遣い頂き、ありがとうございます」

ケイはお祖母さんに私のことを話していたらしい。そして、お祖母さんは私に合わせてくれた。なんか嬉しかった。


ティータイムが入ったことで、くだらないスカート談義は打ち止めとなった。

ケイは自分の紅茶を飲み干すと、徐に立ち上がってテレビの方に歩いて行った。何をするのかと思って見ていると、ケイはテレビゲームのセッティングを始めていた。

(ちょっと何してんの!? 部活のミーティングに来たんでしょう?)

私は話題を逸らした分際で、生意気にそんなことを思っていた。


イレギュラーにケイのお祖母さんの家で行われた文筆部のミーティングは、このままどうなってしまうのか!? 不穏な空気が漂うばかりだった。

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