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「有象無象」インタビュー①「再不法投棄闘争」

 公認の枠組みからは外れて何やら怪しげなことを行なう「有象無象」。それはあらゆるところにいて、東北大学も例外ではありません。しかし、その「有象無象」の活動はあまり知られておらず、語り継がれることなく忘れ去られてしまうこともしばしば……。そんな「有象無象」にスポットライトを当てるべく、この春、東北大学「有象無象」有志による新歓グループ(「有象無象」新歓)が発足されました。

 というわけで「有象無象」新歓は、東北大学のサークルやアカデミズムの枠組みの外でとにかく何かをやろうとしている「有象無象」の学生にインタビューを行ない、それを書き起こして公開することで、「有象無象」の活動の記録と紹介を行なっていきます。

 そんなインタビュー企画第1回のゲストは、表現系(?)の「有象無象」・Sさん。キャンパス内に投棄されていた粗大ごみを使って、川内キャンパスの真ん中に「オブジェ」を建てました。

 インタビューは4月6日に東北大学川内キャンパス某所で行なわれ、Sさんをインタビュー相手に推薦した東北大学〈焼き畑〉コース・コース長もインタビューに参加。Sさんと主に就活の問題と表現の問題について熱く議論を交わしています。

***

導入

取材班 今回インタビューするのは、表現系の(?)「有象無象」・Sさんです。「有象無象」呼ばわりして一方的に呼び出したのは、Sさんがキャンパスにゴミでオブジェを作ったというエピソードを聞いて、ぜひ新入生に紹介したいと思ったからです。どこかのサークルとしての公認の(?)活動ではないので記録に残ってませんし

S それは事前に聞いてたけど、でもあんまり話すことないかもなぁ

焼き畑 いいんだよ、好き勝手しゃべれば

取材班 今回インタビュー対象としてSさんを推薦してくれた東北大学〈焼き畑〉コース・コース長もインタビューに参加してくれます

焼き畑 こんにちは、東北大学〈焼き畑〉コース・コース長です。日々キャンパスへの嫌がらせを真面目に試行錯誤しています。
 Sとアツい気持ちを共有していると感じている俺としては、このSのエピソードを、「なんか面白い学生がいる!」とか「そういう学生文化があるのって素敵!」とか「そういう学生がいる〝東北大って〟面白そう!」とか、そういう不当な評価に曝させたくないわけ。Sを「東北大生」という雑なくくりでその他の学生と並べて語るのはあまりにもったいない。そもそも「面白い」という形容では不十分で、Sは「アツい」んです。アツいのは東北大じゃなくてSだろ、と。まあとにかくそんなわけで、Sの活動の意義が「矮小化」されて広まらないよう、俺も好き勝手しゃべります

取材班 そんな勝手な……😢

「再不法投棄闘争」とは

焼き畑 まあ、とりあえず読者のために「再不法投棄闘争」がどういうものだったかから聞いていきましょうか

取材班 コース長に従ってSさんの起こした事件を「再不法投棄闘争」としておきますか。それで、その「再不法投棄闘争」について説明してもらえますか

S 川内キャンパスの特にサークルG棟の横に粗大ゴミみたいなのがいっぱい放置されてるんだけど、夜中に知り合いと二人でそういうゴミを集めて、川内キャンパスの厚生会館の前の芝生に積み上げた。家電とかも拾ってきて、テレビには「不法投棄禁止」って書いて、冷蔵庫にはお菓子とビールを入れておいた(笑)

実際の画像①
実際の画像②
実際の画像③

取材班 不法投棄したのではなく、不法投棄されたゴミを別の場所に移動させたというわけですね。それはいつ頃のことなんですか?

S 写真を見返して確認してみたんだけど、去年(2022年)の5月8日だね。8日の午前1時から夜明け前くらいまでの間に作業した

取材班 ゴールデンウィーク明けですね

S そうだね。そして、その日は「合同新歓」の日でもあって、新入生がたくさんキャンパスにいる日だったんだよね

取材班 「合同新歓」っていうのは、「Spring Festival」(通称:スプフェス)のことですね。東北大学のウェブサイトによると、スプフェスは「新入生を対象とした友人作りや部活動選びを全力でサポートするために、70団体を超える学友会の様々な部活動やサークルがスポーツや文化の体験を通じたコミュニティ作りをする最大規模の対面型新歓イベント」とのことです。以前からこの「スプフェス」の日に決行しようと計画していたんですか?

S いや、そもそも「再不法投棄闘争」はかなり突発的なものだった。ゴミでオブジェを作ることは前日の夕方に決まった

取材班 ということは、計画したその日の夜に実行に移したってことですか。すごい行動力ですね

S 知り合いにOって奴がいて、「再不法投棄闘争」の前日、Oは自分の所属しているサークルのゴミを処分してたんだけど、業者に回収してもらったらえらい金がかかってムカついたらしいんだよね。そして、サークルG・F棟横の不法投棄されたゴミのことを思い出して、さらにムカついてきたらしい。「俺はこんなに手間と金をかけなきゃいけなかったのに、ここのゴミは手間も金もかかってねえじゃん!」って。
 それで、「再不法投棄闘争」を思いついたOにその計画を提案されて、俺もなんか漠然といろいろなことにイライラしていたからすぐにそれに乗った。だから、「合同新歓」の日になったのは偶然だけど、せっかくその日にやるんだから、自分たちのオブジェを通じて新入生に何かしらの感情を引き起こしたいという気持ちはあった

取材班 怖くなかったんですか? 警備員や大学の職員に見つかったらどうしよう、とか

S 怖くないことはないよ。だから夜中にやってるわけで。ただ、やってる間は楽しくて仕方なかったね。なんだか笑えてきて、体も熱くなってきちゃって、途中から俺もOも上裸で作業してた(笑) 通行人が来たら、合図して隠れてたんだけど、Oが上裸で走ってくるのとかも面白くてそれでまた笑ってた。とにかくずっと笑ってたね

焼き畑 この時点でもう明らかに最初のO君の「問題意識」の射程は越えてるよね(笑)

S Oは、業者にあんなに金を払わなきゃいけないことや、金を払わない不当投棄がまかり通っていることにムカついただけだ、って言ってるんだけど、あんなに楽しそうにやっていて、それだけのはずがない(笑)
 作業を終えてから磯丸水産に行ったんだけど、その後やっぱりバレないか不安になって、暗にアリバイを主張するツイートとかしたんだよね。「ゼミ終わってから疲れて寝ちゃってたわ! めっちゃ早く目覚めたから、同じゼミの友達と磯丸に来たぜ! うめぇ~~~!」って

取材班・焼き畑 (笑)

S さすがに疲れて一旦寝てから、キャンパスに様子を見に行ったら、警備員がオブジェを見て困惑していた。1時間くらいしてオブジェにブルーシートがかけられたんだけど、その後勇気のある奴がブルーシートをめくって冷蔵庫からお菓子を持って行って、「お菓子貰いました! ありがとうございます!」みたいなツイートをしていた。「You are welcome!! こっちのほうこそ拍手してえ~」と思ったよ。めっちゃ怪しいオブジェの中のお菓子を貰う勇気に感心しちゃった

就活への苛立ち

S 振り返ってみると、あのときの俺は大学という制度にムカついていたのかもしれないと思うんだよね。当時は3年生だったわけだけど、3年生になると、就活を始める学生が周りに増えてくるわけだよね。「夏のインターン」みたいなものの準備も始めなきゃいけない。でも、ダルいし、やる気も起こらない。とにかく、就活に向けた大学と学生の状況が嘘ばっかりで、嫌気が差したんだよね。就活頑張ってる学生とか見てると、「嘘を本当だと思っている奴が多すぎる!」って気持ちになっちゃう。
 問題は具体的には「新卒一括採用」だね。新卒一括採用ってのは、技能じゃなくてポテンシャルを見るわけで、この制度の存在が「大学の意義は専門性にはない」ってことを示しているよね。大学が「大衆化」してるんだよ。
 ポテンシャル採用だと、「従順さ」競争にならざるをえないのよね。本音は「お金をもらいたい」とか、「名前のある企業に就きたい」とか思っているとして、そのことを面接で正直に話しても内定は出ない。だから、企業にウケる「ガクチカ」をわざわざ作り上げることに全力を尽くすのよね。サークル活動だって、ガクチカのためにやる学生がいる。志望動機だって同じで、その企業にウケるような嘘の「志望動機」を作り上げる。大抵は、リクルートとかマイナビから与えられた「やりがい」とか「成長」を、そのまま自分の「本音」として内定をもらいに行く。そこまで唯々諾々と従順になれる学生には負けたよ(笑) 僕はその空虚さに耐えられない。

焼き畑 そもそも今の大学は「就職予備校」〝ですらない〟ってことだよね。4年間大学に通っても、別にそれだけでどこかに就職できるっていうわけじゃない。大学4年間はただただ「会社人間」的な性質を学生に身に着けさせる場所であって、そういう企業や社会に都合のいい「会社人間」になることは、企業や社会の利益にはなっても、当人の就職を約束しさえしない。
 しかも、学生をそういう都合のいい「会社人間」にすることによって得をする社会(例えば国家)が「君たちはこれからの日本社会を支える人材だからねえ」と言って学費を免除したり代わりに払ってくれたりするわけでもない。「会社人間」になることは本人にとっての利益であるかのように、「お前たちの就職のための自己投資だろ?」とむしろ学費を上げてきた。金払って、「会社人間」になるべく退屈な訓練を受けて、その訓練の見返りも受けられない

S 大学っていうのは企業とか経済からナメられてるな、と思うんだよね。大学の先輩がゼミを休んで会社の面接に行ってたんだけど、ここにも矛盾が表れてると思うんだよね。企業は大卒を求めるわけだけど、その企業が学業よりも面接を優先させてる。企業が求めているはずの「大卒」が、同じく企業の側によってその内実を失っている。学生は「大学で学ばなくていいけど、大学は出ろよ」と言われている。訳わかんねー! そういう「嘘」ばっかりでホント嫌になっちゃうよ……。とにかく、当時はまだはっきりとそう思っていたわけじゃないけど、そういう苛立ちが「再不法投棄闘争」に俺を突き動かしたんだと思うね

焼き畑 そういう不満はテメー自身で内々に処理しろ、みたいな価値観が支配的だよね。「就活とかそういうものに欺瞞があって、それに対して不満を持つのはわかる。わかるが、その不満を表現したってメシは食えない。メシを食うためには不満は自分の内に留めて、自分で「折り合い」をつけなければならない」というような「リアリズム」。
 でも、不満を表現せずに内に抱えて「問題行動」を控えたとしても、今の社会で「ギリギリ食える」ことがギリギリ担保されるだけな訳でしょ?

取材班 そうは言っても、やっぱりギリギリ食えるのは大事じゃないですかね……

焼き畑 それはそうだよ。もちろん、そのギリギリの担保は無いよりはあったほうがいいんだけど、そもそもギリギリの担保をギリギリ失わない範囲での「問題行動」は可能なんじゃないかな。「再不法投棄闘争」だって、おそらく誰がやったかは大学にはバレていない。「匿名性」は重要だと思うね。正しいと自分で思っていることなら実名でするべきだというのは、マッチョすぎる

「大衆化」以後のリアリズム

S 高校生の頃は、東北大の大学生ともなれば、みんな教養があって社会を変えたくてしかたがないんだと思ってたけど、実際大学に入ってみたら、当たり前だけど全然そんなことはなかった。大学生ってバカばっかりだよな。全然エリートじゃない

焼き畑 そういう大学の「大衆化」の後、社会の側は「大学に行くのは自己投資でしょ?」という論理で大学というものに臨んできた。
 大学に行くのは「自己投資」でしょ? と社会は言う。というか、そういう論理で社会は動いている訳だけど、それが本当に「自己投資」たりえているかに関係なく、そういう論理に乗らないと食っていけないみたいな「リアリズム」が広くあるよね。でも、別に大学に行ったってそれ自体が「ちゃんと食える」ことを担保しない。端的に言って、大学に行っても「ちゃんと食える」とはかぎらないわけだよね。そうすると、その「リアリズム」は「大学に行っても別にちゃんと食えるわけじゃない」という「現実」を反映していないわけで、「リアリズム」ですらない

S そうそう、「嘘」を本当と思いこんじゃう「リアリズム」ね。みんなそれを「本当」だと言うけど、そこに「現実」はないよね。「現実」とされるものだけが残って「理想」がなくなっちゃってるんじゃないかな

焼き畑 嘘を本当と思いこんじゃうのも問題だけど、嘘を嘘とわかってそれでも「食う」ためにその嘘に乗ってるんですよ、みたいな「リアリズム」があると思うね。まあ、そこに大した違いはないと思うけど。なんにせよ「食っていける」の水準が低くなっているという話でもある

S 「意味ないってわかってるけどやる」みたいな、「決まってるから仕方ないじゃん」みたいな感じがあるよね。日本だけなのかな。「それ嘘だよ」って言っても、「いや、みんなやってるし……」って返されちゃう

焼き畑 寓話の世界だよね。「みんながやってるから」って理由で「みんな」に合わせるために頑張るそのエネルギーの大きさ自体にはもう感心するしかない。それだけのエネルギーがあるんだし、まさか就活に少しの不満もないなんてことはないだろうから、そのエネルギーの少しだけでも不満の表現に向けられるように、各人の不満を触発していきたいね。その「表現」も、仲間内で内々に処理されてしまう「愚痴」の形では不十分で、自分を抑圧するものと摩擦を起こしていくようなものでないとね。
 摩擦の例として、「学生に賃金を」という主張を提示しておきたい。ヨーロッパでは実際に「学生に賃金を」という要求が掲げられて、社会の側がそれをある程度飲まざるを得なくなって、学費無償がメジャーになるところまでは行ったんだよね。
 「学生に賃金を」はそういう意味で現実味のない話じゃないと思うし、それに、学生に対して「賃金ほしいですよね?」と訊いて、「ノー」とは答えないわけだよね。「賃金いりません! 学費払いたいです!」なんて言う奴いないでしょ(笑)
 要求してもしなくても「どっちにしろ食えない」かもしれない。別に従ったから「食える」わけでもない。そうなったら、「食わせろ!」と要求して、食っていける可能性を上げたほうがいい

嘘の空間/本音の空間

焼き畑 不満は内々で処理するというような発想は、就活的なものを問題視する側、「嘘」を問題視する側にも同様に見られることがあると思う。「嘘」にまみれた社会で消耗した「心」を、「嘘」から逃れて「本音」で話せる「アジール(避難所)」で癒すというのがそう。もちろん、「アジール」の存在自体は必要、というか重要だと思うよ。一方で、「あなた疲れたでしょ? ウチにおいでよ」という「アジール」的な発想だけでは、その「嘘」の社会を補完するだけになっちゃう気がする

取材班 というと?

焼き畑 例えば、学生は就活で嘘をつくことを強いられていて、その状況認識自体は妥当だと思うんだけど、問題は「嘘」そのものに、「嘘」一般に、「嘘」に内在する性質に虐げられていると思いこんじゃうこと。そうすると、「嘘」はそれ自体として好ましくないものとされて、「本音」を言い合える関係をシステムとして構築しよう、となる。つまり、恋人とか親友とかいなくても、「本音」が言えて「心」が楽になるような「居場所」を建設しよう、と。でも、それだと、「嘘」の世界で傷ついた「心」を、「本音」の世界で癒して、また過酷な「嘘」の世界で頑張っていきましょう、というように「嘘」の世界に人々を送り返す役割を果たすだけになる。
 そもそも現代はもう完全に「嘘」に覆われた世界だと思うんだよね。その状況を望ましいものとするにしても、克服すべきものとするにしても、条件や前提としては認めざるをえないと思う

S 完全に「嘘」に覆われているっていうのは、理想をアツいものとして掲げることができなくなっちゃってるってこと?? 白々しいものとしてしか語れないというか、その理想が現実を変えることはないだろうけど、それでも白々しい理想を嘘として掲げるみたいな

焼き畑 現代社会に対してちょっと「問題意識」を持った学生なんかは、この「嘘」に満ちた世界で「本当」が機能するような場所を作ろうとしちゃうんだよね。
 われわれの精神を消耗させる「嘘」の社会に対しては、「本音」の「アジール」ではなく、別の「嘘」を対置すべきではないかと思う。他に選択肢のない「嘘」を強いる空間に対して、別に新しい空間を用意してそこで「本音」を語り合うのではなく、その既にある「嘘」の空間に対して、その「嘘」は「嘘」じゃないか?! と宣言するようなタイプの「嘘」が必要なんじゃないか。例えば、「大学は純粋に学術を志す場所で……」とか、「大学は産業やら社会やらに貢献する場所で……」みたいな、内実を伴わずしかし「現実」を僭称するような既存の「嘘」があるわけですね。それに対して、「学生に賃金を!」という突飛な、ある意味こっちも信じていないような――しかしわれわれ学生のリアリティに担保された――「嘘」を重ねることで、あちらの「嘘」を突き崩していくようなことが必要だと思います。
 アナキズム的な社会実験(?)をポコポコやっているアメリカと違って、そもそも国土が大したことない日本では、既存の空間に対して新しい空間を物理的に作るという発想は馴染まないと思うし。必要なのは「嘘と本音の棲み分け」じゃなくて、「嘘と嘘の摩擦」

ほんものの感情を取り戻せ!

S みんな体制側の論理を内面化しすぎ。もっと自分の感情に正直なことをしてほしい。でも、そもそもいまはその「感情」自体が欠けているんじゃないか。みんなには「快楽の強度」をとり戻してほしい、pooow!!

焼き畑 利害以前の快・不快の感情もある意味で政治的な形で表現していいんだよね。……ああ、そもそもその快・不快の感情がないってことね

S 「理想」がなくなっちゃったこととも関係するんじゃないかな。「理想」がないから、「理想」と「現実」とのギャップに不快感を覚えることもない。従うべきものはもはや「現実」しかないという状況があるんじゃないか

焼き畑 しかも、その「現実」も「嘘」の言説によって規定されたフィクショナルなものにすぎない

S オブジェを通じて新入生に何かしらの感情を起こさせたいと言ったけど、具体的には不快になってほしかった。アレを見て、快・不快の感情を思い出してほしかったんだよね。
 快・不快の感情を取り戻すことってそんなに難しいことじゃないと思うんだよね。っていうのも、忘れもしない、「再不法投棄闘争」の前の(2022年)5月6日、大谷翔平を見てめちゃめちゃ感動したんだよね。
 大谷はその日、フェンウェイパークって球場で初登板したのよ、ベーブ・ルース以来の二刀流としては初めて! 投手としては7回11奪三振の好投をして、7回裏投げ終わり、8回表、大谷の打席で、大谷の打球が得点版にあたってピッチャーの背番号を表示している所の自分の背番号「17」を落とすんだ。大谷が「次の回おれ投げないから、自分で外しておきましたよー」くらいの感じで、奇跡をやってのけるわけ。いやー、こんな奇跡あるか? ベーブ・ルース天国から観てるよなこれって思った。神様もさ、ベーブ・ルースもフェンウェイパーク初登板の日付が7月11日で、大谷の投手の初登板の成績が7回11奪三振と妙に数字遊びしてきちゃって。あの試合は神がかってた。ほんとに現実が現実とは思えなくて、神がこの世をコントロールしているのかなって思った。神を感じてたし、俺にこんな感動を与えてくれて、神様ありがとう!! って感じ、oh my god!!

えげつない快楽だったね

焼き畑 野球観てないからわかんないけど(笑) それはともかく、そういう肯定的な感情の高まりと、就活に対する否定的な感情の高まりとが共鳴して、「再不法投棄闘争」に結実したってことね

S 現実的に考えたら、「二刀流なんてできない」。でも、大谷からしたら、「二刀流は不可能」は「嘘」なんよね

焼き畑 テキトー言うなよ(笑)

S まあとにかく、そういうふうに、スポーツとか映画とか漫才とかそういうものを通じてアツい気持ちって取り戻せるんじゃないかなと思ったね、小説とか漫画でもいいけどね

焼き畑 感動的なスペクタクルの力は重要だよね。一方で、スポーツのようなスペクタクルは体制側とでも呼ぶべきものに独占的に解釈されているわけだよね。「〝日本人〟選手の快挙」みたいに

S そうそう、大谷の活躍だって、〝日本人の〟とかじゃないだろ! たまたま日本人だっただけでさ。大谷は、「人類の100年ぶりの快挙」なんだよ!「100年ぶりに現れた人間」なんだよ! 「日本人」って枠に収まるほどちっちゃくねーわ! って思う

焼き畑 重要なのは、そこでスペクタクルそのものを体制の論理と同一視するのではなく、体制のスペクタクルよりアツいこちら側のスペクタクルを創出すること、あるいはスペクタクルに対して体制側とは違う解釈を与えていくことだよね。
 そのときに、スペクタクルを「適切に」解釈するリテラシーを醸成しようと思うと、「啓蒙」が必要ということになってしまう。そうではなく、そのリテラシーの有無を問わないようなスペクタクルの創出について考えていくべきじゃないかな

S まさに! 大谷とかによって、えげつない快楽を感じたわけだけど。快楽によって、社会や日常から一時的に逸脱し、そこに新たなスペクタクルを見出しちゃう。えげつない快楽を感じた後には、それまでの現実が嘘みたいに感じられちゃうわけ! 変性意識状態にでもなったみたいに!

真顔で嘘をつく

S そう言えば、再不法投棄闘争には「あえて嘘を見せよう」みたいなコンセプトもあった。不法投棄されたゴミを拾ってきてそれに「不法投棄禁止」って書いたのがそれ。見たらすぐに矛盾してるってわかるのに、真顔で嘘をつく。大学と一緒だよね(笑) 大学が「ことなかれ」の嘘でやり過ごすものを、こちらも同じ「嘘」を使って暴く。見ている側に「お前らどっち信じるの?」と問いかける

焼き畑 大学の権力・空間に対して別の権力・空間を対置するんじゃなくて、キャンパスの中で「学生であって学生でない」という自身の立場の二重性を露呈させるようなことが大事だね。学籍があって確かに「学生」としか言いようがないんだけど、大学の想定するような「学生」とはずれがあるような自らの存在を表現する。
 やっぱりキャンパスの中で、大学という圧力が働いているような場所の中で「表現」していかなければならない。大学や社会というような権力の「外側」に逃げたり、権力を奪取したりする必要はないし、おそらくそういう発想でないほうがいい。権力の空間の中で権力の想定するアイデンティティを裏切るようなモノはすでに事実として散在している。それらは互いの存在を知らないだけ。その空間において期待されるアイデンティティを裏切るようなそれらのモノに働きかけて、権力が流布する「均質な学生」というフィクションに対して「内側」から亀裂を入れなければならない。「学生はみんな学業と就活頑張ってます!」というが大学側のフィクションに対して、そんなわけない学生の現実をフィクショナルに提示する。あっちが「ない」というものを「ある」と主張していくこと、あっちが「ある」というものを「ない」と主張していくことが必要だね

結び

取材班 いやあ、盛り上がってましたね。Sさんの活躍を紹介するにとどまらず、今後の表現の展望についてのアツい議論が展開されていました。熱すぎて、僕はほとんど議論に入り込めませんでしたが……

焼き畑 冒頭でも言ったけど、単に「事実」を紹介するだけだと、学生どもは「面白い学生がいる東北大っていいね!」とか言いかねないからね。体制側の論理を内面化した学生どもに「再不法投棄闘争」というスペクタクルをそのまま見せても、「俺たちと同じ日本人の大谷スゲエ!」と同様に、「俺たちと同じ〝学生〟のSオモシレエ!」と解釈されてしまうかもしれない。しっかりと俺のすばらしい解釈によって、スペクタクルの力を活かさないとね。
 今回インタビューにSを推薦したのは俺だけど、俺はこうやってアツい学生をインタビューに送り込み、彼ら彼女らが演出したスペクタクルを紹介させることで、学生を不満の表現へと突き動かす一助としたいわけ。その目的に照らすと、紹介だけでは不十分だよね

取材班 僕は利用されていたんですね(笑)

焼き畑 まあ、そうだけど、こうやって俺が盛り上げたほうがそっちとしてもありがたいでしょ(笑)

取材班 確かに……。最後にSさん、何か言いたいことはありますか?

S これ読んでる有象無象のみんな! 反抗者、少数派、現行のシステムに対して違和感を覚えている君! 面白いことしようぜ!

(終わり)


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