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I don't afraid.

 私が怖いもの。
 それは、自分のコントロールを失うこと。

 『自分自身』なんて、ちょっとした要因で簡単に吹き飛ぶ。
 強いストレス。
 疲れ。洗脳。崇拝。怒り。恋。

 平常心を失ってしまえば、何かに染まっていくのなんてあっという間だ。
 誰の声だって届きゃしない。

夏の果て。

 ずっと、あまりひとに心を開かずに生きていた。

 自分が神経が細いのは分かっていたし、母にはそれを何度も指摘されながら育ったけれど、そんなもの、太くすることも鍛えることも、私には多分、できない。

 感情を素直に出すことができなくなった私が次にしたのは、厚い防御壁を作って細い神経を守ることだった。

 能面を決め込んでるわけじゃない。ちゃんと笑顔で会話はできる。
 だけど、どこかいつもガードしている。
 楽しいときも、緊張しているときも。

 恋もする。人形じゃないから。
 だけど、相手との間にはきっちり自分なりの線を引く。

 恋愛中は傷つけ、傷つけられるのは当たり前なのだけど、傷つけそうになれば極力、堪える。
 傷つけられる前に、予測して身構える。身を躱す。防御壁を意識して、傷つかなかったと思い込む。

 それが、私のしてきたことだった。

          ♡♡♡

 時が流れて、私があなたを知ったとき、私は自分に何が起こっているのか、さっぱり分からなかった。

 気がつくと、あなたのことを考えている。

 ── 何だこれは。

 永らく生きてきて、他人で頭のなかが一杯になったことなんて、ただの一度もない。
 つまり、自分のコントロールを失いつつある。

 これはまずい。何とかしなくちゃ!

 けれど、そう思うほど何故か頭はあなたに傾いてしまう。
 一体、どうしたらいいの。

 でも、これも悪くない気がする……んだよね。

いつも一緒だよ。

 ああ、好きになっちゃったんだな……。
 そう気がついたのは、半年経ってようやく。

 気がついたら行動パターンはすっかり変わっている。 
 髪型も変わった。
 明るい色の服を着るようになった。
 読む本の種類が変わった。
 関心をもつことの内容が変わった。
 攻撃されても黙って下を向くしかできなかった私が、カウンターアタックを返した。

 ── コントロールされてないか?
 ふと昨日、また、そう思った。

 されている、ある意味。
 ── いやでも、これも悪くないよ。

 そのとき、何となく思ったんだ。
 このまま委ねてみてもいいかな……って。

 だからって、何ができるわけでもない。
 既に、他に守らなくちゃならないものは山ほど抱えているし、家庭を持つ立場である以上、こんなことをべらべらと人に喋るわけにもいかない。

 いいんだ、だけどそれで。
 誰かが心に住むのは初めてで、それによって起こる自分の変容が、きらきらと眩しくて仕方ないんだ。

 心に住んだあなたが私を何処へ連れて行くのかは分からない。
 だけど、今は身を委ねてみる。

 もうコントロールを失うことは、怖くない。

 



 
 
 

 

 






 



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