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「三国志・軍師連盟」に学ぶ権力闘争のやり方(4)権力者はこざかしい人間も嫌う(ネタばれあり)

 司馬懿の初期のライバルで楊脩という切れ者がいる。とにかく頭の回転が速い。上司の意図をすぐに読み取り、しかも上の利益を説きつつ、自分の利益にもちゃっかりつなげる。先手を打って、素早く立ち回る。だがそこが仇になる。
 曹操が関羽に攻め込まれて苦境にいた時だ。楊脩は損害を広げず、しかも曹操の利になり、さらに自分が仕える曹植の後継者争いも有利に導く、妙案を思いつき、早々に献策し受け入れられる。しかも曹操がなぞかけで出した撤退命令の意図を即座に読み解き、早々に撤退にかかり、周りにもそれを進めて雰囲気作りまでやる。
 しかしそれが却って曹操の怒りを買う。曹操には出過ぎた真似だというわけだ。曹操にしてみれば事実上の不戦敗だ。どうメンツを保ち威厳をもって撤退するか迷っていたところに、部下がさっさと事を運ぼうとする。上司にしてみれば、自分が直々に重い決断を下し、皆がそれに涙を呑んで従うという図式を作りたいわけだ。それをぶち壊してしまった。勇ましく出陣したものの苦しくなったあげく、若造の策に乗って、おめおめと撤退したいとは思われたくない、自分の鼎の軽重も問われる、まあわからんでもない。よくある光景だ。さらに疑い深い曹操のことだ、若造の策に乗って、都合よく利用もされているという構図にも気づいたのだろう。
 知恵者は他人も損得で動くと思う。感情も計算に入れたつもりでもついつい、自分が出した「あまりにも明快な答え」「ご名答」に酔ってしまう。それにしたがわないものが馬鹿に見える。だがそこに落とし穴がある。
 司馬懿はそれに対して、あくまでも出すぎず、謙遜の姿勢を取り、自分の利害を度外視している風を装い、愚策だと曹操に叱られながらも、策を通してしまう。その責任者として厄介な役目を押し付けられてしまうが…。ここが権力者の勝手なところだが。
 要するに権力者には、メンツもあれば、感情もある。能がない上司ほど、プライドが高いのが常だ。こういう相手にはへりくだり、馬鹿を装った方が身のためだな、ということをつくづく考えさせられる一場面である。

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