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今夜は鳴かない猫のために

 夜空が遠く、暗いその中で未熟な月が皎々と光った。月のひかりは朝には消えてしまう夜空の国の宝珠だ。
 まるでどこまでも一人でいるような気がした。窓の先へ目を馳せれば、灯りの漏れる部屋々々がぽつりぽつりと光の波を立て、そこから浮き立つ建物の影が輪郭を露わにする。その姿が怪獣のようで恐ろしい。
 僕はベッドに寝転がり、アパートの近くにいた黒猫の姿を思い出した。ハイエースの下から大きな瞳でこちらを見つめるあの猫が、夜の暗さに溶けてしまうことを空想した。夜が更けるにつれ、夜はあの猫の黒の一部に、黒猫はこの夜の一部になる。
 僕はあの小さな黒猫が怪獣どもより大きく膨れ上がり、夜の町を悠々と歩く様を空想した。
 今夜、猫はどこまでも歩いてゆく。足許の怪獣を踏んでしまわないよう、夜を引き連れて、月を伴って。

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