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鬼 文豪怪談ライバルズ!

「鬼」を主題に古今東西の鬼物語を広く集めた怪談鬼譚、怪談好きはもちろんのこと日本の伝承や風俗に関心のある人も一読の価値ありの一冊。

シリーズ一作目よりも読み応えと読了後の作品への解像度が格段に上がる仕上がりになっているのはひとえに編者の構成の妙だろう。

「鬼」という日本古来から人間の側にあり不思議と親しみを感じさせる存在について
体系的にまとめ読み比べさせる仕立て。
同じ題材でも作者と時代が変わればそのテイストはゴロンと変わる。
切り口もスタンダードなものから、意表をつくものまで取り揃えられている。

時代を超えて文豪たちが「鬼」と言う存在をどう解釈し、どう向き合ってきたのか余すことなく楽しめる作品集。

個人的には
「鬼情/京極夏彦」(上田秋成 雨月物語・青頭巾より)
「水に溶ける鬼/田辺聖子」
「鬼の末裔/三橋一夫」
「黄色い泉/小松左京」

の4編が非常に面白かった。


■「鬼情/京極夏彦」(上田秋成 雨月物語・青頭巾より)
直前に円地文子氏の現代語訳による「青頭巾」があり、鬼と僧の問答を京極夏彦氏の解釈で読み解く。「鬼」とは「愛」とは両者の問答を通して正邪の判別定かではないこの世を見つめさせられる気になる。

■「水に溶ける鬼/田辺聖子」
小野篁ってこんなに放埒な人物だったんだ!六道珍皇寺の井戸からあの世とこの世を行ったり来たりした大柄な人、という認識しかなく新しい発見という意味でも印象深い。熱心に愛を語る篁に意地らしい妹、、「鬼」の定義を問い直してしまう。

■「鬼の末裔/三橋一夫」
友人に当てた手紙という体裁で始まるこの一作。固くない文体であるのにピンとはった糸のような緊張感を持って過去を紐解いてく文章が美しく、単純に好き。鬼=異国人という概念は古からあるが実際の鬼伝承と絡めて進むストーリーは思わずニヤリとしてしまう。好き。

■「黄色い泉/小松左京」
こちらも伊奘諾と伊奘冉の黄泉の国での出来事を現代を舞台にした怪奇譚に落とし込んだもの。原典との相違やオマージ部分を見つけてはニヤニヤ・・・。
というか今気づいたがタイトルの黄色い泉も「黄泉」からきているのか。察しの悪さに赤面。


怪奇譚、サスペンス、日本伝承好きならばぜひご賞読あれ。


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