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絶望のネットミーム、スキゾポスティングと千年王国思想

※この記事は「Millenarian Dreams of the Schizo-scene」を翻訳し、注釈を加えたものです。

スコセッシ監督作『タクシードライバー』の若きベトナム帰還兵、トラヴィス・ビックルは、戦争によって荒んだ心を持て余すかのように犯罪にまみれたニューヨークを彷徨っていた。不条理な世の中との折り合いをつける術を持たないトラヴィスは徐々に認知的不協和を募らせていき、やがてそれは凄惨な暴力という形で噴出することとなる。トラヴィスはネット上のシットポスターが言うところの、「スキゾになった(He went schizo.)」のである。

ニューヨークの物騒な繁華街をドライブしながら、「このクズどもを根こそぎ洗い流す雨は、いつ降るんだ」と重苦しくつぶやくトラヴィス。やがて彼は、来たるその時に備えて筋力トレーニングに勤しむようになる。トラヴィスが体現してみせたこの厭世的な世界観は、今日の若者の多くにもあてはまるものだ。抗いようのない力に押し潰され、どこにも逃げ場を見いだせない。だからこそ、全ての破壊を待ち望む。崩れゆく世界の只中でアイデンティティの実存的危機に陥ったトラヴィスが身を委ねたのは、そうした破壊衝動だった。トラヴィス・ビックルが象徴しているもの、それは絶えず人間が抱いてきた幻想、「千年王国思想」の仄暗い一面である。


(左)
「う~ん、今日は存在しよう」

(右)
「悪夢ゴーグルを試してみよう」
「付けても何も変わらないぞ」
『今ちょっと疲れてるだけさ』

千年王国思想とは、全てが一変するような社会の大変革を待ち望む信仰であり、宗教に限らず社会運動や政治運動においても見られる。植民地支配などによる文化の置き換えや社会不安といった危機にさらされた社会は、とりわけ千年王国的な信仰を発達させる傾向にある。

こうした信仰をファンタジーだと受け取る向きもあるかもしれないが、信じる者にとっては心の逃げ道であり、日々を生き抜く糧となる。希望に満ちた明るい未来が約束されているとなればこそ、信者たちはそれを実現しようと宗教的情熱に駆られる。今日の若者は、安定した自己を確立することができず、不安感や無力感に苛まれている。現在の若者世代は、まさに一人ひとりがトラヴィス・ビックルなのである。

そうした現状に対する抵抗や逃避として、若者の多くはミーム文化や過激な政治思想へと目を向けている。例えばインスタグラムには、怪しげなネットの深奥で得た「真実」にまつわる知識を持ち寄り、互いに共有し合う若者のコミュニティが存在する。そこにはスピリチュアリストや伝統主義者を標榜する者もいれば、原始的な生活に憧れるグリーンアナキスト、果ては完全に現実から解離してポストヒューマンユートピアに向かう者まで様々だ。

こうしたミームマジシャンやゲリラアーティストたちが手掛けるミームは、「スキゾポスティング」と呼ばれるシーンを形成している。彼らがミームを制作するモチベーションはこうだ。「一般人を目覚めさせ、この世界を侵略する悪と戦わせなければならない」――この世は堕落と腐敗に満ちているが、きっと新時代を切り開くことができる、そう彼らは信じているのである。


「スキゾポストさせてくれ」
「現実には後で戻る」

スキゾポスティングがいつ始まったかは定かではないが、ジャンルに通底する空気感やスタイルは明らかにchan系掲示板のニヒリスティックな界隈で醸成され、後にニューグラウンズ・アニメーションやクリーピーパスタWiki全盛期に人気を博したそれである。また、スキゾポスティングを生み出した文化的土壌には陰謀論やニューエイジ思想の影響があったであろうことは想像に難くない。

こうした世界観とそこから織りなされる様々な投稿スタイルを理解をするため、私はスキゾポスティングの世界にどっぷり漬かってみることにした。そして千年王国を信奉する現代の若者たちは何を考えているのか、その心理をより深く掘り下げてみることにした次第である。調査を行うにあたっては、「ラディカル・パフォーマティブ・エンパシー」という独自の手法を用いることで、彼らの思考や物語を感情的に理解するよう努めた。従ってこの記事は、単なる説明や論破ではなく、理解の手立てとして見てほしい。

スキゾポスターが作るミームは大げさに誇張されたものばかりだが、別に彼らはそういった誇張を真に受けているわけではない。むしろ、表面的には誇張しつつも根底には本音の部分が垣間見えるような、半フィクション半リアルなアイデンティティを演じていると言ったほうが適切だ。「スキゾ(統合失調症)」や「オーティスト(自閉症)」といった精神医学用語も、ここでは実際の病気や症状を表すものではなく、ショックや不快感を与えたり、何らかの意図を伝えるための悪趣味なメタファーである。中には自ら「スキゾ」や「オーティスト」と名乗ることによって、これらの用語を再領有*1するケースも見られる。

アイデンティティ+イデオロギー

スキゾポスターは一枚岩ではない。投稿スタイル、ユーモア、興味関心、イデオロギー、どれも千差万別だ。しかし、こうした多種多様なアイデンティティの中にも共通する中心的なテーマが存在することがわかった。すなわち、「千年王国的な解決策によって現代の失敗から逃れたい」という願望である。この願望を実現すべく、スキゾポスターたちは様々なイデオロギーを持っているが、ここでは把握しやすいように4つのカテゴリーに大別してみることにする。


(左)
クリスチャンじゃねえが十字架にダイヤを散らすぜ - カール・グスタフ・ユング*2

(中央)
神への信仰を深めているが、それはアイロニックなポストアイロニー的なalt-litのネオ中二病の扇動的な独立系の似非エッセイジャーナルのカソリックのバビロンに住む伝統主義のwojakガールのようなやり方ではなく、誠実な投稿をして非加速主義的かつ反伝統主義で精神史のエンジンを駆動する善と悪の終わりなき戦いを信じ脱制度化かつポスト教会で反キリストを憎むやり方で*3

(右)
「こんにちは、原初の伝統」
「伝統の中枢は壊れてしまいました。今あるのはパロディやカウンター伝統、似非宗教だけです」
「無理もない。私たちが今いるのは、全てが物質に還元されてしまう鉄の時代だ。カイロに行ってスーフィ教徒として余生を過ごすことにするよ」

1.「ポストモダン世界への反乱」*4

#キリスト教 、#イスラム教、#伝統主義、#神智学、#神秘主義、#オカルティズム、#異教

  • 現代の失敗は、人間精神の喪失や神に対する信仰心の喪失に原因があるとする立場。

  • 文化的、宗教的伝統への回帰を希求する。

神を信ずる者と人間性を信ずる者、その双方が首を揃えてうなずく点がある。それは、「現代に入ってから文明は凋落の一途をたどっている」ということだ。この世界は社会的・政治的な進歩によって堕落させられてしまった。だから、かつての伝統へ回帰するか、過去との融和を目指さねばならない、そう彼らは考えている。ただし、精神性や人間の意志の劣化を主に問題としているという点で、彼らはラダイト運動とは一線を画している。古来伝統の信奉者たちもまた、伝統が攻撃対象となっている現状を受け、「私たちは軽薄で、退廃的、即物的になってしまった」と語る。かつては高位の存在を崇拝し、神に賛美を送っていたのに、今や我々はバベルの塔を築き、利己主義を理想として崇め奉てている、と。彼らはナルシスト的かつ物質主義的な価値観に支配された今日の文化を批判する。こうした千年王国の信奉者たちは、現代の問題にどう取り組むかという点では意見が分かれ、内在性や形而上学的な観点においても分裂している。その一方で、人間精神を刷新し、神を信仰することでこの退廃的な状況から抜け出さねばならないという認識においては一致している。


(左)
破壊による解放
文明よりも自然を(優先せよ)

(中央)
「わあ、これがあなたの家なの?すごい素敵」
「うん」

(右)
「都会での満たされない快楽主義的な生活から私を救ってくれてありがとう。 ここにいられてとても幸せ」
「感謝はいらないよ、皆を導くのが私の義務だからね」

2.「技術社会とその不満」

#ラダイト主義、#ポスト文明、#エコファシズム、#アナーキー、#テッドおじさん、#反乱

  • 現代の失敗はテクノロジー、産業、文明に原因があるとする立場。

  • 現在の技術産業社会の解体を望む。

ネオ・ラダイト、グリーンアナキスト、反乱的なエコファシスト、等々。テクノロジーと文明の押し付けが環境を破壊し、生命を脅かしていると感じる人は現代社会にたくさんいる。彼らの中には原始的、土着的な生活に立ち返ることを望む者もいれば、過去と現在の融和を目指し、マレー・ブクチンらが提唱したような環境調和型の太陽社会を構築しようとする者もいる。投稿スタイルについてはテッド・カジンスキーなどの影響が見受けられ、かなり過激な内容も散見される。また、この種のスキゾポスティングは左翼系のアカウントにおいて最もよく見られた。地球の気温は上昇を続け、自然災害はますます激しくなり、西洋諸国は移民の波に襲われている。だが、産業界の利益におもねる政府はエコサイドを引き起こし続け、国民と地球に対する責任を果たそうとしない。環境破壊がこのまま続くようであれば、責任者に対する反乱への意思はますます強固なものになっていくだろう。


3.「神のテンプルOS」

#アレックス・ジョーンズ、#テリー・デイビス、#トゥルーサーズ*5、#陰謀論者、#グリーンピル、#グノーシス

  • 現代の失敗は、怪しげな秘密結社や陰謀に原因があるとする立場。

  • エリートを打倒し、自由と秩序を人々の手に取り戻そうとしている。

陰謀論者。この中ではおそらく最もわかりやすい存在だろう。彼らはスキゾポスティング界隈において中心的な役割を担っている。テクノロジーを駆使するグローバル企業国家に対する不安と絶望がもっとも鮮明に現れているのもこのカテゴリーである。千年王国を信奉するコミュニティにおいて陰謀論は珍しくない。こうした陰謀論の数々は、学者が「エリート理論」と呼んで研究している「少数エリートによる支配の実態」を草の根的に解き明かそうとする一種の民間解釈学を形成している。さしずめ「政治版民間伝承」とも言えるこれら陰謀論は、ときには古代神話すらも取り込みながら際限なく拡大を続け、壮大な善と悪の教義体系を構築している。アレックス・ジョーンズやテリー・デイビス、ジョン・マカフィーらに代表されるスキゾポスターたちは、こうした伝統をミームを通じて継承することで、猥雑なネット世界との結び付きをますます強めており、もはやネットと陰謀論は切っても切れない存在となっている。


(左)
ああ、超越的な肉体よ、私の殻は疼き、今以上の存在になることを切望している。犠牲を通して生き、あなたの昇華された美と一つになりたい、と。私を受け入れ、私を再構築したまえ。あなたのビジョンを通じて、私は人間を遥かに超えた存在となる。

(右)
ハイパーグリッチなポストインダストリアルを聴いているレインピルを飲んだトランスヒューマン加速主義者のビッチは信用するな。人生最大の過ちだった。

4. “A C C E L E R A T E” (加速)

#フューチャリズム、#トランスヒューマニズム、#ランド、#モールドバグ、#ドゥルーズ

  • 現代の失敗は、人類とその限界に原因があるとする立場。

  • 矛盾の向こう側へ加速することで現代を克服しようとする。

ニックランド、トランスヒューマニズム、レムリアン時間戦争。残念、あなたはバッドエンドを迎えてしまった。しかし一部の人々にとっては、肉体からの脱出こそが現代のもたらす苦痛から逃れる唯一の方法なのだ。この種の投稿スタイルを初めて見た人にとっては、単なるシットポストにしか見えないかもしれない。だが、人類の未来やテクノロジーをめぐる活気あふれる言説を生み出したニックランドがこの界隈の中心人物であることを知れば、そうではないことがわかるはずだ。そして時間を司るAIの神についての記述や、ヤク中特有の支離滅裂な文章を一皮むけば、肉体や社会から完全に抜け出したいという願望が胸の内に芽生えていることに気づくだろう。単に「永遠に生きていたい」などというだけではなく、人間のある種の側面から解離したいという願望が存在するのだ。実際、現代において解離はありふれた存在になっているらしく、それを積極的に受け入れる人もいるようだ。


「テック・グノーシスを体験しているかい、息子よ」
「唯一の道徳的行為はエントロピーの最小化だ」

定番ネタ

スキゾシーンには多様かつ相反するイデオロギーがひしめき合っている。しかしその中にも、イデオロギーを問わず広く使われている物語やミームを6つ発見できた。


(左)
9/11は史上5本の指に入る加速主義的イベントだった

(中央)
「世界が終わっちゃう」
「「この」世界が終わるんだ」

1.「俺はカリユガに戻る」

今日の世界は暗い。インフラは破綻し、貧富の差は拡大を続ける。環境は悪化の一歩を辿り、政治は危機的なレベルまで二極化している。こうした現状を説明する道具としてスキゾシーンで用いられているのがカリユガだ。今は暗黒時代だが、いずれ新たな千年紀がやってくる。そして正義の鉄槌が下されるだろう、と。カリユガに対する打開策としてイデオロギーを問わずよく見られるのが、「加速」である。すなわち、現代の矛盾を際限なく推し進め、それを乗り越えるということだ。こうした理由から、カリユガは多くのスキゾポスターにとって重要な物語・美学となっている。加速と崩壊は、スキゾシーンで広く共有されている物語として最も重要な地位を占めていると言えるだろう。


(左)
「精神科医は薬が効くかもしれないと言う。
俺はこう言った、シアリスだったら毎日飲みますよ」

2.「薬を飲め」

薬に対する忌避感は多くの人が同意するところだろう。スキゾポスティングの世界では、薬はコントロールのための道具となる。とりわけ精神疾患向けの薬は、生物医学的な方法で国民を統制しようとする国家にとって重宝する存在だ。彼らは言う。薬のせいで、私たちはこの混沌とした世の中に対して無関心にさせられている。真実を告げる内なる声は抑圧され、政府を疑うことすらできなくなってしまう、と。こうした主張を真面目に捉えてみると、確かに従順な大衆を作り上げたいという企業や国家の思惑が至るところに発見できるようになるだろう。SSRI、心理学者、性格検査……等々。これらは皆、人々の行動を監視・研究し、より生産的で大人しい大衆を作り上げるための仕組みなのだ。最も過激なスキゾポスターにとって、薬にポジティブな要素は何もない。違法薬物を除けば。


(左)
「35歳CIA男性」
黒ずくめの服を着て黒い大きな車で走り回る
袋から砂糖を取り出し、LSDを混ぜ込んで袋に戻す
おそらくお前のお気に入りのインスタのページを運営している

(右)
「そこの君、このどう考えても本物のテロリスト集団に入らないか?」

※boogaloo boys(ブーガルーボーイズ)とは、4chan発の極右、反政府、過激派組織。アメリカ南北戦争を再び引き起こそうと画策しているらしく、実際に多数の逮捕者が出ている。

3.「グロウィーは見ている」

CIAが存在する限り、黒ずくめの男たちの噂は絶えない。黒いヘリコプターから降りてきて、知りすぎた人々を誘拐する名もなきスパイたち。この謎めいた男たちは、密かにターゲットを集団ストーカーし、心理作戦によって一般市民を操ろうとする。スキゾポスターは、男たちを「グロウィー (Glowies)」と呼ぶ。彼らのヒーローであるテリー・デイビスがそう呼んでいたからだ。男たちはインターネットのあらゆる箇所に潜み、罠を仕掛けてくる。油断をすれば、心理作戦の餌食にされてしまう……。諜報機関の話題が世間を騒がせ、バイデン政権が新テロ対策構想を打ち出す中、こうしたパラノイアは悪化の一歩を辿っている。国内テロ対策にますます重点が置かれる昨今、いわゆる「過激派」の認定と追跡は、国家安全保障の最優先事項となるだろう。


(左)
「ソースは?」
「夢の中でお告げがあったんだ」

(中央)
汝の神権政治を選べ
カソリック教、イスラム教、異教・太陽神、レインピル、モルモン教、ヒンズー教

(右)
現実を再定義せよ、正しい定義を発見するまで。

4.「反・物質主義運動」

スキゾポスターや政治的秘教主義者たちは、世俗的・無神論的な世界観を避ける傾向にある。彼らの投稿によく見られるのは、むしろスピリチュアリティや道徳的直感といった要素だ。その中には宗教やオカルトに基づく体系的で秩序立ったアプローチを取る者もいれば、より原始的かつ異端的な伝統を好む者もいる。啓示と直感を信じ、専門家の間でなされる冷たい合意を唾棄するスキゾたちにとって、「科学的事実」は何の意味も持たない。今ここにある現実より高位にあるものを信じるということ、そこには、反逆行為としての意味合いも込められている。超自然的な存在への信仰、そしてそれがもたらしてくれる未来への希望。千年王国を信奉するコミュニティの熱意と粘り強さを支えているのは、まさにこうした世界観なのだろう。


(右)
疑問を投げかけるようになるまであとどのくらいだ?
音楽が耳障りで退屈に聞こえるまでどのくらい掛かる?
目隠しを取って、歓迎されていないものを見るまでどのくらいだ?
どうなんだ、アノン?

5.「アイズ・ワイド・シャット」

この世界には、白昼堂々と大衆を操っているサイコパスたちの国際的秘密結社が存在する。それに気づかない者は、洗脳されているか、屈従しているかのどちらかである。典型的なストーリーとしては、ユダヤ人が黒幕だとするものや、超自然的な要素が絡むもの、あるいは単に権力や強欲にまみれた存在として語られることもある。こうした認識の違いはあれど、スキゾポスターたちが首を揃えてうなずく点が一つある。すなわち、これは決して単なる偶然や勘違いではなく、まだまだ明らかになっていない闇が隠されている、ということだ。とはいえ、ジェフリー・エプスタインやビル・ゲイツについての暴露や#MeTooムーヴメントによって、今日のエリート層に蔓延る腐敗の実態は徐々に人々の知るところとなりつつある。かつては陰謀論でしかなかった話が真実であったことが次々と発覚する中、反エリート主義とポピュリズムは勢いを増すばかりだ。


(左)
「超越的ブラントローテーション」

左上:マーシャル・アップルホワイト
信者39人と共に集団自殺を決行したことで知られるヘヴンズ・ゲートの教祖

右上:ジム・ジョーンズ
集団自殺により900人以上が犠牲となったとされる人民寺院の教祖

左下:デビッド・コレシュ
FBIと銃撃戦の末、80人の信者を道連れに自殺したとされる「ダビデ派セブンスデー・アドベンチスト教会」の教祖

右下:麻原彰晃
地下鉄サリン事件で多数の死傷者を出したオウム真理教の教祖

※ブラントローテーションとは、マリファナ(ブラント)を一緒に吸いたい有名人やキャラクターを紹介するミーム。ドリーム・ブラントローテーションやナイトメア・ブラントローテーションなど、様々なバリエーションがある。例えばナイトメア・ブラントローテーションは、一緒に吸ったら最悪の雰囲気になりそうな相手を指す。

(右)
インタビュー中に突如ダンスを踊り始めるチャールズ・マンソン(動画


6.「破滅の預言者」

チャールズ・マンソン、デビッド・コレシュ、アレックス・ジョーンズ、等々。彼らはみな、その狂気と叡智によって称えられている。虐げられた人々の心に訴えかける術に長けたカリスマ預言者である彼らは、スキゾシーンの教義では英雄や聖人に等しい。彼らは体制に立ち向かい、散っていった烈士なのである。10年前にYoutubeで陰謀論やカウンターカルチャーなどのコンテンツを消費しながら10代を過ごした人なら、チャールズ・マンソンのインタビュー動画を一度は目にしたことがあるだろう。『ツァイトガイスト』を観ていたらおすすめ動画に表示された、という人も多いはずだ。マンソンは動画の中で、環境破壊や「市民社会」の偽善を蔑み、エリートの横暴を糾弾してみせる。そんなマンソンの姿に共感を覚えた人も多いのではないか。こうした千年王国の預言者たちの立ち振舞いには、ジョージ・カーリンを彷彿とさせるものがある。実際、マンソンの中にカーリンの姿を見出す若者は多い。このような現状は、私たちの社会について何を物語っているのだろうか。

結び

スキゾポスティングに登場する物語や人物は、秘教的・千年王国的な政治思想の中でもとりわけ過激派揃いだ。言うなればこれは、グノーシスと狂気に向かう社会に対する、トラウマ的でありながらもコミカルな風刺なのである。

「どこにいても俺にはさびしさがつきまとう。
バーや車、歩道や店の中でもだ。
逃げ場はない。
俺は孤独だ」

「あなた、お願いだから精神科医に掛かって!
あなたは70年代ニューヨークのタクシードライバーじゃないのよ」

コミュニティに目を向けると、多様なジャンルや柔軟な姿勢を持つスキゾシーンには、高度に発展したハイパーリンク環境が形成されている。それはさしずめ、自分に合ったアイデアやミームをいつでも学べる「ミーム図書館」とも呼べるだろう。当然ながらスキゾポスターのほとんどは本物のスキゾではないが、それでも明日の言説を思索する上で彼らのアイデアは大いに参考になるはずだ。

千年王国ムーブメントは、今後もその混沌度合いを高めながら教義を拡大させ続けるだろう。こうしたオンラインコミュニティは独創性や宗教的情熱を武器にしながら、かつては異端として忌まわれた思想を主流化させてきた。その拡散の速度と規模は、驚異的というほかない。

カリユガやラダイト主義、暴力革命といった極端な思想から脱却するには、国民の懸念に対して適切に対応できる社会が必要だ。そうした社会が実現されない限り、こうした物語はますます多くの人間を引き寄せ続けるだろう。



(訳者注)
翻訳元の英文記事がネットに掲載されてから約半年後の2022年7月4日、アメリカ・イリノイ州のハイランドパークで銃乱射事件が発生。子供を含む7人が死亡、39人が負傷する惨事となった。

報道によると、犯人はネット上の過激派コミュニティに入り浸り、「スキゾポスティング」にも没頭していたという。

犯人がネット上に投稿していた動画には、銃乱射事件を連想させるようなアニメーションの他、妙に抑揚のない声で意味不明な言葉を淡々と喋り続ける動画もあった。それはあたかも統合失調症のふりをしているかのような喋り方だったと、過激派研究者のサラ・ハイタワー氏は語る。

犯人が実際に統合失調症を患っていたかどうかは定かではないが、スキゾポスティングに少なからず影響を受けたのは間違いないと思われる。まさにこの記事で懸念されていたことが現実で起きてしまった。



----------脚注-----------

*1 再領有(reappropriation)-(言葉などの意味を)〔特に、差別的に使われてきた言葉や概念を、差別される側が肯定的な意味で捉え直して用いること〕(英辞郎より引用)

*2 クリスチャンじゃねえが十字架にダイヤを散らすぜ - カール・グスタフ・ユング

近年若者の間で人気を集めるスウェーデンラッパーBladeeのシングル「Thee 9 Is Up」の歌詞。
「bussin down」はダイアモンドをあしらうという意味のスラング。つまり「I’m bussin down the cross」は十字架のペンダントにダイヤをあしらう、という意味になる。

Redditの書き込みによると、この歌詞は一種のシャレであり、Bladeeが異端的なキリスト教を信仰しているということを表しているという(ダイヤをあしらった十字架は、もはや正統な十字架ではない)。 ユングもまた、正統派のキリスト教のもとで育ったものの、後にキリスト教の中でも異端とされるグノーシス主義に傾倒していったことで知られる。したがってこれは、共に異端派であるBladeeとユングを組み合わせることで異端信仰を称揚することを目的としたミームだと思われる。

*3 ChatGPTに解説を頼んだら分かりやすく言い換えてくれた。

「皮肉やエッジの効いたアプローチから遠く、信仰と霊性を誠実に探求しています。オルト・リットやオンラインのサブカルチャーでよく見られるアプローチとは異なり、特定の伝統的な信仰体系には縛られず、善悪の永遠の闘いを信じ、それが霊的歴史の進行に影響を与えるものとしています。私のアプローチは非伝統的で、加速主義に反対し、確立された宗教機関には疑念や失望を抱き、反キリストの出現に懸念を抱いています。」

*4 おそらくユリウス・エボラ著「現代世界への反乱 (Revolt Against the Modern World)」が元ネタ。

*5 トゥルーサーズ(truthers) - 2001年9月11日に起きた米国同時多発テロは米国政府の陰謀だと信じている人(英辞郎より引用)

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