シェア
マブ Love is...
2023年12月26日 00:00
あれから随分と時が過ぎた。信幸と紫乃は切り麦の屋台に追われ気付いたら時が過ぎたと感じていた。最初から上手くはゆくまいと懸念していたがそれは杞憂に終わった。毎夜の様に勇也や仲間たちが客を連れてきていた。毎日が忙しい中で終わる。用意する切り麦の量も日に日に増えた。信幸にはそれはあまりにも幸せだった。段々と江戸が開けていく。色々と便利な町に変わっていく。下り醤油に鰹節が手に
2023年12月25日 00:15
「妻の紫乃で御座います。」夕刻、信幸の小屋を訪れた勇也と仲間、鉄斎を美しい女房が出迎えた。「はあーこいつあ別嬪さんだあ!」「こんな綺麗な人、初めて見ただなやあ。」「おい!手前ぇら、不躾だろが! 大変失礼しました。」「いえいえ。 何やら国本を思い出せました。 主人の為に色々とありがとうございます。」勇也も美人に弱い。その美人に頭を下げられるとむず痒くなる。「やめて下
2023年12月23日 00:00
「こいつあーすげぇな!」「これを作ってくださるのか?」「まあ、勇さんならやっちゃうやねえ。」「へへ。任せろ!」信幸は勇也に誘われ、中山鉄斎の鍛冶屋に来ていた。鉄斎の引いた図面を見せられ、正直驚いた。屋台には大八車の車輪が付き、支えを広げて小さな店になる様になっていた。「切り麦が売れる様になったら 目の前で打って見せるのもいい。 だからしっかり支えられる様に作ったぜぇい。」「
2023年12月22日 00:10
沈みゆく陽が目に入った。江戸でも夕陽は綺麗だった。この赤が自分を繋ぎ止めてくれて今日まで生きてこられたんだ。なのに、、、俺は何処で間違えたんだろう。薄れいく意識の中で紫乃の体温を感じながら信幸は最後に思っていた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「勇さんよお。 相変わらずだなあ。」「あんたに作れねえもんわ、ねえ!」「あはは、そう言われちゃあ、ねえ。」
2023年12月21日 00:04
信幸は覚悟が必要だと思った。もはやまた戦さ場に立ちたいという気持ちは無い。ただ紫乃と生きていければいい。人足仕事の出来ぬ自分はもうこれしか無いのだ。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「板だって?」 「何処か要らぬ板など、手に入る場所は無いだろうか と思い、尋ねさせていただいた。」信幸は以前厄介になった人足の若頭だった男を尋ねて聞いた。「そんなもん何に使うで
2023年12月20日 00:03
信幸と紫乃は夫婦になった。公には慎之介は戦さでの死となっている。その場を見た者は、皆討ち死にした。田原邸に集った連中は、正幸に連れ添っていた。だから信幸が慎之介を殺した事を知っているのは紫乃だけである。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「紫乃、苦労を掛けて済まぬ。」「信幸様は剣一筋で御座いました。 力仕事が合わぬのは、必定で御座いますよ。」二人は国を出た。
2023年12月19日 00:01
紫乃は信幸や兄•慎之介が木刀を打ち合う姿を見るのが好きだった。男たちは技と術を磨き、命の価値を捜している。戦さは落ち着いていた。この国の土地は一通り分けられていた。だが戦国の空気は終わりの匂いをさせなかった。いつか。いつかきっと戦さは起きる。男たちは、そこに賭けていた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーそこに賭けていた信幸が今自分の前で手をつき頭を下げていた。
2023年12月17日 03:14
戦さが終わり国に帰り、死んだ者たちの弔いをした。信幸は生きて帰っては来たが、その顔は死んだ様に見えた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあんなに無数の尖った物が、自分に向かってくるなんて思ってはいなかった。矢が空を駆け、それが済むと槍が固まりになって押し寄せた。その光景はとても恐ろしかった。だが馬の上の信幸は高を括っていた。自分にまでは届かない。拮抗した後、押し返
2023年12月16日 05:00
時が過ぎ戦さは始まった。信幸の藩も出陣をした。天下分け目の大戦であった。小藩であればある程、この参戦に意味を持った。出柄があれば目に映る戦績があれば加増は夢では無くなる。信幸の父現•田原家当主、田原正幸はこの戦さを終え家督を信幸に譲ろうと考えていた。早い隠居だが、若い力に託す事を良しと出来る品格を持っていた。つまりは夢を見ていたのだ。あの赤い夕陽の中で笑い合い、競い合う若
2023年12月12日 00:02
田舎ののどかな空気にも、戦乱の匂いは混じる。いつか手柄を立て、己が家の名を響かせよう。若い血は時代の空気の中に憤っている。太閤様が亡くなられたのだ。天下を狙う者が動き始める筈だ。「戦」大掛かりな戦さがあるに違いないのだ。腕を鈍らせてはいけない。勘を磨かねばならない。匂いを嗅ぎ分けるのだ。光明の匂いを。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「慎之介は手首が柔