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もうひとつの童話の世界、9        でんでんむし

でんでんむし

「ケンちゃんは おばあちゃん子やね。」

 みんな かってに そういうけど、

ぼくはそんなこと おもてない。 

みんなが かってに そうきめてるだけや。

 ほんとうの ぼくの きもちは、だれもしらへん。

パパも ママも はたらいてるから、おばあちゃんの家で あそんで まってるだけや。

 はじめは さみしかったけど、もうなれてしもた。

それに おばあちゃんの家は  大きな ふるい家やから、いろんなものがあって おもしろいんや。

うらにわには、花が いっぱいさいてる。

実のなる木も いっぱいうえてある。

びわも みかんも いちじくも うめの木も、どれも 実がなったら、ほっぺたが おちるくらい あまくなる。

たべほうだいや。

でも、梅の実だけは、生でたべたらあかんて、おばあちゃんがおしえてくれた。

おばあちゃんは、ぼくが おいしそうに たべるのを、うれしそうに みてる。

「ケンちゃん このビワの美も たべてみ。

おいしいで。」

 おばあちゃんが とってくれた びわの実を たべると、

うそみたいに あまい。

 家にかえって パパとママにいったら、

「えっ、びわの実を 五つも たべたんか?」

 おどろいてる。

びわの実のおいしさを しってるんは、ぼくと おばあちゃんだけや。

それに はたけには、こんちゅうが いっぱい いてる。

セミは まいとし いやというぐらい びわの木に ついてる。

あみが なくても、手で つかまえられる。

セミのぬけがらが 木のみきにも はっぱにも いっぱい ついてる。

いちじくの木には、カミキリムシや カナブンが とんでくる。

みかんの木には、いろんな 蝶々がやってきて、たまごを うみつける。

ぼくは アゲハチョウの たまごを みつけると、いつも むしかごにいれて たいせつに そだてる。

そして さいごに さなぎが アゲハチョウに へんしんするのを、じっと みてる。

なんで あんな へんなむしが、あんな きれいな あげはちょうに へんしんするんやろ?

なんべん そだてても わからへん。

ふしぎやなあ。

おばあちゃんに きいたら、

「おわりよければ すべてよしや。」

と、わらってた。

「カブトムシと クワガタは いてないなあ?」と、きいたら、

おばあちゃんは、

「ここには いてないなあ。」

でも、二,三日したら、ちゃんと おしえてくれる。

「ともちゃんとこの うらやまに、カブトムシも クワガタも いてるんやて。とりにいくか?」

 ぼくは よろこんで おばあちゃんと いっしょに とりにいった。

 おばあちゃんは ともちゃんと たのしそうに はなしてる。

おじいちゃんが ぼくといっしょに うらやまに はいって さがしてくれた。

しかし カブトムシが 1っぴきしか とれへんかった。

ざんねんや。

「あさ はように きたら この木におるんやけどなあ。」

ざんねんそうに、みきをたたいてる。でも「これな、きのうの よるに とったやつや、もってかえり。」

クワガタ 3びきと、カブトムシ 2ひきを くれた。

 うれしかった。

 おばあちゃん ともちゃん おじいちゃん ありがとう。

 
それやのに、あんなにげんきやった おばあちゃんが、

とつぜん なくなった。

「しんどいから よこになるわ。」

いったまま おきてけえへん。

ぼくは、ひとりで あそんでた。

ゆうがた、ぼくを むかえにきた パパが、

あわてて きゅうきゅうしゃを よんだけど、まにあえへんかった。

ぼくの せいや。

おばあちゃんが おらんようになって、 

ぼくの どこかが こわれてしもた。

かなしいのに なみだが でてけえへん。

セミの ぬけがらみたいに なってしもた。

おばあちゃん どこにいったんや?

 

おそうしきの日は 雨やった。

ぼくは なんにも でけへんかった。

 えんがわに ポツンと すわってた。

そしたら パパがよこに すわってくれた。

「ケン、びわの木に ついてる でんでんむしが みえるか?」

「うん。」

「むかし パパが このえんがわで 泣いてたら、おばあちゃんが おしえてくれたんや。

でんでんむしは、あのちいさな からのなかに、かなしみを いっぱいつめこんで 生きてるんやて。

そやから、とおった あとが なみだで、いつも ぬれてるやろ。

それに、じぶんが 泣いているのを みられたくないから、きょうみたいに 雨の日にしか、あらわれへんのやて。」

パパは なぐさめてくれた。

「おばあちゃんは ケンのことが、だいすきやと いうてた。

ケンは なにも わるないんやで。」

「ほんとうに?

ぼく なんにもできひんかった。」

「ほんとや おばあちゃんはなあ、ケンが きてくれるから がんばれる いうてた。

なあ、ケンは でんでんむしと どっちがつよい?」

「ぼくやと おもう。」

「パパも そうおもう。

おばあちゃんが いってたやろ。

あんな ちいさな でんでんむしも、からのなかに いっぱい かなしみをつめて がんばってる。

ケンも、がんばろな。」

 ぼくは じっと 雨に ぬれてる でんでんむしを みてた。

 ぼくと いっしょや。

 ぼくも 泣いて ええんかな。

 おばあちゃん ごめんな。

 ぼく なんにも でけへんかった。

 なみだが きゅうに あふれれてきた。

 とめられへんぐらい あふれてきた。


 


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