もうひとつの物語の世界18 そらと うみ 2/3
そらと うみ 2/3
洞窟(どうくつ)をぬけると、草原(くさはら)のむこうに湖がひろがっていた。
山々の雑木林が、まわりをとりかこんでいる。
祭りをたのしむひとたちは、もうはやくからきて楽しんでいる。
みんなおもいおもいに草原(くさはら)にすわり込んで、ワイワイガヤガヤにぎやかにお酒をのんでいる。
笛(ふえ)と小太鼓(こだいこ)にあわせ、輪になっておどっているひとたちもいる。
うみが、きいた。
「なんでみんな動物のお面(めん)をかぶっているの?」
壮太(そうた)は、わらってこたえた。
「お面(めん)じゃないよ。
みんな昔かえりしてるんだ。」
「昔かえり?」
「ここにくれば、昔のすがたにもどれるんだ。
おれは、イノシシの子だろう。
きみたちは、オオカミの子だろう。」
あたりまえのように言った。
たしかになまえは、大上(おおかみ)だけど、
なんで?
そらと、うみはきょとんとしている。
「どうして、ぼくたちはオオカミの子なの?」
「だって、あの洞窟(どうくつ)のトンネルをとおれるのは、どうぶつの子孫(しそん)だけだよ。
ふつうのひとはとおれないよ。」
「でも、ぼくたちは、とおれたよ。」
「だから、オオカミの子なんだ。」
パパから、なにもきいてない。
ママも、なにもいわなかった。
そらと、うみは、オオカミの子?
きゅうに、そんなこといわれても、すぐには、しんじられない。
ふしぎそうにあたりをみわたした。
クマのおじさんが、服をきてたのしそうにお酒をのんでいた。
シカのおばさんが、浴衣(ゆかた)を着ておどっている。
イノシシのおじさんが、背広(せびろ)をきてこちらにあるいてきた。
「壮太(そうた)、その子たちは?」
「オオカミの子だよ。はじめてこの祭りにやってきたんだって。」
「ホー!オオカミの子か、よく生きていたなあ。
じゃあ、御目通(おめどお)しのときに、山神さまにあいさつせんとな。」
「この祭りの世話役(せわやく)で、おれのおやじ。」
壮太(そうた)は、そらと、うみを、をしょうかいした。
そらは、ぺこりとあたまをさげた。
うみも、つられてあたまをさげた。
が、なにがおかしいのか、クスクスわらっている。
あとでそらは、こっそりきいた。
「なんでわらった?」
うみが、こたえた。
「だって、イノシシが背広を着て、しゃべってるんだもん。」
いわれてみるとそのとおり。
そらも、わらいだした。
ふしぎなせかい。
なにかおかしい。
でも、なにかたのしい。
ふたりは、壮太(そうた)につれられて、お祭りのなかをあるきまわった。
しばらくすると、大太鼓(おおだいこ)がなりひびき、
空気がかわった。
みんな、すわりなおすと、あらたまってあたまをさげた。
なんであたまをさげるの?
そらと、うみはつられてちょこっとあたまをさげていた。
湖にうすい靄(もや)がながれ、おごそかな声がひびいた。
「山神さまの、おなーり。」
靄につつまれながら、しずかに山神さまがおりてきた。
お供のものをしたがえ、しずかに湖をわたってくる。
そして、湖の岸のてまえでとまった。
うみは、ちらっと、顔をあげた。
ママとおんなじくらいきれい。
そらも、ちらっとみた。
目があって、あわてて頭をさげた。
山神さまの、すずやかな声がきこえてきた。
「みなのもの、たいぎである、顔をあげよ。
今宵(こよい)も、みなの顔をみることができ、うれしくおもいます。」
そして、ひとりひとりをたしかめるようにみんなの顔をみわたすと、
「さて、みしらぬ子どもがきておるが?」
壮太(そうた)のおとうさんが、顔を上げてこたえた。
「はい、オオカミの子どもたちでございます。」
「なまえは、なんというのですか?」
そらが、こたえた。
「そらと、うみです・」
山神さまは、そらと、うみをじっとみつめていた。
「いいなまえですね。
たしか・・・、
あなたたちのおとうさん、おかあさんもここにきましたね。」
ふたりは、びっくり、
おもわず、うみが、さけんだ。
「パパと、ママにあったの?」
うれしそうに、顔がかがやいている。
「ふたりは、げんきですか?」
そらが、こたえた。
「げんきです。
ママは、仕事でこれなかったけど、
パパは、お寺でカレーをつくっています。」
とたんに、みんながらわらいだした。
山神さまはほほえみ、
「そうですか。やさしいおとうさんですね。」
そして、みんなのほうにむきなおると、
あらためて、
「ことしも、無事みなの元気な顔をみられて、うれしくおもいます。
年に一度の昔返りの物延(もののべ)祭り、こころおきなくたのしんでください。」
いいおえると、ゆっくり靄(もや)のなかをもどっていった。
湖の反対側にある、古いおおきな社(やしろ)のなかにはいっていった。
御目通(おめどお)しがおわると、みんなは、また祭りをたのしみだした。
そらと、うみはうれしかった。
パパと、ママもきたんだ。
パパと、ママもそうなんだ。
ふしぎな世界に、こころをうばわれていた。
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