もうひとつの童話の世界1 ことだま・十円玉・ウリハムシ・つむじ風
ことだま
ぼくは 公園にあそびにいった。
砂場であそんでいると、とつぜん 声がきこえてきた。
「なんで、みんなと一緒にあそばないんだ。」
ぼくは、びっくりした。
「だれ?どこにいるの?」
「おれは、ケンのすぐそばにいる。」
ぼくは、あたりをみまわした。
「だれもいないよ?」
「おれは、ことだまだ。
ことだまとは、聞こえるそばから、きえていく、
だから、みえないんだ。」
「きみは、ぼくのともだち?」
「いいや、ちがう。
でも、ケンのことは なんでもしっている。」
「なんでも?」
「ああ、なんでもしっている。
きのう、ケンは マサトにみっちゃんがすきか?と,きかれたろう。
そのとき ケンは なんとこたえた。
ほんとうは、みっちゃんがすきなのに、好きじゃないと答えたろう。
それも、ことだまだ。
ことだまとは そういうものなのだ。
いいも、わるいもない。
しんじつも、うそもないんだ。
声にだしたとたん、ことだまとなってきえていくんだ。
だから、ことだまなんだ。」
ぼくには、よくわからない。
「つい、いったんだ。」
「それが ことだまなんだから、しかたない。」
「ほんとうのことを いえばよかったの?」
「そのほうが らくだろう。」
「みっちゃんには いえるよ。」
「みっちゃんは、あそこでブランコにのっているぞ。」
ことだまが、ぼくのへんじをまっている。
「ぼくは、いえるよ。」
ぼくは、ゆっくり みっちゃんに ちかずいていった。
みっちゃんは ぼくに気づいて、
「ケンちゃん、なにしにきたの?」
「なんにも。」
ぼくは ドキドキしてる。
みっちゃんが、さきにきいてきた。
「ケンちゃん、このまえ、マサトくんにきかれたでしょう?」
「なにを?」
「あたしのこと すきかって。」
「うん。」
「で、なんてこたえたの?」
「すきじゃないって こたえた。
でも、ほんとうは ぼく、みっちゃんのことすきだよ。」
いえた、ちゃんと ほんとうのことをいえた。
やっと じぶんのことばでいえた。
きっと、これが ことだまなんだ。
みっちゃんが、きいてきた。
「ほんとうに?」
「ほんとうだよ。」
「ありがとう。
でも、あたしは、マサトくんがすきなんだ。
ごめんね。」
「えっ、・・・べつにいいよ。」
ぼくは ゆっくり みっちゃんから はなれた。
ぼくは ことだまにいった。
「ぼくより マサトくんが すきなんだって。
きみは しっていたの?」
「ああ、しっていた。」
ことだまは すましていった。
「しっていて ぼくにいわせたんだ。
おしえてくれれば よかったのに。」
「ことだまとは そういうものだ。
いいも わるいもない。
真実も うそもない
口からでたとたんに、ことだまになるんだ。
だから、ことだまなんだ。」
ぼくは、ことだまにきこえるように つぶやいてやった。
「ことだまなんて きらいだ。」
十円玉
ケンは、十円玉をもって駄菓子屋にいった。
ケンのほしいものが いっぱいならんでいる。
「なに かおうかな?」
十円玉がきいてきた。
「ケン、おれを つかうつもりか?」
「そうだよ。」
「じゃあ おわかれだな。」
十円玉は、ちょっとかんがえている。
「おれは、これからどうなるんだ?」
「しらない。」
「しらないのか、ふあんだなあ?」
「じゃあ、つかうときに、きいてあげるよ。」
ケンは、あめだまをひとつとって、駄菓子屋のおばあちゃんに、十円玉をわたした。
「はい、ありがとう。」
ケンは、きいた。
「おばあちゃん、この十円玉は、どうなるの?」
おばあちゃんは、
「そうだねえ、商店街のスーパーに 買い物にいったときに つかうかね。」
「スーパーのひとは その十円玉を なんにつかうの?」
「お店の品物を 買ってくれたひとへの、おつりにつかうとおもうよ。」
「そうなんだ。」
ケンは、十円玉にいった。
「よかった、またあえるかもしれないよ。」
その夜、ケンのパパが かえってきた。
「かってきたよ。はいこれ。」
ママは、うれしそうに、
「いつもより 五十円もやすいのよ。
ありがとう、パパ。」
ケンは パパのあとについていった。
「パパ、どこでかったの?」
「商店街の スーパーだよ。」
「パパ、十円玉で おつりもらった。」
「ああ、もらったよ。」
「そのうちの一枚は、きっと、ぼくの十円玉だとおもうんだ。
返してくれる?」
パパは、ちょっとかんがえて、十円玉を一枚くれた。
「ママにはないしょだぞ。」
ケンは、そっと、十円玉にいった。
「おかえり、また、ぼくのところにもどってきたね。」
十円玉は、なにもいわずに だまっていた。
ウリハムシ
おれは、ウリハムシ。
うりと名の付く野菜はなんでもおれの大好物だ。
それ以外にも、この畑ではそら豆もオレのだいこうぶつだ。
いつも畑の野菜にとりついている。
だから、おれは、畑のきらわれものだ。
畑をあらす害虫として、めのかたきにされている。
でもなあ、世の中すてたものじゃないよなあ。
そんなおれを、好きだという子があらわれたんだ。
ケンという子どもなんだ、この畑のおじいちゃんの孫だ。
小学校が終わると、いつもやってくる。
ほらほらやってきたぞ。
「ケン、学校はどうだった?」
「べつに。」
おれは、まえから気になっていたことを、聞いた。
「どうして、おれをすきなんだ?」
「だって、きれいな色をしてるだろう。」
「「おれをほめるなんて、おまえは、かわっているな。」
「どうして?」
「おれは、害虫で、畑のきらわれものだぞ。
お前も、小学校できらわれているのか?」
「べつに。」
おれは、もうひとつきいた。
「いつも畑にやってくるけど、友だちとあそばないのか?」
「あそばないよ。」
「どうして?」
「友だちなんて、いないもの。」
「どうしていないんだ?みんなにいじめられているのか?」
「べつに、友だちがいないだけだよ。」
ケンは、おれが言うのもなんだが、かわった子どもだ。
どういったらいいのか、とにかくかわった子なんだ、
だから、ウリハムシがすきなんだろうな。
「たまには、友だちとあそんだほうが、いいんじゃないか?」
「どうして?」
「だって、いつもひとりぼっちだろう。」
「そんなことはないよ。だって、きみは、ぼくの友だちだろう。」
「そうか、おれは、ケンの友だちなんだ。
やっぱりケンは、かわっているな。」
そのとき、おじいちゃんが畑にはいってきた。
入ってすぐわきにある、イチジクの木に目をやると、ケンをよんだ。
「ケン、きてごらん、めずらしい虫をみつけたよ。」
ケンは、イチジクの木にちかずくと、
「うわー、変わった虫、なんていうの?」
「カミキリ虫だな、イチジクの木に着く害虫だよ。」
それだけいうと、おじいちゃんは、あとをケンにまかせて、やさいをとりにいった。
ケンは、さっそく、はなしかける。
「きみは、カミキリムシなの。」
「そうだ、悪いか?」
「かわったいろをしてるね。」
「それがどうした?」
「君は害虫?」
「人間が、かってに、きめつけてるだけだ。
おれにとっちゃあ、人間がおれたちの害虫だぞ。」
「たしかにそうだね。ねえ、友だちになってくれる?」
「おまえ、かわっているな。
おれは、害虫できらわれものだぞ。
それでもいいのか?」
「そんなこと気にしてないよ。」
そのとき、飛んできたウリハムシがいった。
「ケンは、おれたちみたいな、きらわれものの害虫がすきなんだ。」
「ふーん、かわっているな、おまえ 友達が、いないだろう。」
「きみたちが、友だちだよ。」
「やっぱりかわっているな。おまえなら、昆虫博士になれるぞ。」
「ほんと?」
「ああ、害虫がすきな人間なんて、昆虫博士しかいないぞ。」
「じゃあ、なってもいいよ。」
ウリハムシは、うれしそうに、
「そうか、ケンならきっといい昆虫博士になるぞ。」
カミキリムシは、いばっていいました。
「それなら、友だちもしょうかいしてやるよ。」
つむじ風
ケンがあるいていると、つむじ風が ちかずいてきました。
「ケン、なにしてる?」
「公園にいくんだ。」
「おれとあそばないか?」
「いやだよ。」
「鬼ごっこしないか?」
ケンはいいました。
「帽子をとばしたり、スカートをめくるのはいやだよ。」
「あれはおもしろいぞ。みんなきゃっきゃいってにげるんだ。
おれにとっちゃあ 鬼ごっこだよ。」
「だから、きらわれるんだよ。」
「じゃあ、なにしてあそびたい?」
そこに、べつのつむじ風がやってきました。
「おい、みんなを おどろかしにいこうぜ。」
ケンはいいました。
「ぼくはいかないよ。」
とたんに、つむじ風は、
「じゃあなケン、またあとであそぼうぜ。」
ともだちといっしょに、とんでいってしまいました。
ケンはあきれれて、
「まだ、一度も、いっしょにあそんだこともないのに。
じぶんかってに あそんだとおもっているんだ。
だから、つむじ風なんだ。」
#創作大賞2023 #オールカテゴリー部門 #創作童話#ショートショート#小説
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?