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彼は稲穂の神様

ミディアムロングの黒髪、口元には長めの髭。
目は大きく、鼻は高い。

顔のパーツが正しい場所とバランスで配置されていて、端正な顔立ちだがやや痩けている。

恐れ多すぎるのだが
イメージとして一番しっくりくるのは
イエス・キリスト。


服装はというと表現しがたい。

上はTシャツでもないしトレーナーでもない。
麻?なのだろうか。

ボロボロの白い布切れをまとい…というか
体に引っ掛けている感じ。
でもまぁ、服と認識はできる。



下は膝がギリギリ見えない程度の半パン。
だがこちらも表現しがたい。
市販されている感じではなく
上の服?と同じ雰囲気のもの。

足元はというと
素足にボロボロの茶色いサンダル?を履いていた。

↓こんな感じのをボロボロにしたもの





彼は、着ている服と同じタイプの布を
はちまきのように頭に巻きつけて
ちょうど両耳のあたりに稲穂を挿していた。
しっかりと、たわわに実った稲穂だ。

左手には
籾殻付きのお米を三分の一ほど入れた
500mlの透明なペットボトル?を
胸の高さで持っている。



彼に会ったのは、
当時私が働いていたカフェだ。



初めて見た時は驚いた。
だって頭に稲穂を挿して、籾殻付きのお米を持ってるんだから。



店内に入ってきた彼は
うっすらと笑みを浮かべ、席に座るでもなく
店内を見渡していた。

表情はもののけ姫のシシガミ様。

こんな感じの笑みと雰囲気


一応声をかけたが聞こえてない感じ。

目も合ったはずなのだが
私の存在なんか風景の一部とばかりに
いっとき店内を見渡してから
静かに去っていった。


一人体制で回す小さなお店だったので
危なっかしいお客さん(無銭飲食など)が来た場合は他のスタッフと共有するようにしていた。

そして大抵、そういうお客さんは
「あの人だよね!」とか
「私の時も来たよ!」と共有できるものなのだが

”稲穂を頭に挿して籾殻付きのお米を持った男性”を見た人は他に誰もいなかったし

説明しても
「頭に稲穂?なにそれ?」という感じで
この摩訶不思議感を共有してくれる人はいなかった。



はじめて稲穂の人が来店してから数日後、
ちょうど梅雨入りの時期で
その日は朝から強めの雨が降っていた。

今日はお客さんが少ないなぁ
なんて思いながら店番をしていると、
服を着たままシャワーを浴びたかのような姿であの人がやってきた。
傘は持ってない。


頭には相変わらず
たわわに実った稲穂を挿し、
左手には籾殻付きのお米の入ったペットボトル?を持っていた。


前回と同じよう
シシガミ様のような笑みを浮かべ、
風景の一部と化した私が視界に入っているのかいないのか、店内をゆっくりと見渡し、
静かに去っていった。


私は彼を、稲穂の神様だと思った。

五穀豊穣を願い稲穂を頭に挿し、
籾殻付きのお米を左手に持ちながら
日本中を旅しているのだ。
たぶん。


その神様がなぜ
田舎の街中にあるカフェに、
しかも私が店番の時のみ
ふらりと現れたのかはわからないし

あの神様に会ったからと言って
何かいいことが起きたわけでも
楽しい思いをしたわけでもないのだけど

10年以上経った今でもこうして思い出して
もう一度会いたいなぁと思ったりするのだ。













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