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父と万引きとラップ続編


 僕は今、新しいラップのリリックを書いている。急かされるように。何故なら、一昨年の年末に爆誕したラップ曲『よってってにこんといて』の続編が出来そうだからだ。それは何故か、そう、うちの親父がまたやらかしたのだ、

あの《万引き》を。


 テレビでしか見たことのなかった、良く聞くシニアの万引き。仕事をリタイアした後、孤独や虚しさから来るシニアの万引き。はたまた痴呆の始まりか。それがまさか自分の父親に起こるとは。

 前回の時はそれはそれはショックでなかなか立ち直れなかったのだが、ラップが僕を救ってくれた。思いの丈をラップに乗せることで笑いに昇華され、それは大勢の笑いとともに天に昇って行った。それから約1年半、ダイハード、バックトゥザフューチャー、インディジョーンズ…あのハリウッド映画たちのようにまさかの続編となって戻って来るとは。

 前回の顛末は以前のnoteにも書いたのでお暇な人は読んでほしいが、今回もこのnoteのテーマでもある《赤裸々にケセラ・セラ》よろしく赤裸々に書いてみようと思う。

 あたたかな陽気の春の朝、5月10日。
とても気持ちの良い日だなと思ったのも束の間、ふと携帯電話を見ると、知らない電話番号からの着信履歴があった。基本知らない電話番号からの電話は拒否する設定にしてるので気づかなかったのだが、どうやら留守番電話が入っているらしい。その時点でうっすら気づいている自分がいたのだが、Googleで検索したところやはりその勘は当たった。

高田警察署



ビンゴ!
前回の橿原警察署から場所を変えて来た。
もはや笑いすら込み上げて来る。
これぐらいの事では動揺しない自分がいる。ヒップホップのお陰だ。偉大なるヒップホップ。僕は心の中でラッパーのように決めポーズをした。Yo! Father F◯◯ker!

 とは言えそれは犯罪。反社会的な行動なので褒められる事ではないし、ましてや肉親。自分と血の繋がった紛れもない父親なのだ。心配を越して呆れるしかないと言うのか、ここまで来ると身をもって思い知ったほうが良いのでは?なんて思ったりもする。しかしこれ以上罪を重ねないで欲しいと願ったのも虚しく、また同じ過ちを犯してしまった。

 前回も書いたが、父親は極々一般的なフツーの真面目なサラリーマンだった。途中会社の倒産などにも合ったりしたが、無事新しい会社で定年まで勤め上げた。僕からするとあまりにも普通すぎて面白みのない父親だったから、反面教師的なところもあった。あまりに考えが違うからずいぶん反発もしたし、正直気が合わなかった。


容疑者A


 しかし、結婚して子供ができてからは孫が可愛いいのか、ずいぶんとお互いの距離は縮まったような気がした。それでも全く別世界の人のような感覚の人だから、あまり深く話をすることもなかった。父が仕事をリタイアしてからは一年に何回か合うぐらいで、たまに孫の顔を見せるぐらいだった。それが前回の万引き以降、本人が気まずいのかあまり向こうから電話してこなくなった。たまに連絡があると警察からのお迎え要請なのだ。

 留守電を聞くと、聞いたことのあるセリフが録音されていた。捕まって事情聴取を受けていて、身請け引き取りの要請だった。しかし前回同様、よりによって電車で来ている日だったし、なによりそんな理由で早退して迎えに行きたくない。ましてや財布の中には今ギリギリの電車賃ぐらいしかなかったし、無賃乗車も一瞬脳裏によぎったが自分も捕まってどうするとあきらめた。と、弟から電話があり、やはりその件だった。弟は大阪に来ていて、15時ぐらいにしか行けないと言う事だった。

 警察署に電話をすると、担当の警官が出て経緯を聞いた。どうやら3月末に新庄のあるスーパーでフライパン!を万引きし、警察が捜査した結果、今になってご用になったと言う事だった。自宅に警察が来て連行されたと言う事だった。もうそれ完全な犯人やん!と、がっくり来たが、心の中で2度見した。ちょっと待てよ、フライパンてどんだけデカいもん盗んどんねん!パンはパンでもフライパン言うてる場合か!前回の大きめの菓子折りもそうやけど、どんだけデカいもんを盗めるか楽しんどんのか!というのが正直な感想だった。事実あれだけもうやるなと言ったのにまたやらかしているのだ。反省してるとは到底思えない。そう言えば前回の時も次の日にゴルフの打ちっぱなしに行ってたらしいから、確実に反省なんてしていない。クズだ。真のクズ人間確定だ。とにかく仕事を途中で抜けるのも嫌だったので、弟にお願いして迎えに行ってもらうことにした。

 実は今回で3度目の万引きで、次は実刑になるかもと前回の時に言われたのだが、今回はとりあえず釈放という事だった。しかし場合によってはまた事情聴取をされるかもしれないらしく、本当に次はもうない。次があったとしたら本当に笑えないのだ(今でもじゅうぶんに笑えないのだが)。

 とにかく弟は警察署に行って身元引き受けのサインをして会う事なくそのまま帰って来たという事だった。再びパトカーで家まで帰ったのだろう。さて、なんて電話したら良いのか、どのタイミングで電話するべきか悩んでいる。

シニアの万引き。

 今の社会が作り出した病気なのか、日頃コミュニケーションをとっていない自分の責任なのか。とにかくラップの続編はもう作らせないで欲しい。みなさんも気をつけてください。
万引ダメ絶対!

《よってってにこんといて》
第3章乞うご期待!

#創作大賞2023 #エッセイ部門

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