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普通の経験しかなくて、普通のことしか言えない、という悩み

を言う人はとても多い。
私が面接した20,000人に、じゃあ本当にスーパーでスペシャルな人がいたか、というと、自信を持ってこの人、と言えるのは一人だけです。
35年以上前のことです。私が人事の採用担当で、一次面接をしていた時期のことです。
彼は、ある大学の山岳部の主将でした。
彼は大学の山岳部のOBと現役で成るエベレスト登山隊に参加し、山頂に立った経験を持っていました。
山際淳司の「山男たちの死に方」という本を、若い頃愛読していました。
私自身は異常な寒がりだし、意志薄弱なので冬山に挑もうと考えたことは1秒もないのですが、(中学生の頃に、映画「八甲田山」を見たせいもある)その厳しさはわかります。
その当時のエベレストに挑む難易度は、恐らく今の登山の難易度とはけた違いだと思います。持っていける酸素の量も、当時は今の数分の一だったらしい。
エベレストに挑むには、長い期間トレーニングを積むのはもちろん、自分で三桁万円の資金も調達し、現地に着いてから、いくつものベースキャンプを設営して、山頂に迫っていきます。
登山隊の全員が、山頂に立つことを望んで参加することでしょう。
でも、山頂に立つことができるのは、そのうちの2人程度です。
もしかしたら、仕事を辞めて参加している隊員もいるかもしれない。
それだけ人生を賭けて参加しても、ほとんどの隊員には、山頂を目前にしても、そのチャンスは与えられないのです。
その中で、山頂にアタックすることを許されるのは、いくらお金を出したからではなく、体力と技術と、そしてこいつなら負けても仕方ない、と思わせる人間性も不可欠のはずです。
彼に会って、語らずともそんな空気をもっている人間がいるんだと思わざるをえませんでした。年下の彼に、すみません、と言いたくなりました。
そんな人と面接したのは、彼だけです。
もちろん、彼ならどんな仕事に就いても一流になるとまでは言えません。
植村直己さんに会ったことはもちろんありませんが、もし会社に入って、会社員としてどうか、というのは、彼の素晴らしい人間性だけでは判断できません。
20,000人も会ったのですから、色々な素晴らしい人に会えたのは事実です。
でも、今真っ先に思い出せるスーパーでスペシャルな人物って、山岳部の彼だけです。
大抵はみんな普通の人です。普通の人だけど、普通の人なりに努力したり、悩んだり、壁にぶつかって成長してきたのです。
普通の経験しかないことが、決してマイナスにはなりません。
むしろ、普通の経験の中で、あなたは何を得てきたのか、そこが一番聞きたいことです。
バイトだって、部活だって、普通のことでいいんですよ。
むしろ誰もやっていないようなスポーツとか、バイトをやっていた人を、是非採用したくなるかと言えば、そうでもないです。
障がい者雇用で言えば、私が就労移行支援の人間として企業に求職者を紹介すると、企業の方は、
「その紹介していただいた方は、通所は安定していますか?」
と必ずお尋ねになります。
毎朝起きて、気分の乗らない日も、暑くても寒くても、雨でも雪でも、きちんと通所する、そんな当たり前のことが一番大事なことです。
そして、それができたら、それだけで素晴らしいことだと思います。

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