『エチカ』 ~ FLY!FLY!FLY!
前回はコチラから▶ 『エチカ』〜 シャークの森
:::::::: つづき
「ふぅ、あのおしゃべり鮫が消えてくれたら途端に静かになったな。ハハッ、そうだよ、何も恐がることはない、これ、全部ぼくの夢なんだし。」
太陽は出ていない、月も星も見えないのに辺りは明るかった。さっきまでは、鮫しか見えていなかったのに、不思議なほど周りがよく見える。樹木が乱立し、道らしい道はないというのに、おどろおどろしさは感じられない。大地は芝生のように背丈の揃ったグリーンで覆われており、目の届く限りどこまでも広がっている。
(遊んでくのも悪くないか…)
「そうこなくっちゃ!エチカくん!」
「うわッ!!! もう! ビックリさせないでくださいよ!」
「そお?」
「消えたかと思ったらまた突如現れて!気配くださいっ、せめて気配を!」
「エチカくん、恐がりなのですね。」
「そうだよ!ぼくは恐がりだけど、シチュエーションにもよりますよ!鮫が突然目の前に現れたら、誰だって驚きます!」
「そうでもないですよ。わたしが現れてもビクリともせず、スイッと背中に乗って、シャークの森遊泳に出かけたひと沢山しってます。」
「え?! ぼく以外にも、ここへ来たひとがいるってこと?!」
「です、ですよ。もうしょっちゅう~。ついこないだなんて双子が乗ってきて ・・・あれにはわたしも参りましたよ。」
「しょっちゅう~って、これ、ぼくの夢なのに?」(あ、そっか、夢だから…自作自演だ、ひとりじゃ心細いから、無意識のうちに同じ立ち位置の登場人物ふやしてるってこと? あ;あ;あ””っーーーーってか、なんかめんどっちぃ~、この意識と無意識の行ったり来たり!)
「そうですよ、エチカくん。きみ、けっこうめんどくさいです。」
「あなた、けっこう言いますね!っってーーーか! ぼくの心の声まで聞こえちゃってるの?!」
「もちろんです。だってこれ、きみの夢なんでしょ?」
「もうぉお!!!その件に関しては、もういいですっ!どっちみちアラーム鳴れば目覚めるんだし、ぼくもその背中に乗ります!」
「エチカく~~~~~~ん♪ そうこなくっちゃ!」
鮫の背中は、意外に鮫肌ではなかった。
ほどよい低反発のクッションにおさまる心地好さ、とでも言おうか。
ひんやりとした風が、ジャスミンのような香りをふくんで鼻腔をくすぐる。
これだけ樹木が乱立しているのに、木立をスムーズに抜けていく遊泳力?がハンパない。まるで合氣道の達人並のしなやかさだ。流石は鮫?!飛行機のように揺れてムダに恐がらせることもなく、安定飛行。鮫って、本当はやさしい生きものなのかもしれない。
が、そう思ったのも束の間、ぼくの体は宙高く舞った。
急にトップギアに入った鮫が、あろう事かスピンしたのだ。
「うわぁああああああ==========================!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「お~~~~~~~~~いっ♪ エチカく〜〜ん、楽しんでる???」
「 … … … 」
「エチカく~~~~~~~ん♪ これ、夢だから、きみのゆ~~~~~~めっ!」
「 … … … 」
「飛んで、飛んで~~~~~~~♪ フライはみんなFLYしたよっ!きみもフライ!」
ヒュゥ~~~~~~~~~~~~~~~~~っ、バサッ! ビュ~~~~~~~~~~ンっ√√√ ドゥスっ√
「あーりゃりゃ、こりゃいかん!」
「痛ってっーーーーー! イテテテ++++++;;;」
「フライはみんなFLYできたのに、人間すべてが飛べるわけじゃないのかな?」
「何言ってっすんか!!! はやく助けてくださいよぉ〜〜〜」
「エチカくん、とっくに助かってますよ。ほら、フィッシングキノがキャッチしてくれてます♪」
「えっ?! えっ============????????!!!!!!!!!!! まさかぼくっ、キノコに釣り上げられてんの?!?」
「そうです。エチカくん、ずっと見てたじゃない、あの絵本。『化鳥』のワンシーンですよ!」
菌糸のような極細の釣り糸で命を繋がれたぼくの体は、張り出した木の枝に引っ掛かりゆっさゆっさと揺れていた。 眼下には、シイタケの笠のようなものをアタマにつけた、正にキノコが! 河原に並んで釣りをしている。
それは鮫の言うとおり、ぼくが幼いころ大好きで、何度も何度も繰り返し見ていた、泉鏡花『化鳥』の絵本のあるページそのものだった。
「まったく大人って、フライじゃないですねー。」
次第に分かってきたが、この鮫はどうやら独自の言語体系を持つようだ。ときどき謎掛けのようなフレーズを吐く。あるいは、まったくのデタラメなのかもしれない。ぼくの知ってることがバイアスとなり、それを謎掛けと認識してしまうだけなのかもしれない。
それでも、〈フライ〉とはつまり、子供を意味すると同時に、〈イカすぜ!〉との意味で使われてるのは間違いないようだ。
つまりぼくは、イカしてない、とディスられてるわけだ。
「フライじゃない、って、飛べるわけないでしょ!」
ようやく釣り針から解放されたぼくは、鮫にそう噛みついた。その声音があまりに強かったせいか、鮫が一瞬、怯んだように見えた。鮫も恐がることがあるのか‥。ちょっとかわいい。
「フライたちはみ〜んな飛びましたよ。よく来るんです、フライはこの森に。」
「つまり、ぼくとフライたちは同じ夢を共有してるってことなんですか?!」
「エチカくん、夢にこだわるの、そろそろ止めてみません? さっき、じぶんでもめんどくさいって。」
「ま〜ね。誰の夢かにこだわって疲れるくらいなら、おしゃべり鮫の誘いに乗って楽しんだ方が目覚めがいいかもしれないな。」
「そう来なくっちゃ!」
「じゃ、飛び方、教えてください。せっかくだから飛んでみたいですよ。」
「エチカくん、飛び方よりも、飛ぶときみが決めることだよ。あるいは、飛べるじぶんを認めることだ。そしたら飛び方は自ずと拓かれる。」
「飛べるじぶんを認める? 自ずと拓かれる???」
「しかしね、フライはそんなこと考えもしないんだよ。 なぜなら、飛ぶこととボディを分けてはいないからね。血の匂いとがぶりが同時なように。」
「また出た!同時!」
「そ。同時であることに気づくことが、飛ぶ鍵だよ、エチカくん。」
「もう!あなたと話してると、思考がコンフュージョンします!」
「下手に思考を使うからだよ、エチカくん。飛びたい気持ちにあわせて、ただ飛べばいいのさ〜♪」
「飛べばいい、と言ってもね、なかなか恐いんですよ。でも…あれか、もしも川に落っこっちゃったら、また記憶の中の何かに救出してもらえばいいのか!? さっきフィッシングキノに助けられたみたいに。」
「そうそう!記憶はそんな風にして使うといいんですよ、エチカくん。」
「幼少期のあんなムダのような繰り返しも意外と役に立つんだな。」
「その通りですエチカくん!ムダなんてひとつもないのですよ。」
「ふ〜む、そうなのかもな。これが夢でも夢じゃなくても?ぼくの夢でも誰の夢でも?」
「その通りですエチカくんっ!エンジョイッ✨」
::::::::つづく
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