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ソンテウからの空


ワット・ロンクン(ホワイト・テンプル)を見た後にホテルのそばにあるチェンライ・バスターミナルに戻ろうとした時のことである。

私はお土産屋さんを見て歩きながらタクシーかトゥクトゥク、どっちで帰るか?と散々悩んだ。何故ならトゥクトゥクはあのノーシートベルト且つノーガードの後部座席が恐ろしいことに加え、値段交渉がやや億劫だったからだ。タクシーはメーターがついていれば金額の交渉は必要ないが自ずと料金が割高になる。
結局行きと同じ路線バスでもどる事にした。


ワット・ロンクン(ホワイト・テンプル)
仏教国ならではの光景

何となくこの辺りだろうとバス停の目星をつけ歩き出す。すぐに屋根付きのバス停をみつけることができた。時刻表もなんにもないが屋根とベンチがあるので腰をかけて待つことに決めて、ペットボトルの水を飲んだ。私の全身は大量の汗でずぶ濡れに近い状態であり、またすぐに喉が渇くのだ。タイは雨季の真っ只中であり毎日数時間ほどのスコールがやってくる。とても暑くえらく湿度が高いのだ。

しばらくするとバス停のそばにある食堂のオーナーらしき年配の女性がやってきて、タイ語で話しかけてきた。

残念なことに理解が出来ないので、私が話せる数少ないタイ語「私は日本人です。タイ語はノーノー(ノーノーは手振り)」と伝える。すると「タイ語が話せないんだ」みたいな事を呟いてもどってしまった。

15分位経過した頃だろうか。私のことを大声で呼んでいるような気がしたので、振り向くと彼女が手で「道路の方を見て」と取れる合図を送っている。 慌てて道路を見ると青色のソンテウがバス停を過ぎて止まっており、ドライバーが助手席の窓を開けて何かを話しかけてくる。てっきり私は行きと同じような大型の路線バスが止まると思っていたので、少々面食らってしまった。

先ほどの女性がすかさず来てくれ運転手に声をかけると同時に私にタイ語で「どこまで行くの?」と尋ねてくる。何故か少し緊張をしながら「チェンライ、チェンライ・バスターミナル」と答えた。金額の確認もしてくれたようで「イー・シップハーバー(25バーツ)だよ」と教えてくれ、重ねるかのように「トゥエンティファイブバーツ」とドライバーが言った。

これに乗れば帰ることが出来ると分かった私は「コップンカー、サンキュー、ありがとう」と無意識に知ってる言葉を並べ彼女にワイ(タイの挨拶)をし乗車をした。そして荷台が改造された座席から手を振る。

笑顔で手を振り返す女性の姿が小さくなり、食堂に戻るのを確認をしてから何となく前方の運転席と座席にいるもう一人の若い男性乗客を眺めた。

ソンテウ

ソンテウのドライバーは容赦なくスピードをあげ、ハイウェイを飛ばしていく。外の景色はまるで水で流されているかのように一瞬で後方へ去っていってしまう。
荷台を改良した席からは空も良く見える。大きな雨雲と一緒に見える青空を目に焼き付けて帰ることにしよう。

ガタガタ激しく揺れる席で髪がボサボサになりながら、ふと私のようなタイ語が良く分からない観光客が時々あのバス停でバスを待つんだろうな…と思った。と同時に彼女の親切が本当にありがたかく心に沁みた。


チェンライ・バスターミナル

ささやかだが、旅は楽しいと感じる出来事であった。

帰国をしてから時々ソンテウから眺めた空を思い出す。
いつかあの青空に会いに行く日を願って私は今日も天を仰ぐ。

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