鉄道会社にジョブ型雇用は定着するのか
鉄道会社にもジョブ型雇用の波が
こんにちは。
先日、JR東日本が2024年度採用よりジョブ型雇用をスタートするとのプレスを発表しました。鉄道会社に身を置いていた個人的な感覚として、JR東日本がジョブ型をスタートするというニュースには驚きがありましたので、そのことについて書いてみようと思います。
他の鉄道会社に先立ってこうした取り組みを先陣を切って行うのはコロナ禍を経た危機感の表れでしょうか、様々なハードルがあると思いますが、個人的には良い方向性であると感じています。
https://www.jreast.co.jp/press/2022/20230301_ho01.pdf
ジョブ型雇用=サラリーマン型雇用との決別
ジョブ型雇用についての詳しい説明は省略しますが、ジョブ型採用とは企業の中で必要な職務に応じ、その職務に適した人材を採用するという方式です。これまでの「人に仕事を充てる」方式から「仕事に人を充てる」方式への変換ということで、働く人間は職務に応じた処遇を得ることとなります。
昨今のコロナ禍後のDX化の更なる推進や業務変革の渦中において、専門人材については各社採用競争は激化する一方であり、こうした方向性もやむなしという見方も浸透してきているでしょうか。
ただ、ジョブ型雇用というのは当然ながら成果主義型報酬を採用することとなり、旧来の日本型大企業の中でも特に色濃く年功序列の風土が根付いている鉄道会社において、既存の評価制度との兼ね合いをいかにして図るのかは非常に気になっています。ここで身を切る改革を出来ないのであれば、ジョブ型雇用という流行りの言葉には乗ってみたが成果が伴わず、という結果に落ち着いてしまうでしょう。
そもそも、鉄道会社は新卒一括採用の文化であり、基本的には個人の能力で評価面の差がつくことはほとんど無いと言って良い環境です。現場単位に目を当てれば、新卒2〜3年目と勤続20年以上のベテランが同じ仕事、という光景もままありました。電車の運行に則って仕事をしている以上、個人の能力の優劣はほとんど業務のアウトプットとしては表れない、というのが現実でした。
また、私が在職していた鉄道会社では試験制度がありましたが、受験には年次の制限があり、評価項目についても明示されているわけではなく完全なるブラックボックスと、「どういう能力を有していればこの報酬」という基準が極めて不明確な評価制度となっていました。また、職務に応じて昇給幅には違いはありましたが、差があっても数千円程度であり、全員に年次に応じた定期昇給が実施され、期末手当についても一律で同月数が支給されていたため、見方によっては「頑張っても頑張らなくても同じ」環境であると言えます。
こうした安定的な収入構造かつ他社の参入が無い独占状態の収益構造で安定志向の学生から人気を集めていたのが多くの鉄道会社の評価制度でした。ただ、この安定した構造は「どれほど優秀であっても評価面で抜きん出ることは出来ない」という弊害を生んでおり、これは総合職層においても同様でした。復職制度の導入の背景も含め、こうした硬直した人事制度に嫌気が差して離職している層が一定数いたことが今回ジョブ型雇用の導入に至った経緯であると推測します。旧来の評価制度は仕事はそこそこに生活を充実させたいという社員にとっては良い環境でしたが、キャリアを築くことを考えたい社員にとっては致命的な障壁でもあったと考えられます。
社内にハレーションを起こす覚悟があるか
今回ジョブ型雇用が導入されるのは今後の注力分野という表記ですが、高いスキル・専門性を持つ人材をこれまでと同じような硬直した評価制度で扱っては定着は見込めません。そんな人材はそもそも引く手数多だからです。
既存の社員の中にも専門性を磨きたい、今後の注力分野で働きたいと考えて入社をしている層も数多く存在すると思いますが、そうした社員が旧来の評価制度の枠組みを飛び越えることができない(新卒や中途人材でしか特定領域に携われない)のであれば、ここでもハレーションが起きる可能性は大いにあります。
また、現在の社会における人材の流動性を考えても、今後本体採用の(ジョブ型採用の枠でない)社員に対してもある程度成果主義に基づいた評価制度への切り替えを検討しなければ人材流出は止まらないかと思います。
しかし、現在のマネジメント層は年功序列で職務に就いている層が大半であり、「自分の職務としてマネジメントを行い、その成果が報酬に直結する」という観点をどこまで浸透させられるかは非常に困難な道のりであると推察します。
時間通りに出社し、ミスなく仕事を終えていればある程度の安定収入が約束されるー
そうしたある意味これまで守られ続けていた環境がついに激変の波に晒されています。典型的な日本型大企業である鉄道会社がどのようにジョブ型雇用と付き合っていくのか、はたまた流行りに乗ろうとしたが形骸化していくのか、注視していければと思います。
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