見出し画像

牛角で学んだこと

みなさんこんにちは。
今から20年以上前の話ですが、私が21歳の時に飲食店で初めて「店長」という職位を与えられました。当時勤めていた会社が、埼玉県内で焼肉チェーン「牛角」のフランチャイズ権を獲得し、新規出店に伴う異動でした。当時の牛角はまさに超成長期で年間100店舗近くを出店していました。そしてその殆どの店舗が月商1,000万越えというまさに「偉業」を成し遂げていたのです。牛角の創業者は西山知義さんという方で、飲食業界ではとても有名な方なのでご存知の方も多いのではないでしょうか?

牛角創業の想いとしては、今までにない焼肉屋を作りたいというものでした。当時のチェーン店は「安楽亭」と「叙々苑」くらいで、あとは個人店。しかも高いか安いかのどちらかで、20~30代向けが行きたくなるようなお洒落な雰囲気で、リーズナブルな客単3,000円くらいの店が無かった。なので絶対当たると確信して、東京の三軒茶屋に牛角の前身となる「焼肉市場七輪」を1996年にオープンさせました。しかしながら開店当初は毎日閑古鳥が鳴いているような状態で、クレームの嵐だったようです。このままではまずい。そう思った西山さんはある施策を打ちます。それは、「クレームを言ってくれたら300円払います」というものでした。お店に不満を感じていても大抵の人はそれを口に出さずに二度と来なくなるだけ。それなら顧客の声を聞いて徹底的に改善しようという考えです。そしてお客様から頂戴したご意見はノートに書き留め、正の字が書けるまでになったものから順番に改善していったそうです。そこから店の業績が右肩上がりに成長し、多店舗化に到るようになりました。店舗数が300店舗を超えても、店長会やフランチャイズの集まりで西山さんは必ずこの話をされていました。原点を忘れてはいけないと。ちなみに牛角という屋号には「牛の角をアンテナに見立てて、お客様からの情報を素早くキャッチする」という意味が込められています。

当時、そんな勢いがあった牛角でしたが、初めて店長を任された私は行き詰まっていました。オープンから店舗の業績は絶好調!17時〜24時の営業時間で月商は1,300万円、坪売上ランキングでロードサイド店のトップ20に入るところまでいきました。私はどうしても結果が残したくて店長になってからから3ヶ月間は1日の休みも取らずに働き続けました。しかしながら、チーム作りがなかなかうまくいかない、メンバーをまとめられないという事態に陥ってしまったのです。当時の店舗は社員は店長の私だけですが、約20名のアルバイトスタッフがいました。そしてその殆どの方が私より年上の方だったのです。当時の私は怖いもの知らずで自信も持っていました。(笑)お店のためにはこうするのが正しい!という自分の考えをアルバイトに押し付けてしまっていたのです。当然そんな訳のわからない若造の話をみんなが聞くはずもなく、店舗は崩壊寸前でした。

そんな私に転機が訪れます。オープニングでお世話になっていたAさんという本部のトレーナーの方からこうアドバイスをいただきました。「パートナーズフォーラムに参加すれば、良いチーム作りができるよ。」
牛角の事業会社であるレインズインターナショナル(以下レインズ)は「感動創造企業」という理念を掲げていました。この理念実現の根幹の一つでもあったのが「パートナーズフォーラム」(以下フォーラム)というイベントでした。フォーラムは1年間で最も成果を上げた店舗のスタッフが成果創出までの活動内容を発表する取り組みです。
頑張ったスタッフたちを賞賛するとともに、共有された成功事例を自店に取り込むことで、よりよい店舗が醸成される店舗育成の仕組みです。主役はパートナー(アルバイト)です。店長や社員はプレゼンテーションの壇上に立つことはありません。パートナー達のアイディアや主体的な行動とその成果が審査のポイントです。壇上に上がれるのは当時300店舗の中で僅か6店舗。狭き門でしたが、ここにチャレンジすること自体に意味があるとAさんは教えてくれました。

私は早速パートナーミーティングを開き、パートナー達の前ではじめて頭を下げました。そして、このお店をもっと良くしたいということを皆に伝えました。そうすると、パートナーからも次々にお店に対する想いを聞くことができたのです。みんな方法は違っても想いは同じだった。そのことに気付かされました。それから今までのトップダウンをやめて、店舗内で3つのチームを作りました。法人営業のチーム(企業訪問や、駅前でビラ配りなど)、サービスチーム(店内でのおすすめ、POP作成など)、アンケートチーム(顧客アンケートの促進、集計、改善)そしてそれぞれが主体的に動いていくとこでお店に「熱」が出てきました。パートナーが楽しそうに仕事をするようになりました。私にとっては非常に大きな気づきでした。
結果、フォーラムの壇上は叶いませんでしたが、皆でプレゼン大会を見に行って、悔しい思いを語り合いながら意識を高めていくことができたことが、私の飲食人生の中でも大きな刺激となりました。

その後、パートナーズフォーラムはレインズ業態の枠を超えて、「居酒屋甲子園」等、様々なプロジェクトの原点になっていったとも言われています。私の背中を押してくれたAさんは30代の若さで亡くなってしまいました。本当に仕事一筋の方で、人の可能性を信じて引き出すということがとても得意な方でした。当時21歳で店長をすることになった私にも「臆することなく、自信を持ってやればいい」とアドバイスをくれました。私自身Aさんから沢山の刺激をいただいたことで、自分に関わる人達にももっと、仕事に対する楽しさや喜びを感じて欲しいと考えるようになったのです。その想いから、今関わっている業態でも全店キャンペーンを立ち上げました。
未来は現状の延長線上ではなく、可能性を信じることで創られると私は思っています。

時は流れ、2024年の今、牛角を運営するレインズはコロワイドの傘下となっていますが、国内での店舗数は約580店舗で焼肉チェーンのトップを維持しています。物語コーポレーションの展開する「焼肉きんぐ」などの新興勢力に押され気味ではありますが、今もAさんのような、レインズのブランドが大好きで、有名外食ブランドとしての誇りを持っている方が事業を支えているのではないかと想像しています。そして今日の外食経営者の中にもレインズや創業時のコンサル企業であったベンチャーリンクの出身者が数多くいらっしゃいます。その皆さんは西山さんの「感動想像企業」という理念に共鳴されていた方々だと思っています。そういった意味では牛角が今の外食業界の大きな一つの基盤になっていると感じています。

「働き方」がクローズアップされる現代ですが「働く意味」についても真剣に考えることで一人ひとりが豊かな人生を過ごせると信じています。私は牛角に関わってそれを学びました。なのでその情熱を伝え続けることが、私が大変お世話になった偉大な創業者の西山さん、そして心から牛角を愛し今は天国にいるAさんへの恩返しだと思っています。

読んでいただきありがとうございます。

良い週末をお過ごしください。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?