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【読書感想文】星野富弘「風の旅」

🌲はじめに

口に筆をくわえて絵を描いて、詩を書く人を知ったのは、もうだいぶ昔の話。

人生の先輩であり、同僚として働いたAさんが退職されるに当たり、この本を私にくださった。

父の病が進み余命宣告を受けた頃で、落ち込む私を見て気にかけてくださったのだろうと思う。
さまざまな出会いには必ず別れがある。いずれ来る父との別れ、先輩との別れがあって、この本との出会いがある。

それまでは、口で絵を描く画家として、名前を知っている程度で深く考えることはなかった。
初めて、本を手に取りページをめくると、涙が止まらないほど感動したことを覚えている。

今回星野富弘さんが逝去されたと聞き、何十年の時を経て、私はまた本を開くことにした。

読み進めると、当時の気持ちが思い出され、やわらかくなる自分の心がわかった。

🌲どうして立ち直れたのか

星野さんは、体育教師として働き出して2か月後、授業中の事故で脊髄損傷となり、首から上以外は動かなくなった。
ふるさとの病院で9年間の入院を経て、自宅に戻る。

この9年間はとてつもなく長い時間だ。けれど、立ち直るまでにはどうしてもそれくらいの時間が必要だったのだろう。

人は、死を受け入れるまでに5段階の過程を踏むと言われている。否認・孤立、怒り、取り引き、抑うつ、受容の流れ。これは、困難な状況に立たされたときも同じだと思う。

本を読みながら、Aさんもクリスチャンだったと思い出した。

星野さんが自分を受容し、表現者として活動を続けられたのはなぜだったのか、そこにはたくさんの「愛」があった。

母の愛、恋人・妻の愛、家族の愛、友の愛(友情)、郷土愛、医療従事者の愛、神への愛(信仰心)、そして自己愛。

ありのままの自分を受け入れるまでの道のりは、人によって差があるものだ。星野さんはたくさんの愛により復活されたと思っている。

「もしかしたら、失うということと、与えられるということとは、となり同士なのかもしれません。」

🌲花と詩

「からだのどこかが人の不幸を笑っている」

星野さんは、人へのひがみ、人を許せない苦しみを、絵を描いている時だけは忘れられると述べている。

そして、生きていく中での葛藤や、母親や家族、友人、ふるさとの風景、そこに暮らす人々に対しての感謝を思い起こし、草花を通して絵と詩で表現できる幸せを感じるようになる。

お見舞いの花、窓から見える花、空、雲…
ベッドの上、ときには電動車椅子に乗って見た風景。

元気な頃には、目にも留めなかったものに対して時にはユニークな視点で表現する。
複雑な思いを抱えながらも、決して悲観的ではない。

「当然のことが当然でなくなった時、でもそのことによって文字のすばらしさ、それを綴れることの喜び、そして絵が描けることのすばらしさを教えられました。

本を出版される頃には字を書く技術も上達し、事故前と後の筆跡が似ていると書かれていた。驚きとともに人間の可能性を感じ、勇気が出る。

手足が動かない、体が動かない。無は想像力を掻き立てる。創るという作業は研ぎ澄まされた五感で感じとったものなんだろう。

心は常に変容し、現実に追いつかないこともある。現実だけを見つめ過ぎると、過酷な状況ばかりに気を取られてしまう。現実とこれからの可能性はバランスよく共存していくのがちょうどよい。

🌲心に残った作品

ひとつの作品を仕上げるのに、どれだけの時間を費やしたのか。とても口に筆をくわえて描いた絵とは思えない繊細さがある。

どれが1番いいなんてことは、おこがましくて言えない。

全ての作品の言葉の端々には、感謝の気持ちを素直に表している。

特に母への深い思いが伝わる詩は心を打つ。

神様が たった一度だけ
この腕を動かして下さるとしたら
母の肩をたたかせてもらおう
風に揺れる
ぺんぺん草の実を見ていたら
そんな日が
本当に来るような気がした

人は誰もが、大なり小なり自分の人生について後悔を抱いている。

その負を持つ自分を認めながらも、正を探して生きている。

よろこびが集ったよりも
悲しみが集った方が
しあわせに近いような気がする

強いものが集ったよりも
弱いものが集った方が
真実に近いような気がする

しあわせが集ったよりも
ふしあわせが集った方が
愛に近いような気がする

🌲これから

久しぶりに星野富弘さんの作品に触れた。これは私にとって大切な本だ。

読み終えて、星野富弘「愛、深き淵より。」を読みたいと思った。

相田みつをさん、金子みすゞさんの作品もまた読み返したいと思っている。

いわさきちひろの画集も確かあったはず。

山頭火や放哉の俳句にも、昔から何か惹かれるものがある。

読みたいものはさまざまだ。

読みたいものを読み、見たいものを見る。
自分の中で棚卸しをして、振り返る。
この作業は結構好きだ。

だからまた、少しずつ読書に触れていこうと決めた。


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