【掌編小説】 とある小説家志望の私小説


最初は、絵が好きだった。
フルカラーの漫画を描いてみて、大変だったから、小説を書いた。

こっちの方があってた。漢字のかきとりも好きだったし。

文字が好きだ。言葉が好きだ。

人を傷つけるのに、救うところも好きだ。

だけど、小説家になるつもりはなかった。

ある小説に出会った。

衝撃。

こんな小説を書きたいと思った。

でも、書き方がわからない。

だれも、教えてくれない。

とりあえず、あるもので、書くことにした。

ルーズリーフに、ひたすら小説を書く。

読んでくれる人はいた。

なぜか、感想は教えてくれなかったけど。


学校の勉強をしつづけた。

いつからか、小説は書かなくなった。

小説家になりたかったが、別分野の道を進んだ。

きっと、小説家になれない。

そんなふうに思っていたのに、ルーズリーフに小説を書いた。

3つのファイルに、3作品の小説ができた。

どこにも、出さなかった。

一度目の筆を折った。


大人になった。

二次創作に手を出した。でも、これは私が面白いから、評価されてるわけじゃない。

二度目の筆を折った。


仕事をはじめて、ようやく長編小説が書けるようになり、うれしい気持ちになった。

小説家になるために、某新中古書店で小説指南書を買っていた。

それを読んで、書いてみた。

ちゃんと応募要項を満たさないと、読んでもらえないらしい。ちゃんと守った。

一次選考に通った。応募された数の25%にはいった。

うれしさよりも、驚きが勝った。

もしかしたら、いけるかもしれないなんて、夢見た。

たくさん出した。どこにも相手にされなかった。

二年後、小説を書くのが大嫌いになった。

評価シートを送ってくれるところに出した。

一年目、二年目、まるで同じ評価。成長していない。

小説を書くのをやめた。もう、これで三度目だ。



もう、やめよう。

そんなとき、noteに出会った。

みんな楽しそうに書いている。

いいなあ。私、楽しくないよ。

少し、ヘコんだ。

楽しい記事に出会った。

なんて、面白いんだろう。

こんなに、面白い人のいる場に行きたい。

いいのかな。

こんなに書くのが嫌いになった私が、小説を書いていいのかな。

仕事もうまくいってない。

小説を書くのも嫌だ。

だけど、書きたい。

息抜きが必要だ。

半年、つづけられるかどうか悩んで、noteをすることに決めた。


楽しい。

楽しい、楽しい、楽しい。

書くのが楽しい。

こんなに書くことが楽しいなんて、はじめてだ。

うれしい。

noteでの交流はスキしかしてなかったけど、とても楽しかった。

ああ、楽しい。

もしかすると、今なら、私の小説の欠点に気づくかも。

最後に書いた小説の原稿をなにげなく開き、1ページ目を読む。

叫んだ。

画面上あったのは、人間でないものが話している小説。

人間が書けてない。

こんなに冷たい小説を書いていたなんて。

私は倒れた。


何日か、何十日かすぎた。

私は、私の欠点に気づいた。

だれの力も借りずに、たどりついてしまった。

たしかに、落ちるわ。

あんなに冷たい人間たちが出てくるのは、ダメだ。

勉強しなおそう。

最初からやりなおそう。

時間がかかるかもしれないけど、やってみようと思った。


いろいろあった。

あまり多くはないけど、丁寧に小説を書いた。

今まで、とても雑に書いてたのが、よくわかり、反省した。

まだまだ、勉強したいことは、いっぱいだ。

プロットが書けないし。

推敲方法も確立してないし。

会話もリズム感が足りてないし。

言葉の省略も苦手だし。

そもそも、描写力がないし。

日本語文法も苦手だし。

長編小説を書く時間もとれないし。

メンタルに左右されるし。

仕事も大変だし。

将来は不安だし。

思いつめると、きりがないけど。

ここまで、来たのにやめるなんて、もったいなくないかな?

過去の私がそう答える。

そうだね。ちょっとずつ、がんばるよ。

いつになるか、わからないけど、小説家になるから、待っててくれるかな。

過去の私がうなずいてくれる。

私はそれだけで、やめようとする気持ちを捨てずに済む。


私は小説家になるのが、夢です。

この言葉を口にする重みを、私は噛みしめる。

夢を夢で終わらせないよう。

今日も書く。

いつか、私の長編小説を読んで、面白かったよと言って、うれしそうに笑う読者のために。