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『アダルトグッズ店が僕の青春だった。 』その⑤「ヤ○チンのオッサンが教えてくれたこと」


そういえば言ってなかった。
実は某ネット掲示板にてアダルトグッズ店で働いていたことについて語ったことがある。



やはりみんな興味があるのがさまざまな質問をしてくれた。
質問に答えていくなかで、当時の記憶が甦り、一種のトランス状態になった。
面白いことに思い返すのは、当時はさして気にも留めなかったことばかりだ。
休憩室での黄昏、帰り道に歩いた夜の歓楽街、煌めくネオン、近くにあった吉野家。

あの頃は日常の風景にしか過ぎなかったわけだが、あれからいくつか歳を取った俺にとっては、もう失われた光景である。

例えばこんなこともあった。
バイト終わりに、俺は近くにあった吉野家で夜飯を食べていた。
一心不乱に飯を胃に掻き込んでいると、目の前に座っていた女性と目があった。

若干の気まずさを感じ飯を食べるスピードを抑えた。
それでも女性はまだ俺の方を見ていた。
なんなんだ?と思っていると、女性が俺の近くにやってきてカタコトの日本語で「一緒に食べてもいい?」と聞いてきた。

断る理由もなく俺は了承した。
話をしてみると、韓国からの留学生だということがわかった。
2人で飯を食い終わり、外に出ると雨が降っていた。
傘を持っていなかった俺たち2人は、コンビニの喫煙所で雨宿りをした。
初対面なのに以前からの知り合いのようにスムーズに会話ができていたのが不思議である。

彼女は銀杏ボーイズが好きだった。
偶然にも銀杏ボーイズを知っていた俺は、拙い知識で知っていることを話すと彼女はとても喜んでくれた。
周りに銀杏ボーイズを知っているやつは、俺らの世代にはほとんどいなかったからだろう。

特に抵抗もなく俺たちは連絡先を交換した。
そして数日後、俺はスマホを破損させた。
バックアップを取ってなくって、彼女の連絡先は分からなくなった。

何かが起きたわけではない。
恋に発展したわけでもない。

そんなどうでもいいことを俺はネット掲示板で質問に答えていくなかで、思い出していた。

あの夜に語った銀杏ボーイズ。「援助交際」て曲が好き。



・イケイケヤリ○ンの田口さん。


アダルトグッズ店でバイトしている時に、よくシフトが被ったのが以前紹介した池田さん(仮名)と、そして今回紹介する田口さん(仮名)だった。

田口さんの第一印象としては若々しいオッサンて感じの人だった。
服装もどちらかと言えば若めで、髪型もツーブロックのイケてる感じだった。
それなのに若作りしているような痛々しさも感じられず、嫌味のない絶妙なバランスを保った人だった。

だけど印象としてはその程度のものであって、まぁどこにでもいるような普通のオッサンとしか思っていなかった。

田口さんが異常であることに気づくのにさして時間はかからなかった。
バイトを始めて間もない頃、田口さんは突然ズボンの尻ポケットから菓子を取り出して、レジでボリボリと食べ出した。
仕事中に菓子を食べるのはもちろん禁止されていた。例外としてドリンクを飲むことは許されていたが。
俺は「仕事中なのになんで?」と思いながら、田口さんを見つめていると、田口さんは俺に余った菓子を差し出した。

俺は訳もわからず手渡された菓子を食べた。
すると、副店長がレジの中に入ってきた。
俺はヤバい!と思い田口さんを見ると、田口さんは脇に置いてあったペットボトルの水を飲み始め、口に残ってある菓子を胃に流して混んでいた。
そして俺の方を見てニヤリと笑った。

さして大したことではないような気もするが、田口さんの自身の犯行を華麗に隠蔽する技術を目の当たりにして、俺はなんとなくだがこの人にアウトローな匂いを感じた。

そしてその考えはほとんど当たっていた。
田口さんと仲良くなっていくなかで、俺は彼がいかにアタオカな人間なのかを知ることになる。
彼の話はどれもイカれていた。


田口さんはよくビスコを食べていた。


田口さんは経験人数三桁越えのヤリチンで、自身の不貞により離婚し、自分で風俗店を立ち上げてみるも半年で店が潰れ、若い頃はクスリとギャンブルにハマって借金も三桁あり、そしていまでは若い巨乳の看護師と付き合っている数え役満みたいなひとだった。

田口さんは仕事は適当ではあったけども、俺に優しく仕事を教えてくれて、困った時には助けてくれる頼りになるところもあった。
それに彼の話は本当に面白くて、まだ世間をよく知らない若い俺にとっては新鮮だった。
だからどんなダメ人間であろうとも、俺は田口さんという人間が好きだった。

田口さんは仕事以外にも色んなことを俺に教えてくれた。

彼はいうまでもなく女が好きで、話すことの大半も女についてであった。
若い頃、公衆電話で彼女と電話しながら、女をナンパしてそのままホテルで3Pしたり、当時付き合っていた彼女から包丁で刺されそうになったり、胸の大きさが左右で違うセフレの話だったり…彼のヤリチン歴はすごかった。
どれもクズでどうしようもないが、それでも面白く感じてしまうのが田口さんの魅力だった。

他にもナンパについて。
彼のオススメのナンパは信号待ちの女性が運転してる車に突然乗り込むというとんでもない手法だった。
彼曰く、大抵の女性はドン引きするらしいが、中には「マジウケるww」みたいな反応をする女もいるとか。
そういった女は100%ヤレると豪語していた。
もちろん、俺は実践しなかった。


大阪の有名なナンパスポット。ひっかけ橋。


もちろん女の話だけではない。
彼は初バイトで緊張していた俺にとある話をしてくれた。
田口さんは若い頃、市の水道管を設置するために穴を掘るというバイトをしていたらしい。
休憩中、暇だった彼は小石を水道管にぶつけるというガキみたいな遊びをしていた。
すると水道管に亀裂が入ったのか、突然爆発した。

勢いよく天に向けて吹き出す大量の水を見て、田口さんは一瞬目の前が真っ白になったと語っていた。
本来ならば、弁償代として100万円掛かったらしいが、払わずに済んだという。
その理由は彼にもよく分からなかった。

「だからさ」とこの話の終わりに彼は言った。
「仕事でどんなミスしても、タマまでは取られんよ」


ありふれた言葉だけども、様々な修羅場を乗りこてきた田口さんが言うと重みがある。
とんでもないクズ人間だけども優しい彼に、俺は色んなことを学んだものだ。

今何をしているかしらないが、シャバにいてくれたら嬉しい。
本気で心の底からそう思う。

(つづく)

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