ADHDの理転再受験 【ADHDは荒野を目指す】
1-12.
21歳の春、僕は理系大学を再受験をすることを決意しました。
理系を選択したのは、必然的なことです。
中高生時代の僕は、掛け値なしの天才である兄や、灘校生というとんでもないエリート達に囲まれてしまったこともあり、劣等感を膨らませ、勉強のことは出来るだけ意識をしないようにしてしまっていました。
だから、文学部に進んだのも、文学を学びたいからでは決してない。ただ、現実逃避の手段としての「読書好き」であったお陰で、国語に関してのみそれなりの点が取れた。だから、それを最大限活かせる学部として、文学部を選択したに過ぎないのです。
その結果、大学の授業には一切興味を抱けず、結果中退してしまった。
では、自分は一体何を勉強したいのか、と改めて考え直してみます。
そこで思い出されるのは、人生で唯一他人から褒められていた時代、小学生のこと。そしてその時代の僕が最も得意とし、最も自信を持っていた教科が、算数・数学だったのです。
何せ、算数の配点が異様に高い灘中学入試を突破する――補欠ですが――だけの算数能力に加え、公文式の英才教育で高校分野まで終了していた、という実績を残しているのです。
自分は本来理系人間なんだと、僕はいつしか思うようになっていたのです。
さらに言えば、仮に大学再受験に成功し、卒業出来たとしても、それが文系学部であった場合、その時点で周囲より数歳年上の僕に、まともな就職先があるのだろうか、と僕は思うのです。
再受験をするならば、何らかの技術が身につく、理系学部でなければいけないのではないか。
将来のことなんて殆ど考えられない、幼い僕でも、その程度のことは考えることが出来ました。
以上のことから、僕が理系学部を志望するのは、必然的なことでした。
しかし、幾ら算数・数学が出来たといっても、それは小学生時代のこと。公文式で高校分野まで終わらせたといっても、それはあくまでも代数分野のみ。計算方法を多少習得程度にすぎません。
その後十年近くの間、その知識に上乗せされたものは殆どなく、むしろ忘却によってかなり能力は失われている。
ましてや、数学以外の理系教科に関しては、基礎的な知識すら殆どない有様。
そんな僕が、理系での大学受験を目指す。
相当に無謀な試みです。
しかも、障害はそれだけではありません。
まず何より、予算の問題です。
親から金銭の支援の約束を取り付けはしましたが、それは大学入学後の話です。合格までの間は、それまで同様、自力でお金を稼がなければなりません。
そうなると自動的に、予備校に通ったり、家庭教師をつけたり、選択肢は、自動的になくなってしまうのです。
さらに、志望校も制限されます。親から提示された金額的に、私立大学に通うのはまず不可能でしょう。
つまり僕は、アルバイトで生活費を稼ぎながら、完全なる独力で、国公立大学の理系学部に合格しなければならないのです。
そして何より大きな問題は、言うまでもなく、僕がADHDであるということ。
中高時代、一時間とてまともに授業を聞けたこともなければ、一ページとてまともにノートを書けたこともありません。
いや、小学生時代だって同じこと。学校の授業は聞く必要のないレベルの物だったので仕方がないとはいえ、塾での授業だってまるで聞くことが出来ず、幾つかの塾をやめたあと、「講義形式の授業はなく、講師がするのは質問受けのみ」という形式の塾に巡り合えたお陰で、どうにか学力を伸ばすことが出来たのです。
最早、無謀と言うレベルを超えています。
それでも、翌春僕は、京都大学に合格するのです。
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