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【医師コラム】検診は大事 早期発見の重要性

 私が大学生のときにお付き合いしていた女性の話である。
 彼女は、自分の第一希望の就職試験を見事突破し、内定を勝ち得て、非常に喜んでいた。私もそれを聞いて一緒に喜んだのだが、就職前の健康診断の結果を見て顔色が変わった。
「乳腺エコー」がC判定だったのだ。Cは「期間を空けて医療機関で再検査を受けましょう」という場合が多い。再検査とは、通常、「できるだけ早く精密検査が必要」という指摘ではない。
しかしながら、採用試験募集要項に「健康診断で異常なしであること」という一項が明示されていたので、「C判定」があった彼女の就職内定は保留となってしまった。
 乳腺エコーでひっかかる病気には乳腺症や線維腺腫など良性の乳腺の病気はあるが、真っ先に浮かんでくるのは、乳がんである。しかし、当時乳がんは、40代くらいから発症するのではないのかと思われていたため、22歳の女性に乳がんの可能性が少ないと思えた。
それでも彼女は、すぐに大学病院で精密検査を受けることにした。実家から出て、一人暮らしをしていたため、不安だろうと思い、私が彼女の検査に付き添った。医師の説明では,若い女性には乳がんはとても少ないのであるが、遺伝性乳がんもあるとのことだった。でも、若い女性は乳腺が発達しているので、それでひっかかったのかもしれないとも言われたので、結果が出るまでドキドキして過ごした。
期待もむなしく、2週間後聞いた結果は、乳がんだということだった。ただ、本人の自覚症状があっての受診ではなく、たまたま就職試験で健康診断があって、そこで見つかったものだったので、ステージ1の早期発見であった。
彼女の年齢で、乳腺エコーなど、ほぼ受けることはないだろう。医師、看護師、検査技師さんは、「乳がんは日本人では11人に1人いるくらい多い病気だが、早期発見で助かる病気だから、就職前の健診で発見されて、命を救われた。前向きに治療に頑張ろう。」と言ってくれた。就職をあきらめることになり、彼女の落胆ぶりは激しかったが、ステージ1だと治療すれば生存率は98%であるが、ステージ4まで進行していたなら、生存率は20%ぐらいになってしまう。それに血液やリンパを通じて骨や肺、肝臓に転移してしまうことも考えられるから、早期発見できてよかったじゃないかと、私は必死で彼女を慰めた。
彼女は、乳房温存療法を勧められ,定期的な通院をして治療することとなった。ステージが進んでいたなら、乳房全切除術を余儀なくされたかもしれず、これから結婚、妊娠、出産を考える若い女性にとっては、それはまさしく厳しい状態。私はできる限り、通院に付き添い、彼女の心も支えた。
彼女は何度も心が折れかけたが、見事病気を克服し、気持ちも立て直し、地元に帰り就職して前向きに今も生きている。自分は大丈夫と過信せず、臨床検査による健康管理は大事なものだと理解していただきたいものである。

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