政党が前に出たらいけないのか

「政党ばかりが目立つな」との声

 以前からですが、公職選挙で幅広い市民からの支持を得たい陣営に対し、内外から「政党色を薄くしろ」との(もしくはそれに近い)「助言」がしばしば上がります。

 私は、以前からこの種の発言に強烈な違和感がありました。政党というのは市民によって構成された結社であり…というか市民のうち政治に対する意識の強い人の集まりが政党です。幅広い人々の結集を呼び掛ける中で、政党もその一角であるはずです。政党だからと言って、特定の市民の活動を抑制するのは、矛盾ではないか、と思うのです。
 一方で、私自身、何度も選挙に携わっての「感覚」としては、これらの助言はわりと有効な世間智である、と思わなくもないです。やっぱり政党色が強いと、その政党を支持しない人は参加を躊躇するのではないか。
 今回の都知事選挙でも、連合や国民民主党が蓮舫支持に回らなかった(連合に至っては小池支持を打ち出した)原因の一つに、共産党が積極的に応援していることが指摘されています。
 蓮舫氏自身は、共産党に近い政策を出したわけではなく、共産党のほうが蓮舫支持で前のめりな印象ですが、それだけに、「本人の政策」でなく「政党が前に出ること」の効果を測るテストケースだと思います。

共産党が出したビラ。ここに書いてある政策は、蓮舫の政策にしか見えないだろう

 なぜこうした矛盾が起きるのか、政党は、選対はどうすればいいのか、を少し考えてみました。私自身が整理できてない中ではなはだ僭越ですが、二つほど、思いつく点を指摘したいと思います。 

指摘1:非組織の市民が参加する仕組みがない

 一つは、「政党が前面に出ること」自体に問題があるのではなく、そもそも「非組織の市民が参加するチャンネルがない」ことが問題で、政党が前面に出ることで、それが強く意識されるのではないか、と思います。
 小池百合子氏が最初に当選した都知事選は、その前の選挙で宇都宮陣営にいたスタッフ多数が小池選対に流れていることが指摘されていました。これらの人たちは、全く個人の判断で、個人として選対に参加していたと思われます。そしてそれを受け入れる素地が、小池選対にはありました。
 当時の小池氏は非政党を出してました。これとは別に、政党色の強い別の例も挙げましょう。2022年の参議院東京選挙区、共産党の山添拓氏の選挙です。がっつり共産党の公認候補ですが、インターネットで呼びかけて若いボランティアが続々参加し、実働部隊として大活躍しました。結果、無党派層からの得票は、山添氏が一番多く取っています。

 選対への参加は、作戦会議に出席するのが一番ですが、そうでなくても、選対で必要な戦力と認められ、何か役割を与えられることで、「自分が支える候補者」と感じます。そして、仮に自分自身は参加しなくても、組織でない多くの人に支えられているという選対の性格を、有権者は敏感に感じ取るものです。
 現在の都知事選挙で、蓮舫選対は、ボランティアをどのように募集しているでしょうか。ふらっと立ち寄った見ず知らずの人が参加できるようになっているでしょうか。今のところ(6月16日)、インターネット上では街頭演説の案内しかないようです。たぶん、これからなのだと思います。
追記:
 6月21日に、誰でも参加できるボランティアセンター開設のお知らせがありました。

指摘2:政党による「引き回し」への忌避感(共産党に限る)

 もう一つ、これは日本共産党に限ったことですが、同党の、外部団体の運営に介入し引き回す方針が、忌避感を招いているのではないかと思います。
 例えば、原水禁運動とか、脱原発の運動とか、その他の市民運動に対し「共産党が介入している」「共産党が組織拡大の足場にしている」と批判されています。私の経験に照らしても、真実なのだろうと思われます。
 過去の話ですが、東大教養学部自治会に対する共産党の介入の実態が、関係者のインタビューで、最近、生々しく語られました。共産党から反論が一切ありませんが、事実を詳細に摘示されて、認めざるを得ないのでしょう。

 今回の都知事選では、蓮舫氏は一定の支持基盤を持つ政治家であり、また古巣の立憲民主党も力がありますから、共産党によって「引き回される」心配は杞憂でしょう。それでも、共産党に対する警戒感・忌避感は、簡単には消えないと思います。
 追記:
 主導権を握るまではいかなくても、事実上、共産党が、選挙運動・候補者と自党を一体化させる事例が報告されています。

 共産党の募金ビラです。
 共産党は蓮舫氏を応援していますから、共産党に対する募金が蓮舫氏のために使われることは、募金者は許容するでしょう。
 一方、蓮舫氏に対するつもりの募金が、共産党の党活動に使われることは、募金者の意図と反するかもしれません。
 共産党を支持しない人も蓮舫氏を応援している、という「当たり前の事実」を理解していれば、この紛らわしいビラは出てきません。いま一度、蓮舫陣営が目指している選挙の理想像に、思いを寄せてほしいと思います。


 以上、2点の指摘は、私の狭い経験に基づく感覚にすぎません。間違ってるかもしれないし、ほかの原因があるかもしれません。ご批判やご指摘は喜んで頂きたいと思います。


さっそくご意見ありがとうございます

 枝野幸男氏が立憲民主党を設立した例を踏まえ「選対への参加でなくても、行動が有権者の気持ちと合致していれば広範な支持は得られる」とのご指摘、なるほどと思いました。いま、蓮舫氏の演説には多くの人が詰めかけているそうです。当時の「枝野立て」と同じ熱気を、「#蓮舫と次の東京へ」が生み出せるのか、注目しています。


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