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「直接の要因と究極の要因」。読了日記『銃・病原菌・鉄 上巻』

本の紹介(すごくネタバレ)

本著の課題提起

パプアニューギニアの生物学者に著者が問われた。


「あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」

『銃・病原菌・鉄 上巻』

つまり、白人(欧米文化圏の人)はタイトルの通り、鉄製の武器や銃を発明してきた。その技術力で各地を植民地にしてきた歴史を持っている。では、ニューギニアの人々は劣っているのか。答えは否であること。著者はこの生物学者と会話をして確信している。

つまり、民族ごとの大きな知的能力の差はない。にも関わらず、何故ヨーロッパが世界の覇権を握り、各地が支配されるという大きな差が産まれたのか。地域差が発生したのか。この問いの答えをまとめたのが本著である。

問いの答え
タイトルの通り、直接の要因は「銃を欧州の人々は所有し、自分たちが免疫力をもつ病原菌を他地域に持ち込み、鉄製の武器などの技術差で支配ができたからである。」
しかし、本著では究極の要因としてこの理由を挙げている。それは

ユーラシア大陸が東西に広いこと

である。

何故、国ができたのか。何故ユーラシアの多くの地域で農業が盛んになったのか。何故、家畜がユーラシアに多いのか。何故、病原菌はヨーロッパからアメリカに持ち込まれると脅威なのか。など、多くの問いを精査して答えていきながら、少しずつこの結論に繋がっていく。東西に広いから同じ作物が一気に拡大していき、狩猟採集から定住へ、定住し村へ、村が国へ。という変遷を凄まじいスピードで起きる。だから、人口も増え、余剰で支配者が生まれ、対立する過程で技術が発展していく。

要因は幾多もあるが、東西ではなく縦に広い、アフリカ、南北アメリカでは農業の拡大は気候条件が異なるため難しかったのだ。地政学的な影響を受けに受けた結果、ここまで世界のパワーバランスは異なった。そして現在までの歴史に繋がった。

感想

1つ1つの事象が精査され丁寧に触れられている。例えば、農業1つとっても、栽培可能作物が全部で地球上に何種類あって、その中でも人類が栽培したのは何種類しかない。というような具体的なアプローチがあり、丁寧だが、結果としてすごく冗長でやや読み飛ばしてしまった。

ただ、訴え方がすごくいい。作物の病原菌も目的は「種の保存」であることを前提に著者は病原菌の視点でどのように種を保存するかを説明する。病原菌の生存戦略がヨーロッパの支配に繋がるのだ。このあたりの見方考え方は社会的には面白さを感じる。

中学社会の先生は読むべきだと思う。地理にも、歴史にも、公民にも使える内容。教師側の社会的事象の見方も変わる一冊。


印象に残った本文

結論をまとめると、ピサロが皇帝アタワルパを捕虜にできた要因こそ、まさにヨーロッパ人が新世界を植民地化できた直接の要因である。アメリカ先住民がヨーロッパを植民地化したのではなく、ヨーロッパ人が新世界を植民地化したことの直接の要因がまさにそこにあったのである。ピサロを成功に導いた直接の要因は、銃器・鉄製の武器、そして騎馬などにもとづく軍事技術、ユーラシアの風土病・伝染病に対する免疫、ヨーロッパの航海技術、ヨーロッパ国家の集権的な政治機構、そして文字を持っていたことである。

『銃・病原菌・鉄 上巻』

植物栽培と家畜飼育の開始は、より多くの食料が手に入るようになることを意味した。そしてそれは、人口が稠密化することを意味した。植物栽培と家畜飼育の結果として生まれる余剰食料の存在、また地域によってはそれを運べる動物の存在が、定住的で、集権的であり、社会的に階層化された複雑な経済的構造を有する技術革新的な社会の誕生の前提条件だったのである。したがって、栽培できる植物や飼育できる家畜を手に入れることができたことが、帝国という政治形態がユーラシア大陸で最初に出現したことの根本的な要因である。また、読み書きの能力や鉄器の製造技術がユーラシア大陸で最初に発達したことの根本的な要因である。他の大陸では、帝国も読み書きの能力も、そして鉄器の製造技術も、その後になるまで発達しなかった。あるいはまったく発達しなかった。その根本的な要因もまたここにある。次章以降では、食料生産と征服の関係において、馬やラクダの軍事的利用と、家畜から人間にうつった病原菌の殺傷力について考察していく。

『銃・病原菌・鉄 上巻』


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